眠れない夜
なんだかそんなこともあり今日は寝付けなかった。
寝付けない時には決まっていくつかのパターンに、思考を巡らせる。
父との思い出。幼少からの父子家庭だったので、あまり思い出らしい思い出もなかった。常に忙しい父親だった。
もちろんその忙しさを私を育てるために頑張ってくれていた愛情であることもわかっていたのでそこに不満を言ったこともないし、心配かける事もしたかったのでたまに一緒に食べる夕食での会話も
「最近学校はどうだ?」
「大丈夫だよ、楽しんでる」
そんな素っ気ない会話だった。多分女親なら化粧気の無さや身なりに疑問を抱くのだろうが、下手したら気づいていての質問だったのかもしれないが、私の言葉を鵜呑みにしてくれていた。
基本的には私を想っていてくれていることを知っているからそれ以上は私も会話を積極的には続けなかった。
ただ、その場で箸の持ち方くらいは指摘してほしかった。もしかしたら父の箸使いも特殊だったのかもしれないが。
なんで死んじゃったの?
そんな風に涙が溢れてきて泣き疲れてしまい眠ってしまうパターン。
あるいは、まだ見ぬ父を殺した存在への復讐の仕方だ。
もうすこしアイドルとして有名になれた日には突然クラスに乗り込み消火器でもぶち撒けて、カバンに仕込んだ石をひたすら無作為に投げつければ蛍光灯やら、窓ガラスやらが割れて何人かは傷つくだろう。
そして忍ばせてた包丁やらカッターやら刃物で無差別に近くの人を切りつける。
もしくはカッターでなくても教室に入るなり背後から首筋にボールペンでもおもいっきり突き立てれば簡単に人一人の人生台無しにできるだろう。
最初に述べた通り私の目的は完全犯罪ではなく復讐で良いのだがらそれでいいんだ。
あの人気アイドルがクラスメイトに傷害事件を起こす。その動機に対して私は殺された父の復讐をしたかった。
そう言えばメディアは大きく食いついてくれて事件の真相を勝手に探ってくれて警察もより積極的に動いてくれるだろう。
そんな方向に話を考え出すと私は窓から光が差し込む時間になってしまう事もしばしあるので、被害者家族になった日からもらい続けている睡眠安定剤に手を伸ばすが、明日の朝は遅く起きても日中はゆっくり過ごしても大丈夫なオフだったので私はいろいろな考えに思いを寄せながらなんとなくスマホで動物の動画を眺め始めていた。
眠る前に、お風呂に行くまで着ていた服とタオルを洗濯機に入れるくらいは済ませてゆっくりしようと思いベットから起き上がるとタオルに混ざり見覚えのない可愛らしい小包と手紙が混ざってた。
「私もお箸で苦労してたから、これよかったらつかってね!」
箸の持ち方矯正用の箸と手紙が可愛らしいビニールに入っていた。
ありがとう白岩さん。
朝までそのプレゼントで練習していたが長年染み付いたくせはなかなかとれないようだ。
私のイメージでは箸は指の延長上、シザーハンズの指先のような感覚だったのだがそれがまず間違いだったようだ。
白岩さんの好意に応えたくて私はその歪な形の箸で正しい箸の使い方の練習をする。
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