第8話 カーテンを開くように
潤也は翌日退院した。しかし、それからしばらく学校には来なかった。夏休みを挟み、事故のあった日から3カ月程経ったある日、潤也は登校した。また、前髪で目を隠して、端っこの席に座っていた。しばらく休んでいたので、席がまた一番廊下側の後ろに移動されていたのだ。
また、誰も潤也の事を見なくなった。空気のように、ただ座っていた。こっそり絵を描いて。やはり、「目」がなければ自分には何の価値もない、潤也はそう思ってこっそりと傷ついた。
しかし、昼休みになると、英慈が潤也のところへやってきた。
「潤也、中庭行こうぜ。」
目が隠れて見えない潤也にそう話しかけ、弁当を持って先に歩き出した。潤也も弁当を持ってその後について行った。
以前と同じようにベンチに並んで腰かけると、二人の間にそれぞれ弁当を置く。そして少し向き合う恰好で座った。それから英慈は、目の見えていない潤也の顔を見て、
「潤也、お帰り。」
と言って微笑んだ。以前と変わらない、他愛もない話をしながら、弁当を食べる。潤也は食べながら英慈の話に相槌を打っていたが、食べ物がのどを通らず、弁当をベンチに置いた。
「どうした?」
英慈が聞くと、
「英慈君、無理してない?」
「何が?」
「目が見えていないのに、僕と一緒に居てもつまらないでしょ。」
潤也はちょっと言いにくいけれど、思い切って言ってみた。普通ならこんなセリフ、自惚れてると言われるだろうが。
英慈は「はははっ」と笑った。
「そんなの関係ねえよ。潤也は潤也だろ。お前はいい奴だし、俺の話に面白いコメントを言う。」
英慈はそう言うと、弁当を置き、
「それに、見たくなったらこうして見ればいいし。」
と言って、左手の人差し指で潤也の前髪をすっとカーテンを開くようにかき分けた。
目が合う。けれど、英慈はすぐに髪を戻した。
「まあ、しまっとけ。誰かに見られたら勿体無いしな。」
そして、また何事もなかったように英慈は話し始めた。潤也も弁当を手に取り、胸が熱くなってふいに溢れ出た涙を前髪で隠しつつ、英慈の話に笑った。
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