第69話 デザイン案完成! ~オリジナルジャージを作ろう! 3~

 数分後、マサオがドヤ顔でレポート用紙を突き出した。


「これでどうだ?」


 赤と黒でエキセントリックに塗り分けられた地に『HILL CLIMB LOVERS』の白い文字が踊っている。もちろんこの『赤と黒』の塗り分けは自分の愛車ピナレロプリンスのイメージなのだろう。当然の様にハルカが噛み付いた。


「何よ、そんなの女の子が着るジャージじゃ無いわよ。こっちの方が可愛いわよ!」


 ハルカの描いたネコのイラスト入りジャージにマサオが思いっきり拒絶反応を示した。


「いや、それこそ男が着るジャージじゃ無いだろ。だいたいトレックって……それ、ハルカちゃんのエモンダじゃないか」


「そーゆーマサオ君の赤/黒だって、プリンスのカラーリングでしょ! まったく自分の事しか考えて無いんだから……」


 いや、自分の愛車をイラストにしたハルカちゃんがそれを言っちゃいますか? トシヤは思ったが、下手に口出ししてとばっちりを受けるのは避けたいところだ。


「うーん、どっちも良いんだけど、マサオの言う通りハルカちゃんのは俺とマサオが着るには可愛過ぎるかな。かと言ってマサオのも、ハルカちゃんの言う通り女の子が着るには勇まし過ぎるね」


 マサオとハルカ、二人の言い分を認めている様だが結果としては二人のデザインを否定する事になってしまったトシヤにマサオが言った。


「じゃあ。トシヤは素晴らしいデザインを考えてくれたんだろうな?」


 残念ながらトシヤのデザインもマサオのと似たりよったりだ。口篭ってしまったトシヤにルナから助け舟が出された。


「まあまあ、ハルカちゃんもマサオ君も落ち着いて。皆が着るジャージなんだから、皆で意見を出し合わないとね。マサオ君のも格好良いし、ハルカちゃんのも可愛いから上手くデザインを組み合わせる事は出来無いかしら?」


 トシヤとマサオにとっての問題はネコのイラストが可愛過ぎる事だ。これはネコの顔を変えてやれば戦闘機の尾翼マーク風に見え無い事も無い。そしてハルカにとっての問題は赤と黒のカラーリングだ。これは塗り分けパターンはそのままに、配色を変えてやればクリア出来る事だ。


 ルナの提案によりハルカのイラストに手が加えられてネコの顔がコミカルながらも少し凛々しくなり、マサオ考案のカラーリングは黒/赤のド派手なものからから白/水色の爽やかなものへと変更された。


「なかなか良いんじゃない?」


「そうだな、素人が考えたにしちゃ上出来だ」


 ハルカとマサオが満足げに言った。自画自賛とはまさにこの事だ。何しろこのデザインはほとんどこの二人でした様なもので、ルナは少しだけ意見を言ったがトシヤは何もしていないのだから。


「んじゃ、後はコイツを清書して送るだけだな」


 マサオがすっかり温くなってしまったアイスコーヒーをストローでズルズルと音を立てて飲み干すと、ハルカが声を上げた。


「あっ、もうこんな時間じゃない。そろそろ帰んないと!」


 夢中になっていると時間が経つのは早いものでジャージのデザインを巡ってあーだこーだとやっているうちに時計の梁は五時を回っていた。


「そうね。じゃあハルカちゃん、家で清書して明日持ってきてもらえるかな? ネコの絵を描けるの、ハルカちゃんだけだし」


 ルナの言葉にハルカは大きく頷き、今日は解散という事になったのだが、マサオが「これで明日、学校でルナと話をする大義名分が出来た」と内心喜んだのは言うまでもなかろう。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る