第50話 ルナって呪われてるんじゃないか?
2フレーム目の第一投はトシヤだ。現時点で倒したピンの数は互いに10本とイーブンだが、ハルカとトシヤはストライク、ルナとマサオはスペアとアドバンテージはハルカとトシヤにある。トシヤは気負うこと無く投球、8本のピンを倒し、続いてハルカが見事にスペアを取った。次に投げるのはマサオだ。ストライクの場合は次のフレームの二投分のスコアが加算されるが、スペアを取った場合は次のフレームの一投目のスコアだけが加算される。この一投は今後の展開を左右する大事な一投だ。
マサオは深呼吸すると、思いっきりボールを投げた。スピンも何も考えない力任せの投球だが、真っ直ぐに転がったボールは1番ピンにヒットし、その勢いで10本のピンを薙ぎ倒した。
「おおっ、やるじゃん!」
またしてもハルカが声を上げた。峠でのヘタレっぷりにマサオの事を過小評価していたハルカが驚いた目で見ていると、マサオはドヤ顔をする事も無く、当然の事かの様にさらっと言った。
「まあ、俺が本気出しゃあこんなモンよ」
だが、マサオの悪夢がここからが始まった。3フレームに入ったハルカも当たり前の様にストライクを決め、続くルナは8本のピンを倒した。だが、残ったピンは7番と10番、またしてもスプリットだ。
「ルナ先輩、ドンマイっすよ。8本も倒してくれりゃ上等っす」
マサオはさっきと同様に7番ピンの左端を狙うが、そうそう何度も上手くいく筈も無く、7番ピンの直前でマサオの投げたボールは残念にもガターに落ちてしまった。
4フレーム目はトシヤが7本、ハルカが2本と振るわずに終わりマサオにチャンスが訪れたかに思われた。マサオは気合を入れてボールを投げるが、ピンを一本残してしまった。次はルナが投げる番だ。
「ルナ先輩、ファイトっすよー」
マサオが気楽な声で言うが、ルナは頷きながらも顔を引き攣らせている。投球の結果は言うまでも無いだろう。
そんな感じでルナは一投目を投げるとスプリット、二投目ではピンを一本も倒す事が出来無いとまるで何者かに呪われているかの様だった。途中でハルカとトシヤの間でこんな会話が交わされたぐらいだ。
「ハルカちゃん、ルナ先輩がボウリング苦手だって知ってた?」
「ううん、知ってたら『ボウリングやりたい』なんて言わないわよ」
なんとか1ゲーム目が終わり、勝負は言うまでも無くハルカとトシヤのチームの圧勝に終わった。マサオとしてはリベンジを賭けて再戦を申し入れるところだが、ルナの顔を見ると、とてもそんな事を言い出せたものでは無い。と言うよりルナの顔を見る事すら偲びない雰囲気になってしまっている。
「とりあえず第一ラウンドのボウリングは俺達の負けだな。第二ラウンドはエアホッケーで勝負だ!」
沈んだ空気を変えようとしてマサオが言うと、ルナは恐縮した様子で応えた。
「でも……まだ1ゲームしかしてないのよね、皆それで良いの?」
ルナは間違い無く気を遣っている。トシヤは苦笑いを飲み込むと、頑張って微笑みを作った。
「大丈夫ですよ。まずは一勝させてもらいましたから。じゃあ、行きましょうか」
トシヤとマサオが先に立ち、その後をハルカが追い、ルナは「後輩に気を遣われた」と複雑な表情でトボトボと続いた。
ボウリングは残念な結果に終わってしまったが、果たしてエアホッケーは盛り上がるのか? 少し不安に思いつつマサオが百円玉を数枚入れると軽快な音楽と共にパックが吐き出された。
「じゃあルナ先輩、一発カマしてやって下さいよ」
マサオが言うとルナは頷いてマレットを握る手に力を込め、思いっきり打ち込んだ。
パックはマサオが驚く程のスピードで盤面を滑り、枠に跳ね返ってトシヤとハルカのゴールを襲うがハルカはいち早くそれに反応して打ち返した。
ハルカの返したパックは恐ろしいスピードで盤面を滑り、マサオとルナの陣地に戻って来るとマサオが動く間も無くルナは瞬時に、そして的確にそれを打ち返した。
後はもう、トシヤもマサオも出る幕が無かった。ルナとハルカによる壮絶なラリーの末にスピードの付き過ぎたパックは遂に枠に跳ね返ること無くゲーム台から飛び出してしまった。
「じゃあ、ハルカちゃんからどうぞ」
パックを拾い、ハルカに手渡したルナが笑顔で言うとハルカは頷いて強烈なサーブを打ち込むが、またしてもルナがマサオが動く前にそれを打ち返した。更にトシヤが動こうとした瞬間にハルカが打ち返し、激しいラリーの末にまたパックが枠を飛び越えた。
マレットを持った案山子と化したトシヤとマサオの前でハルカとルナの神がかったラリーが展開され、遂に時間切れとなったのだろう、エアの吹き出しが止まり、パックが動かなくなってしまった。
「引き分けみたいね」
「そうですね。さすがルナ先輩、動体視力ハンパ無いですね」
「ハルカちゃんだって、あの反応速度は大したものだわ」
すっきりした顔で笑い合うルナとハルカにトシヤもマサオも黙って拍手を贈るばかりだった。
なんとか楽しい雰囲気を取り戻す事に成功し、ほっとしたマサオはこの雰囲気を壊さない為に一つの決断を下した。
「残る第三ラウンド、俺は棄権する。ハルカちゃんチームの勝ちだ」
あっけなく白旗を上げたマサオにルナは驚きの声を上げた。
「マサオ君、それで良いの? あっ、もしかして私がボウリングで足を引っ張ったから勝負を投げちゃったの?」
正直マサオは次の勝負がルナ或いはハルカの苦手なゲームで、また場の雰囲気が壊れる事を懸念していたのもあったのだが、それは胸にしまい込んで笑って言った。
「いや、凄いモノ見せてもらいましたから。エアホッケーであれだけ激しく打ち合ったのにお互いゴールを許さないなんて、滅多に見られるモンじゃ無いっすよ。いやぁ、恐れ入りました」
「まったくだ。ハルカちゃんもルナ先輩も、オリンピックにエアホッケーが採用されたら日本代表になれるんじゃないですか?」
トシヤもマサオに同調する様に言った。もちろん場の空気を和ませるという狙いもあったのだが、あんなプレイを見せられたのだ。トシヤもマサオも心の底からハルカとルナに感服していた。それに気を良くしたハルカは勝ち誇った顔でマサオに言った。
「これで私達の実力がわかったかしら? まあ、その潔さに免じて罰ゲームは勘弁してあげるわ。お昼ご飯も奢ってもらった事だしね」
なんとか良い雰囲気を取り戻した四人は、軽くお茶をした後、解散する事になった。
「じゃあ、次の日曜日は私の家で作業ね。ハルカちゃん、二人を連れて来てくれるかしら?」
「わかりました。朝、10時ぐらいで良いですか?」
「うん、大丈夫。じゃあお願いね」
ハルカとルナの会話を聞き、本当にルナの家に行けるんだと実感し、少し緊張してしまうトシヤとマサオだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます