第63話 クレーンゲームが上手いからと言って女の子にモテるわけでは無いと思うんだが
ハルカを先頭にレディースファッションのフロアをブラブラする四人だったが、一時間もしないうちにハルカが飽きてしまった様だ。そもそもこのフロアをブラブラしているのはマサオの『女の子と一緒なんだから、ココはやっぱりファッション関係だろ』という思い込みによるものでしか無いし、ルナはともかく元来ボーイッシュなハルカはウィンドウショッピングに然程執着は無い様だ。
そうなると困ったのはマサオだ。昼ご飯まではレディースファッションのフロアをぶらぶらして過ごすつもりが、時計を見るとまだ十一時過ぎだ。これが十一時半を回っていたら「ちょっと早いけど、混まないうちにお昼にしようか」などと言えるのだが、この時間だと、さすがにランチはちょっと早いだろう。
さてどうする? 幸いこのショッピングモールの最上階は劇場だ。やはり映画を見に行くか? だが、今から行ったところで映画は既に始まっているに違い無い。悩むマサオにルナが言った。
「そんなに難しく考えなくても良いのよ。言ったでしょ、普段通りで良いって」
するとハルカはマサオに辛辣な言葉を浴びせた。
「そうよ。無理して格好付けたい気持ちはわかるけど、そんなの期待して無いから」
見事に腹を見透かされたマサオがぐうの音も出せずにいると、トシヤが言いにくそうに言った。
「じゃあさ、ゲーセンなんかでも大丈夫?」
ゲーセンと聞いてハルカの目が輝いた。
「うん、ゲームセンター行きたい!」
何の事は無い、最初っからそうしていれば良かったのだ。考えてみれば、ちょっと前のアホッケー対決でトシヤとマサオの出る幕が無かった程の腕前をルナとハルカは持っているのだから。
「よし、じゃあまたエアホッケーで対戦するか? 今日はこの間みたいにはいかないぜ」
マサオが鼻息を荒くして言うが、ハルカは笑いながら言った。
「うーん、今日はエアホッケーは遠慮しとこうかな。またこの間みたいになるのも悪いしね」
えらい言われようだが、認めざるを得ない。またしてもマサオがぐうの音も出せずにいると、ルナが苦笑いしながら呟いた。
「あの時はボウリングで恥ずかしいところを見せちゃったから熱くなっちゃって……ごめんなさいね」
恥ずかしそうに謝るルナをマサオは可愛いなと思いながら言った。
「いえいえ、熱くなるルナ先輩も格好良かったですよ」
マサオとしては褒めたつもりだったのだがルナにとっては慰めにしか聞こえず、深い溜息を吐いた。普段は見せないルナの憂いを含んだ表情に、マサオは思わず言ってしまった。
「そんな顔しないで下さいよ。俺、ルナ先輩の笑顔を見ていたいっす」
もちろんその言葉は嘘偽り無いマサオの本心だ。だが、口に出して言うにはとても恥ずかしい言葉でもある。「しまった」というばかりに目を伏せたマサオにルナが恥ずかしそうに言った。
「そう、ありがとう」
ルナの声にマサオが伏せていた目を上げると、そこには少し頬を赤らめたルナの笑顔があった。その笑顔はマサオの心にクリティカルヒットし、マサオは危うく「好きです」と口走ってしまうところだった。
二階のレディースファッションフロアからエスカレーターで五階に上がったトシヤ達、目指すはこのフロアの奥にあるゲームセンターだ。以前にも来た事があるのだろう、ハルカは迷う事も無く進み、すぐにゲームセンターに到着した。
ここでまた考えどころだ。トシヤとマサオの二人なら、真っ直ぐにアーケードゲームのコーナーに向かい、シューティングやレースゲームで勝負するのだが、今はハルカとルナも一緒なのだからそういうわけにも行かない。さて、どうするか? 一瞬考えたマサオだったが、その必要は無かった。ハルカはゲームセンターの入口付近に並んだクレーンゲームに目を輝かせていたのだ。
「ハルカちゃん、何か取って欲しいのある?」
早速マサオがそれに反応した。どうせルナに良いところを見せたいのだろう。するとハルカは大きく頷いて一台の筐体を指差した。
「コレ! コレ欲しい!」
遠慮など微塵も感じさせないで言うハルカにトシヤは苦笑し、マサオは「どれどれ……」とその筐体の中のプライズに目をやると、そこには大きなクマのぬいぐるみが鎮座していた。
「うわっ、でかっ! ハルカちゃん、コイツは厳しいんじゃないか?」
クレーンゲームのプライズの取り方には色々と方法があるが、おそらくこの大きなぬいぐるみだと正攻法、アームで掴んで吊り上げるのは厳しそうだ。となるとアームでプッシュしてチマチマと移動させて落とすしか無い。後は懐がもつがどうかだ。だがマサオの頭は高速回転を始めた。その結果
「よし、まかせとけ」
マサオはポケットから財布を取り出すと両替機へと向かい、ポケットをジャラジャラ言わせながら戻ってきた。
「おいおいマサオ……お前、いったいいくら両替したんだよ?」
呆れた声で尋ねるトシヤにマサオは軽く答えた。
「ん? 三千円だが、それがどうかしたか?」
マサオはルナの前で良い格好をする為ならハルカにぬいぐるみを取ってやるのに三千円つぎ込んでも惜しくないと考えたのだ。もちろん三千円でぬいぐるみが取れる保証は無いのだが……
「見てろよ、ハルカちゃん」
言いながら機械に向かうマサオだが、意識はルナに向いている事は言うまでも無かろう。張り切ってクレーンを操るマサオだったが、物事はそう簡単には運ばない。あっという間に両替した小銭の半分以上が機械に吸い込まれてしまったが、ぬいぐるみが落ちるにはまだまだかかりそうだ。
「マサオ……お前、クレーンゲームの才能無いぞ。諦めた方が良いんじゃないか?」
見るに見かねたトシヤが言うが、マサオは頑として諦めようとしない。
「……っかしいな。動画じゃこんな風にやって簡単に取ってたんだけどな……」
確かにネットには大きなプライズをいとも簡単にゲットする方法を紹介している動画が落ちている。しかし、それをマネしたところで皆が皆上手く出来るとは限らない。マサオのポケットの小銭が底を尽きかけた時、ハルカが言った。
「一回私にやらせてみてよ!」
マサオはその声に筐体から手を離した。
「ああ、やってみなよ。でも、まだまだかかりそうだからもう一回両替して来るわ」
言うとマサオは残った小銭を全て投入し、両替機に向かった。
「くっそー、こんな難しいとは思わなかったぜ……」
ブツブツ言いながら千円札を二枚両替機に入れ、吐き出された小銭をポケットにトシヤ達のところへと戻ったマサオは信じられない光景を目にした。ハルカがプライズの取り出し口に手を入れていたのだ。
「マサオ君、取れたよー」
ハルカが戻ってきたマサオに大きなクマのぬいぐるみを手に嬉しそうに言うと、トシヤは冷めた口調で言った。
「ハルカちゃんが普通に掴んだら一発で取れたじゃんかよ」
「いや……それだけデカいプライズだと、アームの強さが……」
半ば方針状態で言うマサオにトシヤは更に辛辣な言葉を浴びせた。
「何が『アームの強さが……』だ、めっちゃ強かったわ!」
せめて一回でもアームの強さを確認しておけば……猛烈に後悔するマサオだったが、今となってはどうしようも無い。それに最近のクレーンゲームだと、入れた金額の累計によってアームの強さが変化するなんてモノもあるらしいが、今更何を言っても言い訳にしかならない。
「そうか……良かったな、ハルカちゃん」
そう言うのが精一杯なマサオだった。
大きなクマのぬいぐるみが取れたので店員を呼び、クレジットに残った分を返金してもらったマサオのポケットがまた小銭で一杯になった。だが、実はそれはマサオの計算の内だった。その計算とは『小銭を余らせたのを口実にルナとプリクラを撮る』という事だ。もっとも合計で五千円分も両替したのは計算外だったが。
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