決意
私は警察の方に連行されるかのように幼稚園のような作りの建物へ案内された。
クローバーハウス
そう看板を掲げたその建物はどうやら私のような環境の子、育児放棄をされたような子を集めた施設らしい。
なぜだか大人達の説明がうまく頭に入って来なかったが私はしばらくここで暮らすようだ。
若くも老けても見えるおばさんが私の事を施設内の子供たちに紹介する。
「今日からみんなの家族になる莇 里奈ちゃんです。みんな仲良くしてあげてね」
その紹介に疎らに返事が返ってくるので、私は
「少しの間ですがお世話になります」
と適当に挨拶を済ませ一礼する。
私はなんとなく決めていた。保険金と父の貯金が入ってきたら一刻も早くここを出ようと。その時に別れが惜しくなるようなそんな関係性を作るべきではないと。
「今日からここが里奈ちゃんの家で、ここが里奈ちゃんの部屋よ」
さっき自己紹介された気がするが、私は不要と感じ名前も思い出せない年齢不詳なおばさんが案内してくれたのは小さな部屋だった。
何もない部屋。
そこでいくつかこのクローバーハウスのルールを説明されたが、道徳に反することなく借り猫のように生活していれば問題なさそうだったので、聞き流す。
私のような子供に多く接してきたのだろう。愛想の良いとは言えない態度の私を咎めることはしなかった。
私はその部屋で1人にしてもらうと、通ってる高校の裏サイトを開く。閲覧するのにも書き込みするのにも特別な条件はなくいわゆるネット掲示板のようなものだ。
最初に存在を知ってそのサイトを開いた時私は恐怖と怒りを覚えた。私の隠し撮り、私の噂、そのサイトでも私は主役だったのだ。
どうせもう噂になっているのだろうと思ったら案の定だった。
莇里奈宅炎上
そんなタイトルのスレが立ち上がり様々な事を無責任に書き上げられてる。
かわいそすぎる、同情する、そんな様々な文章が飛び交うが決まって文尾にはwの文字が並んでいた。
そして燃えていく家の前で私が涙しながら、スマホを奪い取り地面に叩きつける動画もすでに添付されている。
暇人だらけだ。死にやがれ。
その中で目を引く文があった。
でも、これでこのまま本当にアイドルになったらストーリー性抜群だね。
謎の審査突破メールの正体がわかった。
私は知らぬ間にアイドルグループオーディションにエントリーされていたようだ。
嫌がらせか迷惑メールだと思っていたメールを改めて開く件名に書かれていたURLを開くとご親切にオーディションのサイトが開かれた、そこには大きな文字と写真で芸能関係には疎い私でも知っている大物プロデューサーが紹介されていた。
昨今のアイドルブームを作り上げたと言っても過言ではない人物だ。
そのサイトを余すことなく目をやると、グループ合格者には都内に寮が準備されるようだった。
今の私の置かれた環境を見るとその待遇はあまりにも良く思えた。
どちらにせよ、この施設には長くはいれないのだろう。大学にきちんと通うこともできないでお金の工面の為にアルバイトや夜のお店で働くようになるのかもしれない。
そう考えた時にその嫌がらせの応募は私に希望を与えた。
宝くじでも買ったかのような心持ちで次の審査結果を待つことにしよう。もし次突破したら少し頑張ってみよう。
リスタートを夢みてしまう。新しい場所で新しい自分に変われるかもしれない。
このままではどうせ私の未来はたかが知れてるのだから。
そんな密かな決意をする。
オーディションサイトを閉じると自然に学校の裏サイトが表示される。先程とは違った話題がすでにあがっていた。
その流れになったのは一本の動画だった。まだボヤ程の煙しか出ていないうちから動画が回されている。音声もない何倍速かわからないが早送りの動画。みるみる炎が大きくなっていく。しばらくすると消防車が到着し動画は終わる。
こいつ消防車呼べよ!
見殺しじゃん!ひでぇ!
ってか、こいつが火つけたんじゃね?
相変わらずwの流れは変わらないが、まだ私すら知らない事件性の話をしはじめていた。
そう言えばなんであの時図書館からの帰路でクラスメイトを見かけたのだろうか。
私の父はクラスメイトの誰かに殺された?
私への嫌がらせだけで飽き足らず、私の父の命を奪ったのだろうか。
私がどこかで強く抵抗していたら、父の生涯の結末はもう少し先になっていたのかも知れない。
私はそいつを許さない。
もはや失うもののがないのだから、私はなんとしてもそいつらなのかそいつなのかわかないが、本当に犯人がいるのならそいつを殺してやる。
私は実在するかどうかもわからない犯人への復讐を決意する。
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