第6話 踊り場

 昼休み、潤也がトイレから戻るために、一人で廊下を歩いていた。健吾は思い詰めた表情で歩いていたが、潤也を見ると突然潤也の腕を掴んだ。

「三笠、ちょっと話がある。」

そう言って、健吾は潤也の腕を掴んでどんどん歩いて行く。

「ちょっと、戸田君?」

潤也がそう言ってみたものの、健吾は全く足を止める気配もなく、そのまま潤也を引っ張って歩いて行った。

 階段を一つ上がると屋上へ出られる。屋上への扉は施錠してあって出られないので、その手前の踊り場のところに立ち止まり、健吾は潤也の腕を離した。

「あのさ、三笠。」

ちらっと潤也の顔を見る。一度目を離したけれど、吸い寄せられるようにまた健吾は潤也の目を見た。3秒ほど、見つめ合った。そして、

「三笠、俺と仲良くしてくれないか。英慈じゃなくて、俺と。」

健吾はじっと潤也の目を見つめながら、ゆっくりとそう言った。潤也は2、3度瞬きをした。

「戸田君・・・」

そう言ったきり、次の言葉はなかなか出て来なかった。

 その時、潤也は後ろからガシッと首のあたりに腕を回された。

「おい、健吾。俺の親友に何してくれてんだ?」

英慈だった。なかなか戻ってこない潤也を心配して探しに来たのだった。

「こんなところに連れてきて、まさか、愛の告白でもしてんじゃないだろうな。」

英慈は凄みを効かせて健吾を睨んだ。

「だったら悪いか。」

健吾も負けじと英慈を睨む。

「英慈君、誤解だよ。」

潤也は英慈の腕に両手をかけて静かに言った。そして少し振り返って顔を見る。英慈も潤也の目を見た。至近距離で二人が見つめ合うと、健吾が逆上した。

「英慈!腕を離せよ!」

健吾はそう言うと、潤也の首に回してあった英慈の腕を掴んで激しく振り払った。そして、健吾と英慈は取っ組み合いになった。胸倉を掴み合い、壁に相手の背中を押し付け合って右へ左へと回転した。

 潤也の表情が凍り付いた。あの時と同じ。また、悲劇が起ころうとしているのか。ああ、だから自分は「目」を見せてはいけないのだ。やっぱり、ダメなんだ。

「やめて、二人ともやめてよ。」

潤也は震える声でそう言った。しかし、健吾と英慈には聞こえていないようだ。

「ねえ、やめて!やめてよ!」

潤也は叫んだ。けれども二人は止まらない。そして、いよいよ二人は階段を転落しそうになった。

「危ない!」

潤也は、二人の体を階段側から踊り場の方へと力いっぱい押し、その反動で階段の下へと宙を舞った。

「潤也!」

英慈は精一杯手を伸ばしたが、徒労に終わった。潤也は階段の中程に背中から落下し、勢いでそのまま階段の下まで滑り落ちた。英慈と健吾が急いで駆け寄ったが、意識はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る