イルム王国編5 国境の街5
翌日、朝に美味しくないイルムキビの粥と山羊のチーズの食事を食べた終えたあと、王都に向けて出発します。作りかけのオーブンは結界ごと巾着の中に放り込みました。ここかイルム王国の王都まで四日で着く日程です。
「ところで、今日もあんな所に泊まるのでしょうか…………」
「流石にそれは無いと思います。イケメン眼鏡執事とか早々いないと思いますので……」
筆頭書記官が相変わらずおかしいな事を言っている間にからっと晴れた雲一つ無い寒空の中を馬車が進んで行きます。晴れ渡った空に冷たい風が吹き込んできました。魔法を使わなければ身体が冷え込むことでしょう。そそくさと馬車に乗り込む事にします。馬車の中は魔法で適温が維持される様にしてあります。イルム王国は南北はさほど広くないのですが東西はやたらと長く《中央街道》から王都までが4日の距離、つまりおおよそ40エルフ里(約160km)、ちなみに王都から東の国境までは100エルフ里(約400km)も有ります。ただ東の国境と言うのは《南の砂漠》のど真ん中にあり、そこは恐らく魔獣ぐらいしか住んでいないそうです。恐らくと言うのはその場所は、国境といっても魔獣ハンターの冒険者が野営していれば御の字と言うぐらい人間さんが居ない場所だそうです。しかも、その国境は、数十年ほど前のイルム国王が、イルム王国東方征伐軍と言うものを創設し、東の方に部隊を派遣したそうです。結局、砂漠の真ん中で食糧が付きて引き返したそうです。その東方征伐軍の最終到達地点に国境の標識を建てたのだそうです。今ではその国境の標識があるところがイルム王国の東の国境と主張しているそうです。しかし、その標識を見たものはその後数十年誰も居ないと言う話だそうです。
《南の砂漠》は、南北はエルフの王国の東南、デレス君主国の東側、フェルパイアの東からティルティス帝国にいたり、東西は更に長いそうです。その昔、デレス人はこの砂漠を超えてきたのでしょうか……。後、その辺で肉を食べている
「ノルシアは《南の砂漠》について何か知っていますか?」
「我はあそこを通過してきただけだからよく知らぬ」
「では、元々何処に住んでいたのですか?」
「もっと北の方だ。我は元々ずっと北の方にある草原にずっと住んでたのだ。ところがある日突然、虹色に光る巨大な竜が現れて……後はよく覚えておらぬが、我は重傷を負い、ほうほうの体で《南の砂漠》までへ逃げてきてのだ。しかし、そこでは傷は癒やせぬから安寧の地を求めてさらに西へ西へ……」
——だそうです。
どうも《南の砂漠》の大半は魔獣の領域で、そこを横断するは難しいみたいです。魔獣の強さに加えて、水や食べ物の補給も困難というのが横断をより困難にしている様です。
「ゴブリンの血肉を啜ればなんとかなるんじゃない。ゴブリンの肉って食べると腹下しそうだけど……。そもそも食えるのあかなぁアレ、すごく不味そう」
などとルエイニアが言ってます。そう言えばゴブリンは食えたものではないそうですが、オークは両脚豚と呼ばれ食べられていると言う記述が本に書いてあった気がします。現代の外の世界でゴブリンに比べてオークが非常に少ないのは食用として狩られて絶滅しかけたからでしょうか?それはともかくアレはいつまで私とエレシアちゃんの馬車に居座るつもりでしょう。
基本的にイルム王国は首都から西側に農地が固まっているのですが、あくまで川沿いを中心にしたごく一部に集中しています。しかし
「ただイルム王国の場合、近くに水源になる山がないから
そういう話をしている内に昼食の時間になりました。今現在居る場所は、ちょうど次の街の中間にあたる場所です。街道沿いですが、人影もありませんし当然時間を告げる鐘もなりません。しかし太陽の位置がほぼ真南に位置しているのでお昼だと分かります。しかし正確な時間は星を見ないと分かりません。
それより不思議な事に街道では商隊とほとんどすれ違いませんでした。昨日、国に入ってきた他国の商人達は一体どこに居るのでしょう?行列を作っていた商人達が、まるでかき消えた様に国境の街から続く《西イルム街道》は閑散としていました。
「まぁ、香辛料の買い付けだけなら国境の街でも十分だからなぁ……にしても少なすぎるねぇ。街道に商人が全く居ないじゃん」
ルエイニアがボソリと言います。なぜ、ルエイニアは今日も私とエレシアちゃんの馬車に乗っているのでしょうか?
この付近は街道が川からかなり離れており近くに田畑や農村もない丘に囲まれたやや複雑な地形で、そこを縫うように街道が走っています。丘の影になる部分に灌木がぽつぽつと生えています。
「この辺は伏兵するのには良い場所だねぇ。長居する場所では無いないなぁ」
――とルエイニアが言っています。
「しかし、ここを過ぎると休めそうな場所がありません。今日は風も強いですし、この先は砂埃がさらに酷くなりそうです。その前に御者も休ませないと行けませんし……」
そう言いながら筆頭書記官が路程表を読んでいます。昼食の為に、馬車が止まると私は外に出て風の音色を聞いてみました。丘が風を遮断していますが仮に丘が無ければ辺り一面砂埃が舞っていそうです。御者は口や目を覆った方が良いかも知れません。あの眼鏡はそのためのものでしょうか……いやアレでは砂埃は防ぎ切れまないですね……そう思いながらエレシアちゃんと昼食を頂くことにします。昼食は昨夜の夕食の残りみたいなものでした。……今夜はまともなご飯が食べたいです。
小休止を挟み再び馬車に乗り込み街道を東へ進んでいきます。風が段々強くなり時々馬車が揺れます。
「やはりこの辺りは風が強そうですね……御者達は大丈夫でしょうか?」
「馬車に《風障壁》の魔法をかけておいたので大丈夫だと思います」
「フ……フレナ様、い……いつの間にそんな魔法を?」
エレシアちゃんが驚いた様子で私に尋ねました。
「馬車に乗る少し前です」
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