第119話 廃棄物処理の儲け

 コークスを使い、私たちは製鋼を行う。作られた鋼は各所に渡り、武器となり道具となり私たちに利益をもたらす。当然、鋼以外にも鋳鉄、錬鉄などの各種金属もまた精製し、これらもまた売りつけ利益とする。

 これらの鉄で作られた道具でまた山や土地を開拓し、さらに資源を集め、またそれらで鉄を作る。

 さてこのサイクルの中でどうしても出てくるのがコークスの残骸である。燃焼反応によってコークスやそれら以外の火種は基本的に灰となる。

 で、この灰というのが大量に出てくるのだけど、これがまた結構活用できるのだ。

 その一端がセメントの原料である。極端なことをいえば私たちが知るセメントの材料は実は地球上のどこにでも存在していて、探せば必ず見つかるのである。

 細かく、科学的な反応を無視して、極端なことを言えば、セメントとは石灰と水があればできるし、そこからコンクリートを作るのもまた簡単だった。石とか砂利を混ぜるだけといえばその通りだし。


 何より、セメントやコンクリートの歴史は結構古い。私の記憶が正しければ古代エジプトではすでにその原型があり、古代ローマではローマンセメント、ローマンコンクリートなる原料があって、これらで巨大な構造物を建築していたというぐらいだ。

 ゆえに、実はこの世界でも理屈さえ理解させれば一気に加速する。

 コンクリートが建築材料としてあまりにも優れているのは、石のように固く堅牢で丈夫だということ。まぁ風化とかはしちゃうし、年々の整備も必要だけど、そんなのはどの建築物にも言えることだ。

 それ以上に、コンクリートの使い勝手がいいのは固まらなければ液状であり、どんな形にするのも思うが儘というところにある。

 例えば石造りの建築をしようにも、ただ石を積み枷ればいいわけではない。石を削ったりして形を整える必要がある。これには熟練の技が必要となるのだけどコンクリートであれば型に流し込んで、固めればそのまま使えるようになる。

 もちろん、これにも技術は必要だけど、かかる手間は遥かに軽減される。


 私も、これらは試験的に研究させ、開発を進めさせていた。結果としては実用可能なセメント、そこからコンクリートへの加工は成功している。

 やはり古代からそれに準じた技術や知識があるのは大きい。歴史を紐解けば、必ず今に繋がる技術が眠っている。

 あとはそれを、どう現代的に処理できるかだ。

 コークスの廃材を利用して、セメントを作り、一躍大企業を作り上げた人だっている。私のやったことは言ってしまえばその人の真似事であって、自分の力とはいいがたいけど、先達の残した技術を転用することは悪ではないはずだ。


「各地で出る灰はこちらで買い占めるわ。彼らにとってはゴミでもこっちにとっては宝の山よ。一応、品質のチェックはするけど。使えるものは塵一つも残さず使ってちょうだい。糞尿だって火薬になるのよ。垂れ流し、川に捨てて汚染させるよりはマシな使い方があるのだから」


 使い物にならないゴミというのも存在はするけど、使えるゴミはそのままお金と変わる。灰を安く買いたたき、こっちはコンクリートを量産する。

 建造物の建築スピードはコンクリートを使うことで飛躍的に加速するし、これらの技術を特許とすることで、高く売れる。技術者たちも派遣できる。

 で、これで何が可能かといえば戦争によって壊滅した二つの国の復興が可能となるのだ。


「土地に住む場所を作るのよ。そうすれば人はやってくる。仕事があって、人がいれば、可能なのよ」


 ハイカルンに関してはいまだ毒物の汚染がひどく、浄化魔法による徹底的な消毒が行われているけど、これだって数年単位の仕事になる。一応、浄化が完了した場所からコンクリート製の建造物を建てながら様子を見る。今はまだ作業用の従業員と技術者、そして護衛の兵士たちしかいないけど、人が集まり、街ができればおのずと国は戻ってゆく。

 最後の一欠けらをはめ込むことで、ハイカルンたちは復活するだろうけど……それはまだ先のお話ね。


「見ておきなさいアザリー……いえ、ラウ王子。この技術をあなたは徹底的に叩き込むのよ」


 最後の一欠けら。それは奇跡の復興を遂げることとなる王子ラウだ。


「復讐もいいわ。必ずやり遂げさせてあげる。だけど、あなたは唯一残った王族としての務めをここで果たすことになるわ。お国の復興は、復讐以上に価値があり、名誉なことだと思いなさい。多くの人々はあなたを指して逃げ出した腑抜けというかもしれない。それでも耐えて、国を作りなさい。ものを作りなさい。その下準備はしてあげる。だけど、それから先のことはあなた次第よ、ラウ」


 イスズ鉄鋼からの派生として建築及び建築材料をメインとした会社の設立の準備。

 それこそが私が描くラウの復活劇だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る