いせきはっけん

 木漏れ日が差し込む朝方、苔の生えた石畳の上を歩く影が五つあった。

 その中を進む大柄な男性が、赤ら髪の女性に話しかけた。


「シェキ姉、ほんとに行くのかよー? きっといいこと無いよ、盗掘なんて」

「うるさーい愚弟! こちとら少しでも稼がにゃならんのじゃい! パキパキ歩け!」


 快活な雰囲気でまくし立てるのはシェキナという女、自称トレジャーハンター。いわゆる盗賊である。

 彼女の圧をまんまと受けているのが実の弟である、グレイ。昔より鍛え上げた剣舞を得意とする戦士だ。


「その辺にしとけよー、喧嘩したまま戦闘なんておっかねえったら無い」

「はーい」

「はいよー」


 諌めたのはグレイよりさらに大柄な男、深い青色のローブに荷物入れを斜めがけして、まがりくねった杖を握る姿は誰がどう見ても魔術師の姿だった。


「父さんも止め方が弱いよ、もっと強く言わなきゃ。今回はお母さんもいないんだしさ」

「……けどあいつがどうしてもって言うんだし」

「お父さんはほんとにシェキ姉に弱いねー」


 話しかけるのは二人の女性。片方はスラッとしたスタイルの女戦士、もう一方は藍色のオーバーオールの上から緑色のポシェットをぶら下げたふんわりとした雰囲気の女性。

 メーアーとピリ。二人も姉妹である。そして父さんと呼ばれるのがジェイブ。

 そう、彼らは全員アリアン家の者であり、名字そのまま「アリアン冒険団」の団員たちだ。

 団長を父親のジェイブが努め、あらゆる仕事、傭兵業、人助け、人探し。家族特有のチームワークとまさにアットホームな雰囲気から、街でも人気のある何でも屋だ。

 ピリが心配そうな顔をしてジェイブに話しかける。


「けどお母さんも大丈夫かな、直ぐに治るといいけど」

「ヒーサ……、ヒーサ、うおおおお!」

「父さんうるさい! ただの捻挫なんだから大丈夫に決まってるでしょ!」


 シェキナが叱責する。彼らの母親であるヒーサも団員であり、熟練のヒーラーである。つい先日、ふとした拍子に足をくじいたので今回は家で休んでいる。


「まあお手製のお守りもあるし、これを母さんだと思って……」

「グレイも死んだみたいに言うな!」


 アリアン家はネガティブな男衆を、女性組が引っ張る風景が多々見られる。普段はヒーサがそれをうまくまとめるのだが、今回はいないので長女のメーアーと末妹のピリは傍観気味だ。


「このやり取りももう見れなくなるんだよね……」

「そう……、だな」


 ピリがこぼす。それに対しメーアーの顔はすぐれない。


「メア姉、悲しまないで」

「だって、だってだな……!」


 ぷるぷると震えるメーアーは上を向いて吠える。


「なんで妹に先を越されにゃならんのだあ!」

「姉さんが色好みし過ぎなんだよ」


 グレイがつっこむ。今回の旅の発起人はシェキナ。理由は彼女の独立資金である。それも一人ではなく、生涯のパートナーを伴ってのことだ。

 そう、シェキナは結婚したのだ。


「色好みなんてしてない! 来る男来る男みんなダメ男ばっかりなんだよ!」

「男の人を見る目無いよね、メア姉」


 ピリの容赦ない一撃がメーアーに深いダメージを与える。

 のんきな空気の中、石畳の先に建造物が見えてきた。


「うわあボロボロだ」


 グレイのひと目見た感想。


「ほんとにこんなとこにお宝あるの?」

「ある! はず!」


 自信があるような、ないようなシェキナ。ここは数百年前にあったという神殿の跡地である。森の奥深くにあり、わずかに残ったかつてこの辺りに街があった痕跡、石畳だけが手がかりだった。

 街で飲んだくれから仕入れた情報であり、シェキナ以外は半信半疑、やや疑い寄りである。


「けどどの辺が神殿?」

「柱しか無いな」


 ジェイブが言う。確かに建築物と言えるのはかすかに残った、背丈より低い壊れた石壁と建物を支えていたであろう太い石柱だけだ。


「いやいやいや、こーいうところにこそお宝は眠っているものさ!」


 張り切るシェキナ。気合を入れて始まった旅には結構な資金が注ぎ込まれていた、手ぶらでは帰れない。


「みんなよーく探してよ! きっとどこかに秘密の扉が……」

「それをするのが姉さんの仕事じゃ……」


 不満を述べたグレイの頭に木の実が飛んできた。


 そうこうして調査すること数十分、一向に何かが見つかる気配はない。


「うー……、うー……」

「疲れたー、ご飯食べたーい」

「だめ! ご飯は入り口見つけてから!」


 シェキナが発破をかけるが、ピリはすでにやる気を失っている。


「だってなにもないんだもん!」

「なにもって、変わったものとかなかったの?」

「ないよ、変な像ぐらいしか……」

「像?」

「うん、あっちにあったよ」


 そう言われて向かうと、言われたとおり小さな石像が見つかった。石柱の根本にぽつんとあり、大きさは三十センチほど。


「これは……、なるほど、つまり……」


 石像を調べブツブツというシェキナ。それを興味なさげに、石壁に腰を下ろして眺めるピリ。気づけばジェイブ以外が集まってきていた。


「わかったつまりこの像は――」


 シェキナが顔を上げ、何か言おうとした瞬間。


「おーい、あったぞー」

「へ?」


 父親の気の抜けた声が響く。行ってみると、確かに地面に穴が空いていた。その下には不自然に空間がある。


「ほんとだー、よく見つけたね」

「もっと褒めてくれピリ! 傷心のお父さんを!」

「どうやって見つけたの!」


 見せ場を奪われたシェキナが迫る。うろたえながらジェイブが説明する。


「母さんのお守りを落としてな、転がったのを追いかけたら見つかった」

「お母さんのおかげだね」


 グレイの言葉にそうだと胸を張るジェイブ。やるせなさに肩を落とすシェキナだが、気を取り直して姿勢を正す。


「もういい! 行くよ!」

「「おー!」」


 全員で腕を突き上げ、アリアン家のダンジョン攻略が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る