第19話 カミラに友達を作ろう(前編)

 俺達は、ビトレイ神父のご好意で教会に住まわせてもらっている。


 教会の敷地は広い。


 食堂、公園、宿泊室等、多岐にわたる。


 教会には多くの孤児達がいるらしいが、俺達は他よりも優遇されていると思う。


 お風呂には毎日入っているし、栄養価満点の食事が一日三食提供される。特に、カミラなんてお肌を磨くという奴なのかな、エステまがいの事までやってもらっているんだよ。


 まさにVIP待遇である。


 なぜ、これほどの待遇を?


 ビトレイ神父にはもちろん聞いた。ビトレイ神父曰く「親から虐待を受けてきた君達は、幸せになる権利がある」と。


 ……う、うん、嘘は言ってないよ。


 そう、俺はマキシマム家の闇をオブラートに包み、ビトレイ神父に懺悔室で相談にのってもらったのである。ビトレイ神父は俺の話を聞いて号泣。少し大げさで芝居臭かった気もしないでもないが、いたく胸を痛めたらしい。


 その結果がこの過剰な接待のあらましである。


 そう、誰が何を言おうと、俺達兄妹は虐待を受けていたのだ。


 ……罪悪感が芽生えたが、せっかくのご厚意だ。素直に受け取ろう――すみません、やっぱきついっす。


 カミラは、素直に享受しているようだけど、根が小心な俺には絶対無理。俺達にかかる費用があれば、どれだけの難民が救われると思っている!


 ビトレイ神父はまた外に出かけている。この件は、ビトレイ神父が戻ってきたら、話し合うつもりだ。


 あと、気になるといえば俺達に監視の目がついている事だ。信徒の何人かがローテで俺達の挙動を探っている。さりげなくわからないようにしているつもりだろうけど、プロの俺には丸わかりだ。


 監視ねぇ~。


 俺達の話を号泣して聞いてくれたビトレイ神父の差し金とは思いたくない。恐らく氏素性のわからない俺達を疑っている幹部の仕業だろう。


 多少、不愉快ではある。


 だが、俺達は新参者だ。仕方ないと割り切るしかないか。


 うんうん、せっかく噂の聖人と一緒にいるのだ。そんな雑事にかまけたくはない。俺はカミラの更生だけを考えてればいい。


 では、そのカミラはどうしているかというとだ。


 カミラは部屋の窓からぼんやりと外を眺めている。部屋の窓から見えるのは教会内の公園だ。カミラは、公園で遊ぶ子供達の様子を目で追っていた。


 そうだよな。


 カミラは引きこもりであった。同年代の子供なんて珍しいだろうね。


 うん!?


 その時、俺の頭に天啓が閃いた。


 そうだ。カミラに友達を作ろう!


 友達、友人、親友、フレンド、マブダチ……。


 言い方は多様にあるが、意味は一つ。


 この世界を平穏に暮らしたいと思うのなら、欠かす事のできない存在だ。


 人生、楽しい事もあれば辛い事もある。そんな時、親友がいたらどれだけ人生の助けになるだろうか!


 そうだよ。家族の愛情だけでは足りない。カミラを闇から救うには、多くの手助けが必要だ。友人の存在がきっとカミラのプラスになるだろう。


 カミラを見る。


 美少女だ。ビトレイ神父のご厚意のおかげで髪はツヤツヤだし、美しさに磨きがかかっている。


 カミラには、暗殺とは無縁の平穏な人生を歩ませたい。


 つまり、カミラに友人は必須だ。


 ただ、懸念がある。大きな大きな懸念だ。妹に友人を作ると言っても、言葉で言うほど簡単ではない。


 俺達一族は、半端ない身体能力を有している。小さい頃、病弱だったカミラでさえ一般人と比較すれば化物チート級だ。まぁ、ここでカミラを病弱の範囲に入れていいかは微妙だけどね。


 いや、やっぱり入れちゃいけない。人として、間違っている。


 とにかくだ。言いたい事は一つ。健全な生活を営むために、友人は欠かせない。


 では、どんな友人がよいか?


 希望を言えば、カミラを優しく包み込めるような母性溢れる人がいい。

 カミラを導いていけるような優しい子が傍にいてくれたらどんなに助かるか。


 もちろんリスクはある。


 カミラがうっかり友人を殺そうものなら目も当てられない。友人にも相応の強さが必要だ。


 理想は、カミラの攻撃をかるくいなしながらも、親しく説き伏せてくれるような存在だ……。


 いや、そんな子供いるわけないだろ!


 自分で言ってて悲しくなってきた。


 カミラのためを思い、カミラの攻撃から身を守る。


 そんな芸当ができるのは、今のところ俺だけだ。


 ……よし、妥協しよう。


 カミラの友人に強さはいらない。カミラの攻撃は全て俺が防ぐ。だから、カミラのためを思ってくれる優しい心さえあればいい。


 うん、その条件なら見つかるだろう。


 その代わり、俺は二十四時間片時もカミラから目を離せなくなった。


 カミラに友人ができるならそのくらいの労力、苦にもならない。


 やってやる。やってやるぞ。


 カミラの暴走は止めるとして、カミラと俺の身体能力を比較する。


 とっさの時に飛び出せる距離として、二、三メートル以内にはいたい。


 う~ん、それだと今度は別な問題が浮上してきたぞ。


 同じ年代、同じ性別のコミュニティだ。身内とはいえ、年上の異性がいつも傍にいては、友達もできにくいのではないか?


 子供達のコミュニティってそういうのシビアだし。


 どうしよう?


 このジレンマ。


 やっぱり、時期尚早かな~。


 それにだ。どんなに目を光らせていたとしても、どこかで友人と二人きりになる場面は出てくると思う。


 そうなった場合……。


 色々、シュミレートしたけど、危険、すべからく危険だ。


 やってみる価値は多分にはある。ただ、リスクは大きい。他の子を危険な目に合わせるのは忍びないぞ。


 ……少しテストしてみるか。


「カミラ、あの子達と遊びたいか?」

「遊びたい!」


 いつも通り、元気いっぱいに右手を上げなら肯定する。


 まず本人の意思を確認した。友人と遊びたい気持ちはあるようだ。


「カミラは、今まで友達と遊んだことがないよな」

「うん、ない」

「うまく付き合える自信はあるか?」

「大丈夫♪」


 ドンと胸を張るカミラ。


 自信、満々だな。


 なぜそこまで自信満々なんだ?


 俺は、不安で不安で恐ろしいというのに。


「兄ちゃんはな、カミラを信用したい」

「うん」

「じゃあ、質問だ。カミラは友達と遊んでいるとするぞ。遊んでいる最中におなかが空いたとする? どうする?」

べる」

「だからべるな!」


 思わず叫んでしまった。


 即答しやがって、少しは躊躇というものを……。


 はぁ、はぁ、はぁ、いかん、つい頭に血が登ってしまった。


 冷静になれ。論理的に、道徳的に諭してあげるのだ。


「カミラ、前にも言ったよな。うちと違って、世の子供達は、弱くてはかない。ちょっと力を入れただけで壊れてしまうって。だから、大切に扱わなければならないんだぞ」

「うん、そうだった」

「思い出したか。じゃあ、おさらいだ。子供は?」

「よわ~い!」

「そう、弱くて儚い存在だ。そんな子供達は?」

「大切にするぅ!」


 カミラが右手を挙げて元気よく答えた。


「そうだ。よくできたな」

「えへへ」


 俺が頭を撫でると、カミラが笑顔で答える。


「じゃあ、もう一度だけ聞くぞ。カミラが友達と遊んでいる時にお腹が空いたらどうする?」

「半分だけべる!」

「だから人として生きろって!!」


 思わずカミラにとび蹴りを食らわしてしまう。


 ま、まるで成長していない。


 安●先生、普通の兄妹したいです。

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