第62話 ハルカのセクシー攻撃?

 ショッピングモールに着いたトシヤ達。トシヤとマサオの二人なら、真っ先にゲームセンター、今風に言うとアミューズメント施設に向かうところなのだが、女の子連れで朝一からゲーセン直行というのもどうかと思ったトシヤはハルカに尋ねた。


「ハルカちゃん、ドコか行きたいお店とか無い?」


 するとハルカが答える前にマサオが呆れた声を上げた。


「トシヤ……お前、何言ってんだよ。こういう時こそ男がバシっとエスコートしなきゃダメだろうが」


 随分わかった様な事を言うものだが、コイツ大丈夫か? そんな目でトシヤがマサオを見ていると、マサオは大胆にも言い切った。


「女の子と一緒なんだから、ココはやっぱりファッション関係だろ」


 確かに女の子は洋服や靴、アクセサリー等を見て歩くのが好きだ。だが、それはあくまで女の子同士、或いは彼氏と一緒の場合だ。ハルカとトシヤはお互いに好意を抱きながらも一歩踏み出せずにいるし、ルナとマサオに関してはマサオが一方的に好意を抱いているだけだ。こんな面子で女の子がウィンドウショッピングなど出来るものだろうか? だが、彼女居ない歴=年齢のトシヤ(マサオもそうなのだが)はマサオの自身満々な口振りに乗せられてしまった。


「そっか。じゃあ、行こうか」


 トシヤは先頭に立ってエスカレーターに乗り、レディースファッションのフロアである二階を目指した。



 レディースファッションのフロアなど素通りする場所でしか無かったトシヤとマサオにとってそこは衝撃的なフロアだった。そこには服やアクセサリーのショップだけで無く、下着の専門店も入っていたのだ。色取り取りの下着がこれでもかとばかりに並べられている情景にトシヤは目のやり場に困ってしまった。


 そんなトシヤを見て、ハルカの悪戯心に火が点いた。


「トシヤ君、ちょっとあのお店覗いても良いかしら?」


 やり場に困り、泳いでいたトシヤの目がハルカの顔で止まった。ハルカはにっこりと微笑むと、トシヤの目の前で一枚の下着を手に取った。それは薄い紫色でレースが全体的にあしらわれた、ボーイッシュなハルカのイメージからかけ離れたセクシーなモノだった。


「ちょっ……ハルカちゃ……」


 ハルカの大胆な行動に思わずトシヤが声を上げた。するとハルカは楽しそうにもう一枚、やはりレースがふんだんに使われた、赤いセクシーな下着を手に取った。


「こっちの方が可愛いかなー? トシヤ君はどう思う?」


 二枚のセクシーな下着を手にして尋ねるハルカをトシヤはとても直視する事が出来ず、目を逸らして俯いてしまった。もちろん顔は赤くなっている事は言うまでも無い。それに対し、マサオはハルカの顔とハルカが手にしている二枚の下着をガン見している。顔には出してはいないが、おそらく不埒な事を想像しているに違い無い。すぐ近くに本命のルナが居るというのに、男というのは悲しい生き物だ……いや、マサオが残念なだけなのだろう。


「ハルカちゃん、トシヤ君が困ってるわよ」


 ここでルナから助け舟が出た。ハルカは手にしていた二枚の下着を棚に戻すとトシヤに微笑みかけた。


「ふふっ、ごめんなさい。ちょっとからかい過ぎちゃったかしら」


「まったく……勘弁してくれよ……」


 トシヤは目を逸らしながらもハルカの顔とハルカが手にした下着をチラチラと見比べていた。おそらくトシヤもマサオと同様、不埒な事を考えていたに違い無い。やはり男というのは悲しい生き物だ。まあ、ガン見していなかっただけマサオよりはマシだが。


 ともあれ四人は下着の専門店を後にしたのだが、トシヤは心ここに在らずといった感じで歩いている。


「あっ、このTシャツ可愛い!」


 ハルカが一軒のショップの前で声を上げるが、トシヤは完全に上の空だった。そんなトシヤを見てハルカは不思議そうに尋ねた。


「トシヤ君、どうしたの?」


 どうしたも何もトシヤはハルカの下着姿を想像して、ぼーっとしてしまっていたのだ。もちろんトシヤの頭の中のハルカはセクシーな下着を着けているのは言うまでも無い。だが、そんな事を考えていた事をハルカに知られるワケにはいかない。


「いや、何でも無いよ。こんなトコに来たの、初めてだからぼーっとしちゃって」


 トシヤは誤魔化す様に言ったが、そんな言い訳が通用する筈も無く、ハルカはニヤリと笑った。


「どうせエッチな事でも考えてたんでしょ、私のセクシーな下着姿とか」


 ピンポイントで言い当てられてしまった。ハルカが不思議そうな顔をしたのも恐らくフェイクだったのだろう。耳まで赤くなってしまったトシヤにハルカは呆れた顔で言った。


「私があんな派手な下着なんて着けるワケ無いじゃない」


 その言葉を聞いた途端、トシヤの頭からセクシーな下着を着けたハルカの姿が霧散した。


「そ……そうなんだ。知らなかったよ」


 思いっきり間抜けな返事をしてしまったトシヤ。それはそうだろう、知っていればそれはそれで問題だ。だが、間抜けな返事とは言え、コレはコレで正解だったかもしれない。もし、トチ狂った返事、例えば「そうだよね」とか「だと思ったよ」などと言った日にはハルカの自尊心を傷付け、怒らせていたに違い無い。そんなトシヤの耳元で、ハルカがそっと囁いた。


「私はもっと可愛いのを着けてるわよ」


 恐ろしく大胆な発言の後、ハルカはすぐに歩き出したが、トシヤは完全に言葉を失って立ち竦んでしまった。マサオはトシヤがハルカに何を言われたか気になった様で必死に聞き出そうとするが、トシヤが答えられる筈が無い。


「何でも無ぇよ」


 トシヤは一言の下にマサオの詰問を切り捨てると、スタスタとハルカの後を追って歩き出した。その後をマサオが追い、更にルナが微笑ましい顔で続いた。いつものロードバイクで走る順番通りに。





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