第39話 他事業進出計画
つまり私がやるのは年ごろの女の子たちへと向けた格安のジュエリー商売というわけである。元手が大してかからない(ゼロではない)素材を使い、加工と言えば簡単に聞こえるが、ここに乗り出すというリスクは大きい。
さて一番の問題は間違いなく……私にそのようなセンスが皆無だということだ。
ならどうするか。才能のある人達をかき集めればいいだけの話なのよ。
「戦時下にあると芸術文化の方面はどうしても戦意向上に利用されがちです。ここで利用しない手はありません。とにかく、芸術家たちをかき集めて、文化振興とか技術促進とか適当な理由をつけて金を出してあげるんです。花開かない芸術家の二世、三世やその弟子なんかを集めて、お互いに競い合わせるのです」
一応、私の家にもなったマッケンジーの屋敷にて、ゴドワンとの商談会議。
そこにアベルも加わって、いつもの三人であれこれ悪だくみをしているというわけ。
今回の議題は私が思いついたジュエリーショップにたいして、民衆からの受けが良いデザインとは何かという点である。
恥ずかしい話だが、私の学校での美術の成績は5段階評価の、お情けで「3」だ。実際はぎりぎり「2」だったという話である。
って、今はそんな話どうでもいいわね。
「錬金術師たちも動員すれば低価値の鉱物加工はそう難しいものじゃありません。こういう時こそ、魔法使いを利用するんです。ブランドを持たせれば、プライドは傷つきません。自分たちの作ったものは売れる、その自覚を持たせるのです」
これまでの製鉄産業において、私は出来る限り魔法などの技術は使わなかった。色々と理由もあるのだけど、一番はやはり魔法使いがイコールで貴族という立場にあることだった。
魔法を使わずとも鉄は大量に作れる。それを実証するためでもあったのだけど、貴族が果たしてそのような地味で、キツイ仕事を率先してやるかというとそうではないだろう。
それに錬金術の魔法は確かに便利なのだけど、国中の資源を賄うとなると一個人ではどうにもならない。二十四時間、三百六十五日、休まずに錬金術を使ってもらう事になる。
魔法使いは貴族、数が少ない。それにプライドが合わさればさらにだ。
「それとなく、他の領地にも噂を流すようにしてもらいましょう。マッケンジー領であれば、腕一つで食べていける。体一つで食べていける。そのことを教えるのです」
しかし、偉そうばかりしているわけじゃないのが貴族だ。主に領地や家をつげない次男、三男などはくすぶっている。こういう子たちを使わない手はない。まぁ、技術がなかったり、才能がなければそのままポイになることもあるけれど、そこはそこ、個人で頑張ってもらいたい。
私たちの為にも。こっちだって慈善事業でやってんじゃないのよ。
「文化、芸術は多くの衝突と融和で完成するものだと思います。とにかく、技術振興にお金は惜しまない方向でいくべきでしょう」
あと必要になるのはやはり広告、宣伝といった所だろう。
こればかりは本当に専門外。その筋に得意な人を宛がうしかないわね。
「ふーむ、話は分かった。お前の言う通りにするのも良いだろう。だが、もう一つ肝心なことを忘れているな」
ゴドワンはモノクルを外し、レンズを磨きながら言った。
「お前、年ごろの娘の対応はどうするつもりだ? 芸術家気どりを芸術家にしたてあげるのはいい。金になるからな。だが、お前の目指すものはそこからは少し離れているのだろう?」
「年ごろの娘には年ごろです。領地内のお嬢様たちを集めて、お茶会でも開きましょう」
私がそういうとなぜかアベルが噴き出す。
しつれいな人ね!
「お前が、お茶会って……できるのか?」
「おあいにく様、わたくし、元ご令嬢ですので」
マヘリアの記憶というか知識はわたしの中に残っている。当然、社交界でも大きな恥をかかなかったのはマヘリアというキャラクターが身に着けたスキルのおかげだ。私は必要な時、それらを活用しているに過ぎない。
そりゃ実際の私、いすずとしちゃそんな面倒くさいことやりたくもないけど、お仕事するという手前、やらなくちゃならないのよ。
「なんといっても、世間の流行りはキャッチするべきです。そのためには市井の民との交流は必要不可欠でしょう? お茶会が手っ取り早いわ」
「お前にしちゃそのお茶会とやらも商売道具にすぎんのだろうな」
「そりゃあ、愛する旦那様と愛する領民、そして何より愛する祖国の為ですもの、おほほ」
「こえー女だな」
「だまらっしゃい! とにかく、我々マッケンジー家は鉱業を中心にしつつも、そこから派生できるものは広く浅くやっていくべきですわ」
何はなくともお金は必要。
山で取れるもので、活用できるものはなんだって活用するわ。
本当なら価値の激減する宝石も、魔法使いの錬金術にかかれば見た目を取り繕うこともできる。細かな作業がカットされる。
一つは高級志向、もう一つは格安提供。さて、こちらの思い通りにことが運んでくれるかどうかは、やってみなくちゃ分からないってとこね。
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