イルム王国編21 要塞都市2

 要塞都市の建物は、フェルパイアの建築らしく外側から見ると無機質な感じがします。ただ路地がさしずめ緩い迷宮かの様に入り組んでいます。街並みを散策しながら要塞都市の市場の方へ歩みを進めます。無論、市場まで空中を飛べばすぐですし、転移なら一瞬ですがこういうのは風情を味わうものなのです。


「……と言いましても感じる風情がありません……」


 言うなれば砂埃の舞う路地に日干し煉瓦を積み重ねた無機質な建物が並んでいるだけです。行き交う人々も大体黒づくめの身体を覆う衣装だったり頭に布を巻いたりしている感じであまり大きな差を感じません。そう言う私も肌を追おう衣装を纏っています。そんな裸みたいな格好だと面倒ごとに巻き込まれるから着てくださいと百人長に泣き疲れたので動きにくいのですが仕方なく着ていますが、エルフの正装は裸みたいな格好ではないと思います。


 途中で占いやりますと言う看板を立てた老いた女性が声を掛けてきます。


「占星術、銀貨一枚でどうだい?お嬢さん」


 私はこの女性よりは年上だとは思うのですが……お嬢さんなのは間違いありませんけど。こういうときはどうするべきでしょうか?取りあえず占星術と言うものがどういうものか気になったので銀貨一枚払って椅子に座りました。


「じゃあ、これからあんたの運勢を占うからね。それでいつ頃生まれたんだい」


「分かりません」


 《里》には独特で外世界にあるような暦みたいなものも存在しません。必要ないからです。何年前に生まれたか覚えていますが何月何日と聞かれると分かりませんと答えるしか有りません。


「……まぁ、そう言う子もいるからねぇ。それも星に問うことにしようか?それで、何を占う?」


「じゃあ、この国で何が起きるのかを……」


「この国自体の運勢は流石に銀貨1枚じゃ無理だよ。もっともワシの腕じゃ幾ら金を積んでも無理な相談だがな」


「いえ、この国に滞在している間に私に何が起こるかです」


「まぁそれなら可能かね……。滞在中と言う事は旅行者なのかい?」


「そのようなモノです」


「最近珍しいね。ここ数日は王都の方がきな臭くて他所から来る人と言えば軍隊か官僚ぐらいじゃったが……」


「それでは手を見せてくれぬか?」


「手を見るのですか?」


「ああ、おまえさんの手をこの水晶を通してみるのだよ。そして、この水晶は空の星々を模しているものじゃよ」


 そう言われてみれば水晶の中の輝きは星の配置に似ている気がする気がします。私は言われたとおり水晶に手をかざします。


「それでは静かにするじゃぞ」


 どうやら占い師は水晶に手をかざしながらそこに移る紋様や気配を読み取っているようでした。しばらくすると占い師が口を開きます。


「んー、どうもお前さんには見えないモノが多すぎるな。人間とは思えない星の下に生まれついておる」


 エルフですから人間ではないので、その辺りは当然だと思います。


「ものすごく長生きしそうじゃな……これはわしの勘違いかも知れないが人間の寿命の100倍以上の数値が出ている……。水晶の様子がおかしいのかな……」


 いや、《里》には1万歳クラスが普通に居るからおかしくは無いと思います。ただ耳を隠しているとは言え、よく見ればエルフと分かるはずですけど……。


「……でだな、結論から言うとめんどくさい星がまとわりついているな。恐らく面倒ごとに巻き込まれるな。まぁこういうネガティブな結果が出たときはぼかして言う事もあるのじゃが、これは命の危険がある可能性もあるからなハッキリいっておく。気を付けるんじゃな。まぁお前さんは殺しても死なない気がするけどな……。ワシの力ではここまでが限界だ」


 話を言い終えた占い師に礼を言い、その場を立ち去ります。


 結論から言うとここの占星術は幻術の亜流みたいなものな感じです。ただものすごく変形していて、どちらが凄い凄くないと言う視点では評価できません。恐らくですがこの占星術は、未来の星の光を読み取っているようです。ただ未来と言うものは曖昧なので正確に予測するのは多分無理でしょう。本で読んだ占い関係と言うのは著者の妄想を書き連ねたとしか思えない眉唾のものも多いのですが、この占星術はどうやら本物に近い様です。


 ……ということは面倒ごとに巻き込まれるのは確定しているようです。


 占い屋を後にすると徐々に人が増えてきます。後、骨と皮がくっついた汚い犬も……。そういえば、フェルパイアでは犬は街の掃除屋さんで、不浄なものとされていたような気がします。奴隷は少ないです。そもそもイルム王国では余り奴隷を見かけません。イルム王国で奴隷を雇える階級が国王や太守に固まっており、市井に奴隷が少ないからじゃないのとルエイニアは言っていましたが……どうもそれだけでは無い気もします……その中で、一際目立つ人影が目に入りました。


 全身を覆う衣装をあちこちいじくって、一部の肌がむき出しになっており、その辺の草を編んだ衣装は一部がスレ切れているみたいな感じです。顔もとくに覆っておらず、その顔と不釣り合いの大きな丸ガラスの嵌まった丸眼鏡を掛けており、荷物を背負っている行商人らしきあどけない顔をした女性です……。その女性はどうやら道に迷った様で辻をうろうろとして居ました。


 その姿は流石に見覚えがあります。確か大バザール出会った行商人のディエナとか言う人にソックリです。確かあのときは幻術を掛けていたはずなので向こうはこちらに気がつかないと思いますし、そのまま通り過ぎ去ってしまいましょう。見つかるとまたろくな目に合いません。


 これでも気配を消すのは得意なのです。主に姉から悟られずに家から出る為に取得した能力ですが、《里》の外で気配を消して出歩くと恐らく誰も気がつかないと思います……ただルエイニアだけは例外です。あのギルマスはどうやっても絶対バレてしまいます。ルエイニアがどうやって存在しない気配を探し出しているかは未だに謎です。幻術使いなのは確かですが《里》や私が使っている幻術とは系統が違うのは確かです。《里》の人達も知らない魔法はこの広い世界のどこかにあるのでしょう。《里》の中では毎日、姉が気配を消して近づいてくるので、それを察知するために私も気配の無い気配の感知についてかなり鍛えましただが、あのギルマスのスキルは常規を逸しています。いったいどうやって身につけたのでしょう?


 それはともかく気がつかれずに路地を通り過ぎることにします。いつもどおりすれば大丈夫。このまま次の角を曲がれば、バザールがあります。待ってろバザール。今日こそいろいろ買い込んでみます。希望に胸を膨らませて行きます。


 そして通りの角を曲がろうとした瞬間、誰かが背中にぶつかってきました。気配を消して近づいていくるとは行商人に気を取られていたとは言え、一体どういうことでしょうか?これが仮にこれが竜の洞窟ならば即死です。油断は禁物です。もしかして100年ほど修業やり直さないと行けないでしょうか?


 慌てて振り返ってみると、そこに居たのは、振り払ったと思った行商人でした。


「済みません。眼鏡を落としてしまって……」


 行商人は、そういいながらオロオロしていました。……そういえばこの人天然で方向音痴でした……。


「眼鏡ならおでこに引っかかっていますよ?」


 それを聞いた行商人は、おでこに手を触れ……。


「ああ、有りましたありがとうございます。お礼を差し上げたいのでしょうが、しばらくお時間頂けないでしょうか?私、行商人のディエナと申します……だ。よろしくおねがいし……」


 相変わらず口調が安定してません。よく見ると先日買い与えた安ブローチを律儀につけていました。やはり、大バザールであった方向音痴行商人で間違いなさそうです。


「私はフレナと言います。エルフの王国から来た旅人です。この街のバザールを覗きに来ました」


 エルフの王国から来たのは間違いないので嘘はついていません。


「ところでフレナさん、先日お会いしていませんか?」


「……無いと思いますけど?」


 先日は幻術を掛けていたので別人にしてお きます。そうしないと面倒です。しかし、早速、面倒ごとに巻き込まれた様です。あの占い師やります。

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