飛ぶ

華也(カヤ)

第1話

『飛ぶ』



著・華也



空が青い。

今まで見た事もない、世界で最も綺麗であるかのような青空。

学校帰りの小学生達の声、鳥の鳴き声、どこからともなく聞こえてくる車のパッシングの音。

脳内で幾度なく繰り返される現実の悪夢。

それが、思考と共に、少しずつ空へと溶け出していくように感じた。

考え深い事もない。

ただ、心は晴れやかで、生まれてきた時もこんな感じに、心の中は透き通っていたのかな?

明日が来る事を恐れて、寝ない日もあった。

でも、明日というものは、否が応でも来てしまう。

朝の小鳥のさえずりさえも、僕には悪魔の笑い声のように聞こえていた。

ここからの景色を、私は何回、いや、何十回見たのだろう?

大嫌いな世界の景色。

でも、今は少しだけ、ほんの少しだけ愛おしく見える。


───────


僕が生まれた世界。僕が生まれた街。

毎朝、同じ時間に起きて、同じ時間に母が作った朝食を食べて、家を出て、学校に着き、教室へ入り、友達と会い、話し、将来役に立つかもわからない勉学に勤しみ、部活をして、同じ時間に学校から家に帰り、同じ時間に夕食を食べ、同じ時間に寝る。

僕には何一つ面白いとも思えなく、今この時点で全てをやり尽くした気がした。

これから、生き続けて、何かを成し遂げたいとも思ってないし、僕は僕が存在する理由を探していた。


───────


考えた。10代特有の青春病だと思うかもしれない。

でも、僕はこの世界での生きる価値を見出せずにいた。

死ぬ理由もない。

勿論、生きる理由もない。

だから、僕は決意した。

この世界と別れようと。

10代の男子が一人居なくなっても、この世界は何事も無かったかのように明日を迎える。

ニュースで、同い年の学生がイジメを苦に自殺したというニュースが流れる。

その瞬間は同情する気持ちも湧くが、5分も持続しない。

この世界は他者に無関心だ。

誰が存在してなくてはいけないなんて事はなく、代わりはいくらでもいる。

僕は、僕が存在する意義をもう見出せなくなった。

理由なんて、それだけで。

それだけで、人は簡単に飛べちゃうんだ。


───────


空は真っ青のまま、私の頭上を埋め尽くしている。

心の中が、綺麗に浄化されていく。


僕は明日を待つのをやめる事にした。

僕は明日の心配をする事をやめた。

僕は明日着る服を考えるのをやめた。

僕は友達にLINEの返信をやめた。

僕は泣くのをやめた。

僕は笑うのをやめた。

僕は隠すのをやめた。

僕は考えるのをやめた。

僕は僕でいる事をやめた。

僕はこの世界に存在する事をやめた。


空は青い。日差しが眩しい。

僕は、後ろに倒れこむようにして、飛んだ。

飛ぶのに落ちるって、変なの…。

僕の最後の光景は、綺麗な綺麗な、青空だった。

それは、今まで見たどの景色よりも、綺麗で尊かった…。



END

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飛ぶ 華也(カヤ) @kaya_666

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