楽しい夏休みの前には苦しい期末試験が
期末試験が始まった。試験直前までヒルクライムに勤しんでいたトシヤ達だ、当然普段から勉強しているので試験前に慌てる事など無いのだろう……などと思ったら大間違いだ。
「トシヤ、お前どうだった?」
期末試験初日の一時間目が終わったばかりだというのにマサオが悲愴な顔でトシヤに尋ねた。
「ああ、まあまあってトコだな。お前は……って、その顔見りゃ聞くまでも無いか」
ちなみに今日の一時間目は英語の試験だった。英語なんてのは、単語と熟語を覚えておけばある程度なんとかなるものなのだが、マサオはそれすらもダメだった様だ。
「はあ~~~~っ、選択問題で奇跡が起こる事を祈るしか無いな」
肩を落として言うマサオだが、周囲でも似た様な声が上がっている。それを聞いたトシヤはマサオを慰めようとした。
「まあ、結構難しかったみたいだから、平均点が低けりゃ助かるんじゃないか?」
トシヤ達が通う七尾高校では平均点の半分未満は赤点だ。正直そんなに高く無いハードルだと思うのだが、マサオはその高く無いハードルを越えられずに赤点の危機に瀕しているのだ。
「とか言ってよ、『まあまあ』って、お前が平均点上げてんじゃねぇかよ!」
マサオが言うが、なんとまあレベルの低い話なのだろう。そしてこのレベルの低い話をトシヤは試験期間中、毎日の様に聞かされる事になるのだ。
「過ぎちまった事は悔やんでも仕方無い。次は日本史だ、今からちょっとでも教科書覚えとけよ」
トシヤが苦笑いしながら言った。日本史こそ記憶が全て(選択問題の運も少しはあるが)だ。最後の悪あがきを勧めたのだが、マサオはそんなタマでは無い。
「いや、今から覚えられる事なんてしれてる。ココは俺の頭よりハードディスクに記憶させた方がカタいな」
言うとマサオは日本史の教科書を開くと机に書き写し出した。
「お前、それ、ハードディスクじゃなくてデスクだろうが!」
「デカい声出すな! バレちまうだろーが!」
呆れた声を上げたトシヤにマサオがもっと大きな声で言い返すが、周囲ではマサオと同様デスクトップ(机の天板とも言う)に教科書の内容をインプットしている男子が何人も居たのは言うまでも無いだろう。
マサオは疲労困憊、トシヤは余裕綽々の表情で期末試験一日目を終えた。
「お前、初日からそんなんで大丈夫か? カンニングしてるのバレたらただじゃ済まんぞ」
心配そうに言うトシヤにマサオは大胆な発言をした。
「ただじゃ済まんったって、補習と追試受けさせられるだけだろ? どーせ普通に試験受けても赤点で補習と追試は免れないんだから、カンニングした方がワンチャンあるじゃねーか」
身も蓋もない事を言うマサオにトシヤは呆れるばかりだが、呆れてばかりもいられない。
「でもな、補習と追試受けるって事は夏休みに学校出なきゃならないって事だぞ。ロードバイク乗れる時間が減っちまうぞ」
ロードバイクに乗る時間が減る事は、ルナと会う機会が減るという事だ。さすがのマサオもこれには難色を示した。
「うぬぅ……それはマズいな……」
「だろ? だから今日は帰ったらちゃんと勉強しろよな」
諭す様に言うトシヤにマサオはただ黙って頷くしか無かった。
*
そんな日が数日続き、やっと期末試験が終わった。これで夏休みまであと数日の授業を残すばかりとなったのだが、この数日が問題だ。そう、答案返却、ジャッジメントが下されるのだ。幸いにもマサオのカンニングは発覚しなかったが、もし赤点なら補習&追試で夏休みが大幅に削られてしまう。
「お前、大丈夫かよ?」
トシヤがマサオに不安気に言うが、マサオはすっきりした顔で笑った。
「ああ。やるだけの事はやったからな。今更どーのこーの言ったってしょーがねぇ」
『やるだけの事はやった』ねぇ……トシヤの頭に一抹の不安が過ぎったが、確かにマサオの言う通り今更どうする事も出来無い。もうなる様にしかならないのだ。
「それよりな、いつ渋山峠上りに行く?」
突然マサオが言い出した。期末試験中、ロードバイクに乗れなかった鬱憤が溜まっているのだろうか? まあ、それもあるだろうが、マサオにはもっと大きな理由があるのだ。
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