イルム王国編6 街道の盗賊1
「なんか、いやな感じがするなぁ」
「またですかルエイニア。さきほどは何も無かったではないですか」
筆頭書記官が言います。
「確かに、何かありますね」
「今度は賢者様もですか」
「ええ、前方に二十三人居ます。しかも全員武装しています」
「後からは三十人ほど近づいているねぇ。魔法使いも混ざってるかなぁ」
「ルエイニアさんも人の気配が分かるのですか?」
「ギルマスやってるぐらいだから、この程度の事は当然分かるよ」
流石にギルマスと索敵能力は全く関係ないと思いますけど……。私の場合は、魔力・霊体・幽体・音・匂いなどを見て気配を判断している訳ですが、ルエイニアがどのように気配を感知しているかは分かりませんでした。もしかするとルエイニアが使っている謎の幻術にそう言う術があるのかも知れません。
「ま、でも本命は街道の横に伏せている30人隊の二つでしょうね」
「そこまでは分からなかったな。動いていないものはわかりにくいんだよなぁ……。もう少し近づけば分かるだろうけど。そうすると前の部隊は時間稼ぎの囮、そこに気を取られているところで後ろから奇襲してぇ、護衛が前後に移動したところを伏せていた部隊が馬車を襲うと言う感じかなぁ」
「全部で113人ですか?盗賊にしてはヤケに大規模な気がしますけど……」
「多分、後方支援とかを含めれば200人ぐらいの規模の盗賊団じゃないかなぁ……この辺りの盗賊団で200人規模になると年に1ー2回、大規模の仕込みしかやらないはずなんだけどなぁ」
「仕込みですか?」
「そう。確実に金になる獲物を何年もマークして、それを狙うのさぁ。この規模の盗賊団を維持するには一年間で金貨2000枚は少なくとも必要だからねぇ。そうすると割に合わない小規模な商人や旅人は狙わない。たかだが一日銀貨数枚程度の稼ぎの為にリスクは負えない。しかし一度の稼ぎが少なければその代わり頻繁に襲撃繰り返すことになる。そうなれば憲兵や冒険者ギルドに警戒されて討伐の対象になるわけだ。だから狙うのはもっぱら大商人や豪族。それも余り評判良くない連中を狙うのさ。憲兵に訴えると逆にお縄になりそうなやばい商売をしている商人とかね。一回の仕込みが成功すれば身代金や盗品なんかで一度で金貨数千枚ぐらいのしのぎになるわけだ。ただ、頻繁に活動すると目立つしそんな都合の良い商人は多くないし普段は厳重な護衛つけてたりするから多くても年に1回か2回しか仕掛けられないみたいねぇ」
「長期間マークして油断したところを狙うんですか」
「そういうところは商店や貴族の屋敷に手下を10年単位で送り込んでスケジュールや普段の行動まで把握するらしいよ。だから実働部隊より後方支援の数が遙かに多い盗賊団もあるとか」
「そ……そんな、と……盗賊さんも居るのですか?」
エレシアちゃんが聞きます。
「大体、旅行者や冒険者を襲うなんて食い詰めものとか盗賊団を追い出されたごろつきみたいな頭の悪い連中のやることだよねぇ。治安が悪いところならともかく、そこそこ良い国ならすぐに捕まるのにね。まぁ、そこまで頭が悪いと返り討ちにあう方が多いだろうねぇ……。街道に張るより街中でスリやってるほうが絶対割が良いよアレ。ま、おかげで冒険者ギルドは仕事に困らないんだけど」
ルエイニアの毒舌が炸裂しています。
「でも、奴隷に売り飛ばしたりとかすれば、それなりのお金になるのではないでしょうか?」
筆頭書記官が食いつきました。
「いや、奴隷商人って奴隷の出所をかなり気にするからすぐ足付くよ。それ以前に奴隷って大した金額にならないんだよねぇ。一般的に奴隷は20代の壮健な男性が一番高く売れるけど、盗賊が相手にするには分が悪いでしょ。女性は半値。子どもは成人まで生きられるか分からないからかなり安いよ」
「それではアルビス市民国の奴隷狩りは何だったのでしょう。あの事件では子どもが狙われてましたよね」
「恐らく帝国の連合分断策だと思うよ。書類を見た限り奴隷の買い取り値段が相場より異常に高かったのさぁ。もしかして帝国でスパイ教育受けさせてまた送り返そうとか考えていたのかもねぇ……」
「それは、どういうことでしょうか?」
「ほら、帝国人をスパイで送り込むより、フェルパイア人をスパイに仕立てあげた方が潜り込まれた方がわかりにくいでしょ。スラムからさらった子がどうなろうと気にする人は少ない。しかもさらったのはフェルパイア人。帝国が救出したとなればその子はどう思う?」
「帝国に恩義を感じフェルパイア人を恨むのではないでしょうか」
筆頭書記官が少し考えたあと言います。
「その状態だと洗脳が聞きやすい。後はスパイの教育を受けさせた後、フェルパイアの帝国支援者の元に送り込むと。まぁ、ただの仮説だけどさぁ。現実は、そんなにうまくいかないだろうねぇ……」
「現実は草子の様にはいきませんか……そういえば帝国の宮廷奴隷は異国人ばっかりと聞きましたけど奴隷の子どもを購入しているのはそれもあるのですよね」
筆頭書記官が言います。筆頭書記官は、最近そういうおもろ草子にはまっているのでしょうか?
「帝国皇帝は自分の子どもを一番信用せず、自国民も全く信用して無いからねぇ。そして小さい頃から一緒に育った異国の奴隷以外を信用しないとか言う噂は聞いたことがあるけどさぁ。流石にその目的ではないと思うけどなぁ……」
ルエイニアが自問しています。
「そ……それより盗賊さんが近づいていると思うのですけど……ど……どうすれば良いのでしょうか……」
「……あ、そうだった」
私もすっかり忘れていました。
「それでは私がノルシアと軽く殲滅してきましょうか?」
「なに?近くに旨い食べ物があるのか」
先程から櫂を漕いでいた
「それより、このまま知らないふりをして接敵しましょう。前に右のエイニアと会計の人、後ろに左のユリニアと書記官の二人を割り当てようねぇ。後は車内で待機さぁ、フレナ、話を二人に《念話》で飛ばせる?」
「まぁ《念話》は出来ますけど、それより会計と書記官は戦力になりますか?」
……どうみてもならない気がするのですが……。
「ああ、その二人は数あわせ要員だねぇ。恐らく盗賊団は護衛は4人しか居ないと思ってそうだからねぇ。盗賊の相当するなら2ー30人程度なら清掃係一人でも十分過剰戦力でだよねぇ」
ルエイニアがなにげに酷いことを言っていますが言われたとおりの内容を《念話》で二人に伝えます。
「しかし殲滅した方が安全なのでは?」
「いや、さっき話したとおり彼等は仕込みをしてから動く盗賊団だと思うよ。だから、ここにエルフの王国の馬車が僅か護衛4人で今日、この時間通る事を知ってて待ち伏せしてなければならない」
「そ……そういえば……他の馬車を見かけませんね……」
「そう、それもおかしいよねぇ。街道沿いの町なのにすれ違う馬車が全然ないのよねぇ。丸で足止めを食らっているかのように……」
「それは、誰かが罠にはめたと言う事でしょうか?」
筆頭書記官が食い気味に来ました。
「《宰相派》と《将軍派》のどちらかが動いたのかもねぇ……。理由は分からないけどさぁ……そう言えばフレナは、もう少し先に居る気配は分かる?」
「……北の方に、数百ぐらいの武装集団が居ますね……演習しているような動きをしています」
「フレナは、馬車の中でその集団の動きを監視してくれないかなぁ」
「私は、外に出なくても良いのですか?」
「伏兵はボクとノルシアだけで十分でしょ」
それはそうですが、竜ですから人を相手にした場合の加減が分からないんですよね……
「ノルシアだけで大丈夫ですか?」
「ああ、時間稼ぎするだけだから大丈夫だよ。最悪立ってるだけで良い。」
——などとルエイニアが言っています。
「せめて武器でも持たせましょう……」
巾着の中から長い棒きれを出します。《強化》と《硬化》を付与します。
「このスタッフでも持っておけば格好はつくかと」
確か理気術に棒で戦う棒術と言うのものが有った気がします。ただし、こういう棒を使って戦うかは知りません。
「フレナ、それでは『そろそろ盗賊が接敵してくるから準備よろしく』と清掃係のお二人に《念話》を飛ばしといてくださいねぇ」
このギルドマスターなにげに人使い荒い気がします。気のせいではなく事実ですね……。
(……と言う訳で準備お願いします)
(全員ぶち殺して良いのだな)
この物騒なのは右の方ですね……。
(……少し待ってください)
ルエイニアに確認を取ります。
(生け捕りにしたいそうなので、多少手加減して貰えると……)
(わったよ。で、この
木偶とは会計の人の事を言っているのでしょうか?しかし会計の人は、存在感の薄さ道場があったとすれば師範クラスの腕前なので、恐らく盗賊も認識出来ないと思いますけど。
(適当に石でも投げて貰えば良いのでは無いでしょうか?)
恐らくどこから石が飛んでくるか分からなくて盗賊達は驚く事請け合いです。
(じゃあ、そう言っておく)
(そちらはどうですか?)
今度は左の方に聞いてみます。
(遠距離から砲撃して問題ないのでしょうか?)
(出来るだけ引きつけてくださいと言う話です。それから、できるだけ戦闘を長引かせる様にと言う話です)
(手加減できるかしら……)
何かこちらも物騒な事を言っていました。
(それでは準備をお願いします)
(あい)(わかりました。賢者様も無茶しないでください)
《念話》を切ると今度は《感覚共有》を行います。近くの上空をアラワシが飛んでいたのでそれをキャッチして上空から様子を俯瞰することにしました。
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