説明せよ

第1話

　ｕ778。

　現在地はどこだ。

　説明せよ。

　脳内に埋め込まれた国民証からのテレパシー通信が入った。

　日本防衛機構からの質問だ。

　答えなかったら、国民義務違反として処罰されるだろう。

　完全無視なら死罪ってところか。

　それは、きょうはちょっと勘弁して欲しいな。

　いや、もう死んじまおうかなって思いましてね、電車を終点まで乗りまして、降りると人気のないほうへとどんどん歩いたのですけど、そのうち山のようなところに行き着きまして、そのままどんどんずんずん歩いていきますと、深い森のようになってきまして、ああ、この調子ならいいかもと思ったりしまして、わき目も振らず歩いていきまして、ふと顔をあげると、もうここがどこなのかもわからない森に居たのです。

　ｕ778。

　意味不明だ。

　きちんと説明せよ。

　だから言いにくいことも含めてちゃんと説明したじゃないですか、何を聞いてるんっすか、あんたこそ馬鹿じゃないの、これがわからなかったら、もう何を言っていいのかわかりませんね。

　ｕ778。

　意味不明。意味不明。

　指定コード外の説明により、監視ファイル下に移管した。

　ここでの説明は最重要である。

　きちんと説明できなければ、国民登録として脳内に埋め込まれているチップの破壊命令が下ることとなる。

　そのことをよく理解した上で、説明するように。

　だから、何を説明しろっていうのさ、こういうのが嫌で、俺は死のうかと考えたのよ、尊厳死って言うのかな、今、それが間違いだったって分ったけどよ、死ぬなんて問題の永遠な先送りでしかないわな、いまさらこんなことに気づいてもって感じだけど、それでもなんだよいきなり、何が破壊命令だよ、俺の脳みそぶっ飛ばして、それであんたらになんか得があんのかよ。

　ｕ778。

　意味不明。意味不明。

　説明せよ。説明せよ。

　残された時間は3秒。

　3秒ってなんだよ、もう無理じゃん、ああ、つまらん人生やったな、いや、それなりには一生懸命生きてはきたがね、何かを成し遂げたわけでもないし、友だちに囲まれたしあわせな人生でもなかったし、愛する人とともに家庭を築いたわけでもないけど、ああ、こんなんで死ぬなんてやっぱり嫌だな、嫌だよ、嫌だよ、やっぱり、嫌。

　もういいや。

　嘘八百言ってやる。

　渋谷の109前です。

　ｕ778。

　了解した。

　非常事態モードを解除する。

　楽しい休日となることを祈る。

　えっ。

　これでいいのか？