アルビス市民国編32 次の国へ

 大祠から出てきた法学官長が言うには『彼等の売国行為は間違いない』と《神の啓示》があったと言う話です。どのように売国行為と言う判断を下したか聞いてみると


「神がそうおっしゃった」


 だけでした。詳しくはマースドライア教の教義に触れるので教えられないと言っていましたが、どうやら真実を看破する信仰魔法でもあるような感じでした。


 その話を聞いたドロルは評議員達については市民総会で刑を問うと言う話です。何でも評議員を罪に問うには議会のうち5人の賛成を集める必要があり評議員7人のうち3人も犯罪に荷担しているとなると議会で罪を問うのは不可能なため、もう一つのやり方である市民総議会で評議員の罪を問うやり方を使うしかないと言う話でした。市民総議会招集権限は総督の専任事項なので法学官長に発布する書類を確認させたあと、ドロルはその書類にサインしていました。市民総会は最短で来月には開けるそうです。


 その時、筆頭書記官が慌てて飛び込んで来て、翌日、エルフの王国一行は次の目的地に旅立つ手はずになったと告げました。筆頭書記官曰く、新しく来た外交官の言うにはそろそろ次の国に向かわないとスケジュールが狂うと言う話で、筆頭書記官はそのまま慌ただしく出て行くと出立の準備を始めました。


 次の日、宮殿の前で馬車に乗ろうとしていた私達の前にドロルが出てきて言います。


「大したおもてなしもできず、逆にトラブルに巻き込んでしまって申し訳ない。あの評議員達の結果については王国に届けさせましょう。何しろエルフの王国の方々には迷惑を掛けましたし……ケジメはきっちり付けないと行けないと神もお許しになりません」


「い……いえ結構です。自分の国の事は国の中で決めるべきでわ……私達が関与すべきではないと思います。エ……エルフの王国がこの件に関与は行けないものですし……ほ……本当は部下を貸し出したくもありませんでした……」


 エレシアちゃんはそう断りました。確かにあの無礼な評議員達がどうなろうが別に有用な情報ではありません。それにこれは王妃が絡んでいるらしいのでエルフの王国にも何かしら利益があるのだと思います。


「それは申し訳なかった。何分総督は手駒が少ないもので、猫の手の借りたい状態だったのじゃ。あなた方の助力については何かと報酬を与えたいと思うが」


「そ……それではエリウの屋敷の従者達とスラムの子どもたち保護してあげてください……」


「それは構いませんがそれだけでよろしいのでしょうか?施しは神の僕たる我々の義務であって、それは報酬では御座いません」


「そ……それならその猫をモフらせてください……ぶ……部下の報酬にについては直接お尋ねください」


 丁度、目の前を通った宮殿将軍猫を指さしエレシアちゃんが言います。エレシアちゃんは、よほど猫が気にいったと思います。


「しかし、あの者どもの無礼については土下座させないと……」


 ちなみに筆頭秘書官はそう独りごちていました。


「……む、それは闘技場でいかさまが発覚したので賭け不成立になってしまったのだ。これも神の采配なのであろう。それからこれは、途中打ち切りになった闘技場の賞金じゃ」


 ドロルは私に金貨の詰まった袋を手渡します。


「ディベーユ金貨百二十六枚とディベーユ銀貨十七枚ですよね。少し多い気がしますが、いただいてよろしいのでしょうか」


 手に取った感じではそんな感じでした。


「(……中身を見ないで何枚入って居るのか分かるのか誤魔化さずに良かった)それは侘び代込みじゃ。本来十戦やらないと行けないところを七戦打ち切りにしてしまったので三戦不戦勝と見なして十連勝で賞金を計算しておる。それに闘技場の管理人が裏賭博に絡んで居た関係で記録に残せない分と奴らがインチキした分の謝罪をそれに加算しておいた。それから闘技場の賞金は本来帝国金貨で支払うのだがそれでは使いづらいだろうからフェルパイア金貨に両替しておいた。まぁ用立て出来ないのも理由だが、不都合であれば交換するがいかかが?」


 独り言が気になりますが、ざっくり計算してみると闘技場よりは良い数字で両替していそうな感じです。


「断る理由も無いのでそのままちょうだいしておきます」


 私はそう言うと金貨の詰まった袋をそのまま腰に付けた巾着袋に放り混んでおきました。


「ところで、その小さな袋にその大きな金貨の袋が入るのか?」


 目を丸くしながらドロルが言っています。


「ちょっとした魔法ですけど」


 収納ストレージの魔法で亜空間に突っ込んでいるだけに過ぎませんし、収納の魔法はエルフの王国の魔法書にも書いてあるぐらいの初歩的な魔法に過ぎないと思うのです。


「非常に高度な魔法に見えるのだが……まぁ魔女どのにとってはした魔法なのであろう」


 ドロルは無理矢理納得させようとしている感じででした。


「そうそう、エリウに奴隷にされていた娘と弟はわしのところで引き取る事にするぞ、スラムの再開発はユサンがそこに住んでいる子ども達の教育をエーユが私財をつぎ込んでやるそうだ。奴らの場合、将来への投資だと思うがな。だから心配しなくても良いぞ」


 ドロルがおおらかに笑っています。


「それは良い話だと思います」


 どのあたりが良い話かはよく分からないのですが後に筆頭書記官にでも聞いてみることにします。ドロルは左右の二人に報酬に関して尋ねていましたがそれに関してはどうでも良いので割愛します。


「……そ……それでは次の国に行かないといけないので、し……失礼します。ご歓待ありがとうございました」


 エレシアちゃんがドロルにお礼を言います。エレシアちゃんは礼儀正しい良い子です。何故か筆頭書記官が感無量な顔をして目元を拭っていました。


「少し待ってください。本件は帝国が裏で絡んでいると思います。残念ながら帝国からの工作員は発見出来ませんでしたが帳簿の動きからは帝国からの金銭の動きが確認できました。他国にも帝国の工作が及んでいると思われるので、くれぐれも気を付けてください」


「それは肝に応じておきます。それでは参りますよ」


 筆頭書記官が言うと用意してある馬車に乗り込みました。もちろん私は、エレシアちゃんの護衛ですから同じ馬車に乗り込みます。そろそろ筆頭書記官は別の馬車に乗って貰いましょう。試しに筆頭書記官に弟さんの前に異様にハイテンションだった話をしてみると……「その件はご内密に……特にエレシア様には」と小さくなりながら 言っていました。


 さて出発です。次の目的地はイルム王国になります。ちなみにアルビスからイルムの間には小さな国が幾つもあるのですがそこには立ち寄らず通過していくそうです。外交官によれば調整に予想以上に時間がかかってしまい、そこまで立ち寄る余裕が無いそうです。それでも宿泊中に偉い人に挨拶する事は、何度かあるのではないかと言う話でエレシアちゃんが少し緊張していました。


 エレシアちゃんと馬車の中に乗り込むと見慣れない子どもが馬車に乗り込んでいました……正確に言い直すと見覚えがあるけど、ここに居るはずのないエルフがです。


「なぜ、ギルマスがここにいるのですか?」


「やだな。僕も次の国に用事があるから同伴させてもらうだけだよ。ほらこの通り、契約書もあるよ」


 ルエイニアが羊皮紙を広げます。中身はエレシアちゃんの護衛依頼の契約書で、ご丁寧に王妃のサインがかいてあります。


「じゃあ、次の国までよろしく」


 ルエイニアはそう言うと馬車の真ん中にちょこんと座っていました。

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