七国春秋
弥生遼
黄昏の泉
黄昏の泉~1~
中原といわれる世界。
かつてそこには『災厄』が存在していたという。
『災厄』がどのようなものであったのか?今となっては定かではない。
ある者は民を苦しめた悪逆の王であったと言い、またある者は異形の化け物であったと語る。あるいは天地が崩壊するような災害であったと書かれた書物もあった。しかし、そのどれもが明確な確証などなく、今もって判明していない。
その『災厄』を鎮めた者がいた。英雄、義舜である。
義舜は『災厄』を鎮めると、これに協力した七人の仲間にそれぞれ神器と領土を与えた。
『神器を奉り、民を愛して領土を治めよ。我は界央の宮殿にて祭事を行い、諸君らが大過なく治世を続ければ、中原は永久に繁栄し、安寧な世界となるであろう』
義舜は中原の中心に築かれた界央の宮殿において義王朝を打ち立てた。七人の仲間達はそれぞれの封土に向かい、国を興した。
即ち、印、泉、龍、静、斎、翼、界の七国である。この七国はよく治まり、中原は平穏となった。
それから五百年余り。
各国では幾度も乱が起こり、義舜が望んだ安寧な世界は過去のものとなり、神話上の夢物語となっていた。
泉国もまた乱が勃発し、民草の生活は塗炭の苦しみの中にあった。
義王朝五四〇年。泉国から物語は始まる。
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