イルム王国編22 要塞都市3
行商人にバザールへ向かうので急いでいると言うと「私も丁度行くところでした」と勝手についてきます。「途中で迷ったらおいていきます」と言い聞かせておきます。言い聞かせても勝手についてくる気がしますが。
行商人は呑気に『要塞都市完全攻略軍事地図』なるものを広げて大仰に見ていました。……と言いますがこれは国の機密にあたるものでは無いでしょうか……そのようなものを昼間の路地で大ぴらに広げて良いモノでしょうか?そもそも行商人が大げさな地図を持っているのかが不思議です。
「その地図は?いったい?軍事地図ってどういうしろものですか?」
「ああ、この地図は爺やに押しつけ……いや貰った……いえ、実家の秘伝です」
相変わらずこの行商人のキャラがぶれまくっている用で悪い意味で安心しました。振り切るのも面倒ですし、勝手についてくる分には、この行商人は放置しておくことにします。そのうちはぐれて道に迷うと思います。私は、
「実家の秘伝でしょうか?」
「はい、実家の秘伝の地図です」
「それにしては新しすぎるような気がします」
「ソコハセンサクシナイデクダサイ」
この行商人の相手していたら日が暮れてしまいます。さっさとバザールへ行かないといけません。このお惚けた行商人は放置して、さっさとバーザルの方に歩みを進めます。「ちょっと、まってーください」と行商人が追っかけてきます。相変わらずキャラが定まっていないようです。
バザールに近づくとそこには白い布を頭に巻いた大群が群れをなして直立していました。
「げっ、親衛隊が……なぜここに……」
行商人がびっくりしたように立ち止まります。
「……親衛隊がどうかしました?用事があるならこのまま置いていきますけど?」
むしろ積極的に置いていきたいぐらいです。
「……あ、ハイ。いや怪しまれるかな。ここは堂々と……」
ただでさえ挙動不審な行商人がさらに挙動不審に見えます。これは置き去りにした方が面倒にならない気がします。
「……ディエナ王女殿下、なぜここに居るのですか?」
そこに白布隊の筆頭らしき髭の無い老人が呼びかけます。男性のようですが、なんとなくおばあちゃん感を醸し出していました。声も裏返っています。
「殿下?誰のことしょう……です?私は単なる行商人ですが?」
「そのような行商人が居る訳ないでしょう。またプチ家出ですか、そろそろ王宮に帰りましょう」
老人がディエナの手を取ろうとします。
「いやです。
ディエナは、踊るように、老人の手を振り払うと私の手を取り言います。
「また、変な小説の読み過ぎですか……。さっさと戻って来なさい。この国に白いお城も草原も教会もありませんからね。ホントにすぐ本に影響されて飛び出しては面倒に巻き込まれるのですから、今、王宮は大変なんですよ。殿下は三番手ですよね。これが宰相や将軍の目に入ったらどうするのですか……」
「いや、そんな地位には興味ありませんし……私は愛に生きる乙女ですから」
「ダテの丸眼鏡に怪しい行商人の格好で言ってもなんら説得力がありませんよ」
「あのような聞き分けの無い爺やは放置して、王子様、あちらへ行きませしょう」
王子なるものはこの付近に一切居ないのですが……どうやら完全に面倒に巻き込まれた様です。
「はぁ」と爺やが溜息をつきながら首を振ります。
「大変ですね」
私は、爺やに声を掛けてみます。
「まぁいつものことだし、後、数日もすれば元に戻るだろうけど。それまではお前さんにディエナ王女をお任しますぞ」
……それは聞いてません。仕方無いので《拡張念話》で筆頭書記官とルエイニアに連絡を取ります。
(……という訳なのですが……)
(それは国際問題になるから私達が口出し出来る問題ではないですね……。それでは一時的にエレシア公女殿下の護衛の任を解きますから、しばらくの間、イルム王国のディエナ王女……確か第三王女でしたかしら……の護衛をお願いしますよ。ただ、これはエルフの王国とは一切無関係と言う事で……)
筆頭書記官は、あっさり切ってきました。
(面白そうじゃん。楽しんできなよぉ。こっちは拷……尋問が進んでいないからさぁ。そっちに首突っ込めないと思うんだなぁ。ごめんねぇ)
ルエイニアは、むしろ首突っ込んでこない方がマシ様な気がします。ポンコツ王女とルエイニアを掛け合わせたら、あり得ない錬金反応を起こして大変な目に合うのが手に取るように分かります。
(……フ……フレナ様……がんばれ♡)
……心のよりどころのエレシアちゃんまで……。
(そういえば一つ言い忘れました。この街と王都の中間ぐらいから街道を北上した所の川沿いに隠れ家がありますから、そこを自由に使ってください。名義上はこの国の商人の持ち物になっていますし、エルフを匂わすものは一切置いて有りませんので安心して使ってください。屋敷の鍵は右のエイニアに渡しますので受け取ってください)
仕方無いのでエレシアちゃんの様子はジニー経由で眺めることにしましょう。
爺やは王女を託すと一群と一緒に太守の宮殿に退去していきました。この都市の太守は司令官でもあるので、軍司令部とも言うのでしょうか?そのあたりはよく分かりませんが、そこからやってきたのでしょうか?それとも今からそこに向かうのでしょうか?そのあたりはよく分かりません。
ともかく爺やに王女を押しつけられた私は王女に見えない手綱をつけてバザールをブラブラすることにしました。
「王子様、何処に行かれるのでしょうか?」
「……王女殿下、そろそろそのポンコツお芝居をお辞めください」
「良いじゃ無いですか、せっかくのデートですし」
「ただの買い出しなのですが……」
『エルフを匂わすものは一切置いてない』と言う言葉には食べ物も一切置いてないと言う意味も含んでいそうです。それで、まず食べ物を用意しないといけません食べ物が無いと飢えてしまいます。水などは魔法で凝縮すれば良いのですが、食べ物の創造魔法は流石にやりたくありません。魔法で作った得体知れない食べ物は食べたくありませんし、《里》の薄い焼き物はありますが、人間さんが食べられるかよく分かりませんし、食べた気にならないので、やはり、買い出しするしかない訳です。
取りあえずバザールで米と小麦粉と小さな麻袋一つ分と肉と肉と肉と果物と野菜を買っておきます。日常雑貨は……こちらは最悪自作できるので良いでしょう。
買った物は巾着に投げ込んでおきます。
「その袋には何でも入るのですか?商人が垂涎ものじゃないでしょうか?荷馬車なしでいくらでも荷物が入るのですよね。私も似たような魔法の
今、背負っている背嚢が恐らくそうでしょう。何らかの魔法が付与されている様です。ただそれを維持するのに高価な魔石をセットしないと行けない感じです。王族と呼ぶからには魔道具の1つ2つぐらい持っていてもおかしく無い話でしょう。
「そうですか?何でも入りませんし、いくらでもも入りませんよ。それ以前にいくつか問題があるので、作り直そうと持っている品ですけど?」
特にパン種が保管出来ないのは致命的です。
「え、これ作れるのですか?それなら沢山作って売りませんか?儲かりますよ」
「そんなに簡単には作れないですよ……」
いや作れますけど、なんとなく厄介ごとが増えないので適当にお茶を濁しておきます。
その間に右のエイニアから鍵を受け取ります。鍵は、通りですれ違った一瞬で行います。右は肉片手に食べ歩きながら通り過ぎていきます。流石手慣れたものでまったく違和感無く受け渡しは終わりました。端から見たら何が起こったか分からないでしょう。王女の謎の妨害が入らないかと心配していましたがそれは杞憂でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます