暇でもあなたにホリック

人 物

川内大吾(20)東京大学理学部二回生

七海七海(35)七海法律事務所代表

外川永吉(20)川内の友人

大野木幸太郎(35)喫茶大野木店長

柏木陽子(35)七海法律事務所陽子

○喫茶大野木・店内(昼)

   川内大吾(20)、机に叩きつけるように突っ伏せる。

山内「あの人は何で仕事ばっかりなんだ」

   外川永吉(20)、山内の目の前でカップに口をつける。カップを机に置く。

外川「お前に興味がないのでは?」

   山内、河内に睨み。

山内「いつも、お茶して話してるのに?」

外川「仕事だからね」

山内「いつも二人きりなんだよ?」

外川「小さい個人事務所だからね」

山内「でも、いつも向こうからお誘いが」

外川「経営に困ってるんだろうね」

   山内、頭を掻きむしる。

山内「どうしたら振り向いてくれるんだ」

外川「食事に誘ってみたら?」

山内「給料前でお金ないんだよ」

外川「貢ぎすぎ」

   カップを載せたお盆を片手に持つ大野木幸太郎(35)が、カップを山内の前にそっと置く。

大野木「山内、うちの店を使え。特別に半額で料理を提供してやる」

   山内、大野木の手を握り、

山内「(涙目で)て、店長…(真顔で)てか、この店に結構貢献してるんですから、無料にしてください」

   大野木、握られた手を払う。

大野木「無理」

山内「ケチ」

大野木「これでもサービスなんだぞ。いいから早く誘ってこい。半額にするのも明日までだ。明日までに誘ってこなかったら、通常料金だからな」

山内「そ、そんな…」

外川「うだうだ言ってないで、行ってこい」

山内「クソッ、もうヤケだ!明日までにあの人を落としてやるぞ、今から行ってやる」

外川「テンション変わり過ぎ」

大野木「行ってもいいが、勘定払ってからな。言ってくがこの勘定は半額にはしないからな。それに珈琲だけしか頼んでないしね」

   山内、珈琲を一気に飲み、机に四百円を置く。

山内「(涙目で)ケチ」

   山内、立ち上がり、店から出ていく。

大野木「馬鹿だな、次の珈琲代置いてきやがって」

   大野木、エプロンのポケットに四百円をしまう。

外川「甘いね」

   外川、カップを一口、口をつける。


○大塚法律事務所・ビル前(昼)

   二階の窓に「大塚法律事務所」と書かれている。電灯が点いている。

   山内、コンビニ袋を片手に二階の窓を見つめる。

山内「居るみたいだな」

   山内、壁に持たれて、袋から缶珈琲を取り出す。

山内「持久戦だ」

   山内、缶珈琲のプルタブを開け、一口、口を付ける。


○同・ビル二階・事務室

   柏木陽子(35)、腕を上げ、伸びをする。

   そして、立ち上がり、窓に近づく。

   目の前には家が並んでいる。その上に空が広がる。

   陽子、ふと気づくように下を見る。優しく微笑む。

陽子「先生(指で下を指す)」

   大塚七海(35)、頭を掻き、立ち上がる。

七海「猫でもいた?」

   七海、窓に近づく。

陽子「猫よりも暇なやつが」

   七海、下を見る。優しく微笑む。

七海「本当だ」

   ☓   ☓   ☓

   窓の外は暗く、街灯の光が目立つ。

   七海、キーボードを一心不乱に打ち込んでいる。そして、エンターキーを押し、手が止まる。伸びをする。

   壁にかかった時計は、「十一時二十分」を刺している。

七海「さて…」

   お腹が大きく鳴る。

七海「んー今日もコンビニ飯かな」

   七海、パソコンの電源をオフにする。

   机下のリュックサックを手に取り、肩にかける。電灯のスイッチを押す。室内は暗くなる。事務室を出ていく。


○同・ビル一階のエレベーター前(夜)

   エレベーターに乗った七海が下りる。

   エレベーターの扉が開き、七海が出る。

   ビル入り口の角から人の影が見える。

   影がすっと立ち上がる。

   七海、優しく微笑む。

七海「暇なやつ」

七海、歩き出す。


○同・ビル前(夜)

   七海、角を横目に歩く。

   山内、煙草を片手に壁にもたれて立っている。

山内「あっ、どうもお疲れ様っす」

   山内、煙草の火を消し、携帯灰皿に入れる。携帯灰皿には大量の吸い殻。

   七海、安心の顔をする。

七海「山内君、こんな時間にどうしたの?」

山内「いえ、ついさっきこの前を通ったら、窓から明かりが見えたので、ちょっと脅かそうと思って」

七海「暇人ね。不審者だったら、このまま警察呼んでたわ」

山内「それは勘弁…」

   七海、山内の足元に空き缶に吸い殻が

   沢山入っているのに目が移す。

山内「(指を指し)それって…」

   七海、空き缶を見て、

七海「(焦った顔で)こ、これはおれが来る前から置いてましたよ。しょうがない奴ですよ、本当」

   山内、上着のポケットからビニール袋を取り出し、空き缶を入れる。

七海「(くすっと笑い)そう」

山内「これからはもう帰るだけですか?」

七海「そうね、ご飯食べて帰っても良かったが、もう閉まってるね。コンビニ寄って帰るだけかな」

山内「まぁ…そうですよね」

七海「それがどうしたの?」

山内「なんでもありません、ただ聞いただけ」

七海「(残念な顔で)そう」

   七海、腕時計を見て、

七海「それでは、また。暇な大学生君、私を驚かすこともいいけど、勉学に励み給え」

   七海、手を振り、歩き出そうとする。

山内「遅いですし、送っていきますよ」

七海「家遠いよ?」

山内「暇ですから」

七海「無視かい。(微笑む)まぁ、いいや、私はゆっくり歩くから好きにしてくださいな」

   七海、ゆっくり歩き出す。

山内「えー好きにさせていただきますぜ」

   山内、七海の後ろに着いていく。

   七海、優しく微笑む。


○大塚法律事務所の近くの道(夜)

   電灯がちかちかと点滅している。

   七海の後ろに山内が付いて歩いている。

   山内、大きい音でお腹を鳴らす。

   七海、笑いながら、

七海「おいおい、盛大に鳴ったな。目覚ましアラームが鳴ったと思ったよ」

   山内、顔が真っ赤になり、照れる。

山内「そういえば、昼は珈琲しか飲んでいなかったな」

七海「昼は?夜はまだなのか?」

山内「夜も…まだですね」

七海「夜も珈琲だったのでは?」

山内「え?違いますよ、あれは最初からあったものです。夜はこれからです。七海さんもですよね?」

七海「私はもう済ませたよ?」

山内「(驚く)えっ?」

七海「珈琲をね」

山内「(安心の表情で)そうだよね、俺と一緒か、それで足りんですか?」

七海「足りる足りないと言ったら、足りるね、私少食だし」

山内「それは困ったな…」

七海「その心は?」

山内「今だけ安く食べれる所知ってるのに」

七海、ニヤリとしながら振り向く。

七海「へーそうなんだ。でも、こんな時間でもやってるの?」

山内「あーやってますとも。(小声で)多分」

   七海、「んっ?」と言い、首を傾げる。

山内「いえ…そんなことより付いてきてください、案内しますよ」

七海「付いていくとは言っていないよ?」

山内「え?どうすれば…」

七海「そうね、私はリードしてくれる人は嫌いではないね」

   山内、一瞬躊躇するが、腕を伸ばし、

   七海の手を握る。

山内「これは、迷子にならないようにするためです」

七海「(微笑む)そう…」

   山内、七海と手を握り合い、歩く。

   七海、指を絡ませる。

   山内、顔が真っ赤になる。

七海「でも、こんな時間に店やってるの?」

山内「大丈夫、開けさせる」

七海「あっそ…」

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