おはよう、メーテル

第1話 おはよう、メーテル

「ま!アンタまたそんなものばっかり飲んで!!!」


読んでいた新聞が視界から消えた。

、、、またかよ。

軽く舌打ちしてそっと視線をあげると、見慣れた赤髪が見事に爆発していた。


ふむ。今日はまたすごい寝癖だな、クソババァ。


「これはマダム、毎朝懲りねえなこんにゃろ」

「懲りないのはアンタだよ!珈琲も飲めやしないのに何でここに来るかね!!」

「僕の家だからだよ!!!!」


へっ、と鼻で笑って僕の向かいの席についた女は、いつも通りの会話に満足したのか、笑顔で新聞を差し出してきた。

すかさず奪い返して、鞄に押し込む。


くそう。珈琲が飲めないからって馬鹿にしやがって。

僕くらいの年齢のこどもなんか大抵飲めないだろ。


「ったく、ただ苦い液体が飲めるってだけで威張らないでほしいね」

「珈琲喫茶の娘に拾われたのが運のつきだね!」

「うるさい!」


「まあまあ、あんまり苛めないであげて、レイ」


仲裁に入った少女が、赤髪の女の前にカップを置いた。

芳醇な香りが、柔らかい湯気とともに広がる。


「もっと言ってやってよメーテル!毎朝このババァがしつこいんだ!」

「んだとクソガキ!」

「まあまあ、」


やわらかな笑みを浮かべた少女_____もといメーテルは、僕たちを宥めているわりには、とても楽しそうに僕たちを見ている。


ゴーン、ゴーン、ゴーン、、、


7時を知らせる鐘が、窓の外から微かに聞こえた。


メーテルは、はっとしたようにカウンターへ向かい、自慢の長い白髪を一つに結い上げた。



しばらくして、扉の開く音がした。


「おはよう、メーテル」

「メーテル、いつものちょーだい」

「今日はいい天気だね、メーテル」


客が口々に話しかけながら、いつもの席につく。


毎朝7時になると、町の皆がここに珈琲を飲みに来るのだ。

はじまは変な町だと驚いたが、もうすっかり見慣れてしまった。


、、、あ。そういや、新聞読みかけだったな。

またもや新聞を広げようとした僕の手を掴み、レイが飲み終わったカップを乗せた。


「アンタ、いつまでのんびりしてるつもり?アンタん家なんだから、ちょっとはメーテル手伝いなさいよ」


何だよ、カップ返してこいってか。

、、、、しょうがないな。


カウンターに入り、シンクにカップを置いたところで、とあることに気づいた。


そういや、今日はまだ、あれ、言ってないな。


「メーテル、」


カウンターで珈琲をドリップしている少女______最近家族になったばかりの少女に声をかける。


少女が振り返ったとき、僕はすかさず抱きついて言った。


「おはよう、メーテル」


ぎゅっと抱き締めると、珈琲のいい匂いがした。



「まあまあ、」


そういって抱き締め返してくれた少女の手は、とてもあったかかった。

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おはよう、メーテル @shimen_soka

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