思惑飛び交うランチタイム
「いっただっきまーす」
トシヤはマサオの願いも虚しくピザに手を付けようとし、それを見たマサオが「うっ」と声にならない声を上げ、その目から光が消えた。
「なんだよ、マサオ。変な声出しやがって……って、おお、そっか」
トシヤはマサオの意を汲んだのか、伸ばした手の向きをピザから焼きそばに変更した。それを受けてマサオの目に光が戻った。だが、続くトシヤの言葉でまた落胆する事となった。
「ほらよ、焼きそばが食いたいんなら素直に言えよ。さ、一緒に食おうぜ」
トシヤは事もあろうにハルカで無くマサオをシェアの相手に選んだのだ。もっともいくら良い感じだと言ってもトシヤはまだハルカに告白していないのだから当然と言えば当然なのだけれども……マサオは死んだ魚の目をしながらトシヤとの間に置かれた焼きそばに箸を付けた。
死んだ魚の目で焼きそばを突っつくマサオの横でトシヤも焼きそばを突っついていたのだが、実はトシヤはトシヤで少しばかり困った事になってしまっていた。
丸テーブルでトシヤの右隣にはハルカ、左隣にはマサオが座っている。という事は、ルナが座っているのは必然的にトシヤの正面という事になるのだ。
ルナが正面に座ることによってトシヤが何故『少しばかり困った事』になるのか? 答えは簡単、トシヤの正面にルナが座っているという事は、ルナの見事に育った胸がトシヤの正面にあるという事、しかも今ルナは水着姿(ルナだけでは無いが)なのだ。
サイクルジャージ姿でもルナの胸の存在感は絶大だ。それが水着姿となると…… しかもテーブルの直径は90センチといったところだから、トシヤとルナの胸との距離は1メートル弱だ。これで気にならないわけが無い。かと言ってガン見するわけにもいかない。トシヤは葛藤しながら黙々と焼きそばを突っつき続けた。
「ねぇ、トシヤ君」
言いながらハルカがトシヤの背中をちょんちょんと突っついた。そう、トシヤとマサオの間に焼きそばがあるという事は、それを食べている時、トシヤはハルカに背を向けてしまう事になるのだ。それが気に入らないのだろう、唇を尖らせ、拗ねた目をしている。振り返ってそれに気付いたトシヤはマサオとシェアしていた焼きそばを放棄し、ピザに手を伸ばした。
「はい、ハルカちゃん。一緒に食べようか」
トシヤの一言でハルカの拗ねた目が和らぎ、口元には笑みが浮かんだ。
それにしてもハルカも可愛らしくなったもので、トシヤと出会った時のツンツンっぷりがまるで嘘の様だ。これも夏の魔力、そしてプールという開放的な場所の効果だろうか?
もっとも出会った時にハルカがトシヤの事を警戒したのはごく当たり前の事で、寧ろ最初っからフレンドリーだったルナの方が無防備と言うか恐れを知らないと言うか何と言うか……年頃の女の子なのだから少しは警戒心を持った方が良いと思うのだがどうだろう? 世の中、全ての男がトシヤの様に人畜無害だとは限らないのだから。
それはともかく仲良さげにピザを食べるトシヤとハルカ。これでまだ恋人同士では無いというのだからこの二人にも困ったものだ。ハルカがここまでわかりやすい態度に出ているのだからトシヤも早く告白すれば良いのに……
それはともかくそんなトシヤとハルカを心の底から羨ましく思ったマサオは思い切った行動に出た。
「はい、ルナ先輩。俺達も一緒に食べましょうか」
一つの品を二人で一緒に食べようと誘った根性は買おう。だがしかし一つ問題がある。それはマサオがルナとの間にピザでは無く焼きそばを置いた事だ。
――コイツ、どんだけ焼きそば食べたいんだよ!? ――
トシヤがそう思ったがどうかは定かでは無いが、問題はソコでは無い。トシヤとマサオは男同士なので直箸で一つの焼きそばを突っつき合えたが、ルナは女の子だ。彼氏でも無い男子と直箸なんて嫌がるのではないかと考えなかったのだろうか?
いや、実はマサオはそれを重々承知の上で賭けに出たのだった。ルナがこの申し出を快諾してくれればマサオには明るい未来が開ける。
ドキドキしながらルナの一挙一動を伺うマサオ。さて、ルナはどう動くのか……?
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