第118話 後ろ盾
お前は何者か。
私は元鉱業研究員で三十路のいすずという女研究員。しかし今はマヘリアというゲームのキャラとして生きている。
知識はいすず。しかしマヘリアの記憶もある。ある意味、私はこの二人を掛け合わせてできた存在なのだろうか?
いや、哲学を語ろうにも私はそういうのさっぱりわからない。私は、自分をいすずであると認識している。なら、私は元研究員のいすずだ。肉体が変わり、精神だけが移り変わろうといすずなのだ。
マヘリアという少女の立場もあるが、そんなものは関係ない。
私は、私の持つ知識と思い描く未来図をひた走っているだけなのだから。
「誰だと問われても、私はマッケンジー卿の妻、イスズです。それ以上の答えを求めるのであれば、それは乙女の秘密に足を踏み入れるということですが?」
「それは、マヘリア先輩であるという秘密の事ですか、それとも技術の秘密ですか?」
なんというか、私がマヘリアだって言うのは、攻略キャラ的にはもうバレバレっぽいのね。これで唯一、気が付いてないのはガーフィールド王子だけか?
いや、実は気が付いてるけど、今更指摘するほどでもないと放置されている?
私も、必要がなければ隠してるけど、わりとほいほいばらしちゃってるしなぁ。
もう今更、その立場がバレても、それはそれで利用できる状況にいるからだ。
私は大罪人の娘かもしれないけど、今は国家の救世主呼ばわり。果ては聖女とも魔女とも呼ばれている。筋書きとしては、親の罪を償う為に国家に身をささげた女……ぐらいには脚色もできるはずだ。
「私がマヘリアだとして、どうなされます? 神父様。かつてプリンセスを苛め抜いた女を罪人として告発しますか?」
「そんな面倒なことはしませんよ。今のあなたは国の英雄。それに大規模な戦争を控えた今、ここで効率をおとすような真似はそれこそ、僕が大罪人となります。むしろ、教会としてはあなたをバックアップしたいとすら思っているのに」
「後ろ盾に? また急なお話ね」
正直助かる。国からの補助はあるけど、教会とは国家とはまた違う、ある意味では人々の身近に存在するものだ。ここからの支持を得られるというのは大きい。
「急ではありませんよ。皇国を撃退してから、この動きはありましたこちらとしては救世主という伝説にあやかり、規模を拡大したいという俗な狙いもあるのです」
なるほどね。まだそう言われる方が信用はできる。少なくともお金が続く限りは裏切らないということでもあるのだし。
「巫女の伝説は本物であった。救世主もまた事実であった。聖典に描かれる絵空事のような話も、実現がする。確かに、あなたたちからすれば、これは利用するべきものだと思うわ」
私の言葉にネルドはにこりと笑う。
「その通りです。伝説は、伝説ではなく本物である。それは神の教えもまた正しく、ただ威光をお借りしているだけの存在ではないということにもつながるのです」
これは驚きね。本来であれば正反対の局地であるはずなのに、神を信奉する教会は、科学技術の発展をもって神の実在を証明しようとしている。
状況があまりにも揃っていたということもあるのだろうか?
確かに、聖典に記される伝説に即したことがやっていたのかもしれないし、いまだ誰にも語っていないけど、私がこの世界に生まれ変わってしまったという事実もまた神様の実在を認めることになる。
「つきましては、そちらの技術を使い……教会総本部の立て直しか、補強を行ってはくれませんか?」
「補強? リフォームでもすればいいのかしら」
「何百年と経った代物ですし、老朽化も目立つ。それ以上に我々とあなた方が協力しているという姿は国民に対してはプラスになるということです」
まぁこっちだけが補助を受けられるだけの話ではないのは分かってはいたのだけどね。
教会への支援。それは、断る理由がないものだった。
教会という広く知れ渡る権威との深い関係性を手に入れられるならば、それは断然、乗っかるべきであるからだ。
「景気づけに、大きな塔でも立てる準備をしましょうか?」
こっちは素材はそうねぇ、エッフェル塔のように錬鉄を使ってもいいわね。
それか……コークスの使用で出来上がる灰を集めてコンクリートの真似事でもしてみようかしら。
そろそろ、ここいらで兵器製造だけじゃないということを見せつけておくのも悪くはないはずよ。
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