イルム王国編19 学園都市6
「こいつの胃袋はどうなっているんだ」
宿舎に戻るなり右の方が
「いつものことですよね」
「我はまだお腹が空いているのだ」
「少しは自重しなさい。もう少しで夕飯ですし、お土産もあります」
「ほんの少し我慢してやるのだ」
それはともかく夕飯にしましょう……。今日は疲れましたし、まだする事があります。……とは言え夕飯と言うものもあまり質の良い物ではなさそうです。それでもやんごとなき人達の子ども用の食事なので、多少はマシなモノが出てきました。豆とイルムキビを炒めたものと焼いた肉でした。イルムオオトカゲの肉だそうで、結構高級品だそうです。筆頭書記官は、『トカゲですか……』と躊躇していましたが、ちなみにイルムオオトカゲの肉はかなり淡白で、それを香辛料やハーブで味付けにしていました。ほんの少し物足り無いぐらいの味付けでした。しかし、今までのイルム王国での食事の中では一番まともでした。
食後はお風呂に入ると——この宿舎にあるのは残念ながら乾式サウナだけでしたが——レポートのとりまとめに入ります。
『……の触媒に流体金属を使うと効果が増す。流体金属はリアントで大量に売っている。』
この部分をどう書こうかと迷っていると筆頭書記官がやってきてわざとらしく言います。
「あら、同じ本を買ってしまったわ。この本賢者様にあげるわ。是非読んで感想教えて……」
そう言いながら筆頭書記官に『成敗仮面』と書いてある薄い本を押しつけられました。
「感想を述べないと行けないのでしょうか?」
「感想文10枚に書いてね」
「……今から学園長に渡す書類を書かないといけないのですけど……」
「感想文は読んだ後に書いてくれれば良いから今日じゃなくても良いわよ。それより学園長に渡すレポートだけど中身はこちらでチェックさせてもらうから。賢者様はまたトンデモ技術を教えそうな気がするし、それをやられると国家間のバランスが大きく崩れる可能性があるからね。そういった文言は削除した文章を収めるから」
またと言うのはどういうことでしょうか?これは冤罪です。それ以前に感想文は絶対書かないといけないのでしょうか?オーガ・ロードと呼ばれるだけあって無茶ぶりも良いところです。それより学園長に提出するレポートをまとめることにします。
「ところで……学園長は?」
筆頭書記官が左右の二人に尋ねています。
「ああ、それならシロ」
「エイニア、略しすぎですよ。学園長ですが、《宰相派》でも《将軍派》でも無いようです。厳密に言えば中立派ですらありません」
左の方が答えます。
「ユイニア、後は任せた」
右が言います。
「中立派でも無いね……。そう言えば宰相の反感を買って学園長に左遷されたとか言ってたわね」
「はい。反宰相派ですが、反将軍派でもあるみたいで厳密な中立派とは言えない様です」
「今の時点では、それだけ分かれば良いでしょう。今現在、キャスティングボートを握っているのが誰かが重要ですし……」
「それは誰も握ってないんじゃ無いかなぁ……」
「ルエイニア、それはどういうことでしょうか?」
筆頭書記官が問いただします。
「今日は、男三人ほど、ごう……尋問したけど、何も知らないみたいだったし……。大体、大もうけ出来る話があると聞いて裏も取らず襲撃しかける間抜けな盗賊団が半世紀以上存続しているとか奇跡だわ……。あいつらは首都についたらさっさと番所につきだそう……社会のゴミだし」
相変わらずルエイニアは物騒なことを言っています。
「その話では無くキャスティングボートの持ち主が居ない話」
「そうねぇ。《宰相派》も《将軍派》も行き当たりばったりなんだよねぇ。要するに何も考えて居ないんじゃ無いかと……」
「それは私達をどうするかも考えて居ないと言うことでしょうか?」
「そうなるかねぇ。取り込んで次期国王候補の後ろ盾にするとかすら考えて居ないみたい」
「流石にそれは頭が平和過ぎますね。私達がここに居る理由が全否定されている気分」
そういえばエレシアちゃん派遣団は、フェルパイア連合と帝国が戦争になりそうだかフェルパイアの視察と同盟を結ぶか決める為の外交特使だったと思います。自信有りませんが……。
「宰相は落とし所すら決めていないのかしらね。このままだと国王不在のまま首都について形式ばかりの典礼を行ってお開きって感じになりそうな感じがするわ」
「まぁそうは行かないと思いますけどねぇ。これから一波乱あるんじゃないかなぁ」
ルエイニアがおどけながら言います。
「そ……それはどういう……」
エレシアちゃんが不安そうに尋ねます。
「ここの教師の一部は《宰相派》みたいだし一部は暴走するかもね」
「そのような泥を塗ることをするのですかね」
「彼等の頭には脳みそが詰まっていないからさぁ。よかれとやって足引っ張るとか普通にやるでしょ。《宰相派》も一枚岩じゃ無いしさぁ」
「《宰相派》や《将軍派》の一部がこちらに接触してくる可能性もあると……」
「盗賊を使って邪魔したりねぇ。子分がバラバラに活動しているみたいだしさぁ。統制取れてないだろ」
「そうすると王国より帝国の動向に時間割いた方が良いかしらね。外交官、王妃殿下に連絡とれますか」
「筆頭書記官、少しお待ちください。内容をとりまとめて《念話》しますので……。最初に簡潔にまとめておかないと王妃が長い無駄話を始めてしまうので……」
「防衛ラインをデレス君主国まで下げるのも考慮しないといけませんわね……。フェルパイア連合の双璧の片割れがこの体たらくでは、早々に帝国に飲み込まれる可能性も高いですし、東の《砂の大瀑布》と西の《川の大瀑布》の二拠点さえ抑えておけば帝国もエルフの王国には攻め込んでは来れないでしょう」
「その場合、西方の動きが気になりませんか?」
外交官が言います。
「それはディーニア王女殿下に任せておきましょう。罠を偽装してその上に一つ二つ偽装した罠を仕掛けるのがお好きな殿下ですし、西方は隙を見せればまた勝手に罠に掛かってくれるのでは無いでしょうか?」
「その旨も王妃殿下に……」
「その下りは話さなくて良いです」
ところでいつまでこの話を私の部屋でやるつもりでしょうか?私はレポート書くので忙しいのです。
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