第27話 バイトを探そう

「チョンパー! チョンパ!」

「うふふ、昨日までは、暗黒街の頂点に立ってたのに……哀れですね。あなたが生涯を懸けて作った組織は一夜で壊滅ですよ。今、どんな気分ですか?」

「て、てめぇ。はぁ、はぁ、ぶち殺す。はぁ、はぁ。くそ、なんでこんな目に……」

「くふっふふ、なんですかぁ~それ? 怒りですか? 絶望ですか? はっきりしてくださいよ~」


 カミラが生首を持って走り回る。ソフィアが倒れている暗黒街のボスの傍らで悪魔の如く囁く。


 そう、俺達一行は、旅の傍ら悪党達を狩っている。旅の路銀稼ぎと、カミラの禁断症状を抑えるためだ。

 

 これまで大小合わせて二十もの犯罪組織を壊滅させた。通常、何年もかかってやっと一組織潰せるかどうかが基本の世界。我ながらなかなかのハイペースだ。賞金稼ぎとしては正しいのかもしれないが、まっとうに生きる者としては、明らかにバッテンである。

 

 やばい。とてもまずい傾向だよ。

 

 カミラが暴走し、ソフィアが煽る。逆にソフィアが煽り、カミラが暴走する。二人を引き合わせた事で、トラブルが倍増だ。

 

 こいつらは、混ぜちゃだめな奴だった。以前よりも世直しする率が高い。

 

 今日もまた街を仕切っていたギャングを壊滅させた。田舎とはいえ、数百のゴロツキを従えた中堅どころのギャングをである。警察も下手に手を出せなかったイケイケの武闘集団なのに。


「「きゃはははははは! 楽しい!!」」


 人格破綻者コンビが高らかに笑っている。

 

 うん、もうやめてやれ……。

 

 ボス涙目じゃないか。

 

 麻薬と暴力でのし上がった誰もが恐れるボスが、哀れな老人のようだ。


「ほら、もう行くぞ」

「え~もっともっと、べたい!」

「そうですよ。これから、これからが本番なんですから。とことん心の奥深くまで抉ってあげます。彼のアイデンティティーが崩壊するのは、見ものですよ♪」

「いいから来い!」


 二人の腕を掴み、強引に引っ張っていく。


「あ、あ、あ、もっとべたいのに」

「いや~ん、リーベルさんのいけず」


 二人がぶーぶー不平不満を言うが、無視だ。

 

 さっさとこの街を出よう。後の事は、警察に任せておけばよい。

 

 本来、ここまで賞金稼ぎをするつもりはなかった。

 

 だが、旅をする軍資金が足りないのだ。

 

 ソフィアは、財産を没収されて一文無し。

 

 俺は、実家からがめてきた宝石等の貴金属があったのだが、全てマリアに援助してしまった。これから孤児達を育てていくのに、いくら金があっても足りないだろうから。苦労ばかりしてきたマリアへのせめてもの餞別だ。

 

 奮発しちゃったよ。

 

 それはいい。後悔はしていない。お金は、役に立ってこそなんぼだ。この場合、マリアが使ってくれるのが、子供達の、ひいては世の中のためだ。

 

 もちろん全額援助したわけではない。ある程度現金も残していたのだが……。

 

 チラリと二人を見る。

 

 こいつらが行く先々でトラブルを引き起こすから、補填でいくらお金があっても足りはしない。賞金首を狩っていかなければ、ニッチもサッチもいかないのだ。

 

 一応実家に泣きつけば、援助はいくらでもしてもらえると思うよ。俺の家は、イカれているが、その分金は唸るほど持っている。でも、それだけはしない。俺は、そういう実家のシガラミを失くすために家を出たのだから。

 

 ただ、こんなに殺しばかりさせてたら、実家を出てきた意味がないよな~。これじゃ、両親に言ってた武者修行そのままじゃないか。とりあえず家を出るための方便が現実になってきている。

 

 くそ。これからどうしよう?

 

 カミラ達には、大人しくさせておいて俺だけ稼ぎに行くか。

 

 いや、この二人から目を離せない。目を離したが最後、どれだけ無辜の民に犠牲が出るかわからない。

 

 じゃあ、このメンバーで何ができる?


 ソフィアは、基本、なんでもできそうではある。だてに嘘で飯を食ってきたわけではない。ただ、その性質がイッているのが問題なだけだ。

 俺は、生まれてこの方殺しの技しか磨いてこなかった。特技といえば、殺しの技術だ。暗殺レベルで言えば、十段階で七から八ぐらいある自信はある。腐っても、あのマキシマム家でみっちり修行をしてきたのだ。この技術を売り込めば、その手のところでは、引く手数多だろう。ちなみに十段階で百とか千を叩き出す親父や祖父ちゃんは別な。かといって殺しは、絶対にしたくない。傭兵、ボディガード、護衛、全部だめ。

 

 あ、格闘技の先生はいいか。いっそ流派を作る!?

 

 いや、だめだ。あのぶっそうな殺人技の数々を世に広めたくはない。第二、第三の化物を産むとなるとぞっとする。


 そうなると前世の知識を利用するか?

 

 マヨネーズやダイナマイトを作って、一儲けって奴だ。

 

 でも、どうやって爆弾を作るの? マヨネーズって、原料なんだっけ?

 

 前世俺は一介の学生であった。バイトぐらいはしていたが、それだけである。前世の知識を利用しようにも、表層のうすっぺらい知識しかない。そんな俺に前世知識を活用した金儲けなどできるわけがない。

 

 やはり殺し屋の特技を生かした職に就くしかないか。人体への急所、有効的な攻撃スタイル等、くさるほど話題に事欠かない。


 くっ、憂鬱になってくるな。

 

 いや、まだ俺とソフィアはいい。普通に人とコミュニケーションを取れるからな。贅沢を言わなければ、仕事はいくらでも見つかるだろう。

 

 問題はカミラだよ。


 まず、集団生活ができるのかさえ、怪しい。出会う人出会う人、首チョンパーしても不思議ではない。


 本当はね、学校に通わせたいんだけどね、ハードルが高すぎる。絶対に粉かけたやつを襲うだろう。通わせるにしても俺も一緒じゃないとね。そうなるとやはり、先立つものが必要だ。


 はぁ~頭を抱える。

 

 ストレスで、はげそうだ。


「リーベルさん、さっきから何をうんうん唸っているんですか。悩み事ですか?」

「お兄ちゃん、悩みがあるの?」


 ソフィアとカミラが無邪気に問う。


 お前らの事で悩んでいるだよ。


 カミラ、兄ちゃんの気持ちわかっていないんだろうな。ソフィアの場合は、わかってて言っているんだろうが。


「金だよ、金。路銀を使い果たしているんだ。もう昼飯代もおぼつかないんだぞ」

「じゃあ、さっきのボスの家から拝借したらいいじゃないんですか」

「お金がないなら賞金稼ぎする!」

「泥棒はしない。殺しもしない。俺はまっとうに稼ぎたい」


 俺は二人の意見に真っ向から反対する。


「そう、それでしたらいいところがありますよ」


ソフィアは、天使の如く満面な笑顔でそう言った。


うん、嫌な予感がするぞ。


このソフィアの笑み、覚えがある。俺達兄妹を売り飛ばそうとした時と同じ黒い笑みだ。脳内でビンビン警報が鳴る。


却下と言うのは簡単だ。だが、代案もない今、背に腹は代えられない。いざとなったら辞めたらいいし、とりあえず俺はソフィアの案に乗る事にした。

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