『拝啓、花火師様』(プロトタイプ)

でんち@でんち書店

第1話

「始まったね」

 最初の花火が打ちあがると彼女のテンションが一気に跳ね上がった。

 花火会場とは結構離れた、しかも踏切の線路の上で僕と彼女の二人で花火を見上げる。



「電車、通らなきゃいいけどね」

 この線路は車体を倉庫へ運ぶための線路。だから一車線しか通れないし、事前に花火大会が行われる時間帯に電車が通らないことを確認したし、おそらく大丈夫だろう。



「たーくん。いつもは花火大会楽しみにしていたのに、今年はあまり楽しくなさそうだね」

「まぁ、そりゃ。毎年見る花火だからね、僕ももう中二だし飽きてきたよ」

 それともあたしと二人きりじゃ嫌かね、というと、花火の方を見て再度はしゃぎだす。僕もとりあえず花火を見始めた。



「もしかしたらあたしと見られるの最後かもしれないのに、なんか悲しいなぁ」

 彼女は今中三。すでにスポーツ推薦で県外の高校へ行くことがほぼ決まっていて、受験勉強もそこまでガッツリとはやっていない。それが少しさみしいのか、今回の花火大会を二人で見ようという向こうの提案に、あまり乗り気にはなれなかった。



「部活の人たちと行かなくて良かったのか?」

 花火を見ながら僕の問いを考え込むと、

「部活の子たちとはちょっと離れた所の花火大会に行こうって、約束したから。それにやっぱりここの花火大会はたーくんと見に行きたいなぁって思ってね」

 これ以降、向こうの方から何度か話しかけてきたが、生返事ばかりで会話らしい会話をしなかった。

 その状態がつまらないと思ったのか、さっきまで楽しそうに見ていた花火をしり目に、僕の近くまで一気に近づいてきた。



「もう、せめてさ。会話くらいはちゃんとしてくれてもいいじゃん」

 なにか返そうとした僕の口は、いつの間にか姉の唇に引っ付いていた。思いもがけない僕の行動にお互いが驚き、変な空気が流れた。

 ああもう。すべて花火が綺麗すぎたからだ、と僕は全てを花火のせいにした。



※本文はプロトタイプです。いずれ出す予定の本作品では内容が変わっている可能性があります。

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