記憶を失った吸血鬼と永遠の娘

上山ナナイ

第1話 はじまり

--海が凍り人間の住む場所は残された小さな島々に限られた、全ての生物が幾度も死に絶えた氷河時代。この世の終わりのような悲しい夕暮れに孤島の街は包まれ、幾千もの過去の文明の塔はこの世の果ての海から墓標のように突き刺さっていた。


かつて文明の塔と海と空は高さを比べ合っていたが、全ては、人間の作り出した機械じかけの神々、天使たちに飲まれていった。--


「正義行わしめよ。世界滅ぶとも」

ちいさな娘の村はアイオーンと名乗る天使達に焼かれた。娘の身体は半身が燃えていた。家族を失った娘は村の中をゆくあてもなく彷徨っていた。


血の匂いに惹かれたある美しい吸血鬼は娘の火傷を丁寧に魔法で治し、念のため包帯を巻き、抱きかかえながら城へと連れ帰った。大丈夫。すぐに楽にしてやる。


ちいさな娘はベットの上にいる。


ここはどこ?わたしをどうする気なの?


「私は君の血を吸いに来ただけだよ。そして我が眷属になってもらう。」


けんぞくってなに?


「いずれ知る」


お父さんとお母さんは?


「死んだよ。君の仲間はみんな死んでしまった。」


あなたはとても綺麗ね。誰なの?私を助けてくれたの?


「さあ?いずれ知る。」


ちいさな娘は身体を起こし吸血鬼の男の頰に触れる。


同じ人間なんだね。


「違うよ。私の仲間は誰もいないんだ。」


ひとりぼっちなんだ。ちいさな娘は自分より背の高い吸血鬼を抱きしめる。


私と一緒だね。


吸血鬼は血を吸うことをためらい、娘の頰に口づけする。


「私は記憶がないんだ。だから君のことを知りたい。」


娘は母親の家事を少し手伝ったことや、近所の子供達との遊び、幼馴染との恋を話した。


恋の話をすると吸血鬼は途端に嫉妬した。


「その幼馴染も死んだよ。君には私しかいない。」


ちいさな娘が泣きだすと、吸血鬼は娘の頭をぽんぽんとなで、涙をぬぐい、キスした。


「そばにいてあげるよ。永遠に。」


もっとこっちへ来て。抱きしめて。


吸血鬼は座っていた身体を起こし、娘をお姫様抱っこした。


「すぐに私のことしか考えられなくなるさ。だから大丈夫。」


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