アルビス市民国編28 死霊使いの巻二
「どうした、小娘。もう攻撃は終わりか、今度はこちらの反撃だ」
単に見ているだけなのに偉そうな黒ローブが屍竜の代わりに言います。すると竜が首をもたげて、強烈な
竜の
どうやら屍竜の攻撃は大した事無いよう。もしかするとまだ小手調べの段階かも知れません。黒ローブの方をみると何故か微妙に動揺しているしぐさをしていました。微かに動く唇からこんなことを呟いていました。
「……何故だ……あの亜人の周りの魔素も吸収しているはずだ……。故に奴は防御魔法を発動出来ず、我が竜の
亜人って言い草が気に入らないのですが信仰魔法は使っていません。やはり外の人達は下代魔法の正しい使い方を知らない様です。下代魔法は魔素が無い場合は変わりになるものを使って魔法を発動させれば良いと言うことを知らない様です。火を得るのに近くに火精が居なければ薪を燃やせば良いのと同じです。火精と薪、手順、火力、燃費などが異なりますが火を得ると結果は同じです。結果さえ同じならどのような手法を採っても構わないのが魔法と言うものなのですけど……とここまで考えて気がついたのですが闇穴竜は魔素を吸収するのであって魔法自体を吸収する訳ではないようです。先程飛ばした魔法は
ふんわりとした柔らかい光球を手のひらの上に発生させ、それをゆっくりと浮かび上がらせます。朧月の様な淡い光を発している《光の球》です。それを屍竜の方に投げつけます。屍竜はやはりその光を避けようとも受けとめようともしません。刹那、光球は竜の身体に衝突し綺麗に弾けます。弾けた光の破片が屍竜の周りをゆっくりと輝きながら下へと落ちていきました。
——どうやら仮説は正しかったようです。闇穴竜は、魔素を含まない魔法の分解や吸収はできないみたいです。
アンデッド化した闇穴竜と信仰魔法の相性は最悪だと思います。闇穴竜は、魔素を使う魔法には強いと思われますが、その代わり魔素を持たない信仰魔法や打撃にはめっぽう弱く、多くの信仰魔法はアンデッドに対抗する為の術が充実しているからです。《
「……神聖魔法を使われて少々焦ったがその程度の威力では我が
黒ローブは、
それはともかく、もう少し実験をしてみることにしました。魔素を使った魔法の多重化で闇穴竜の内側に打撃を与えられるかと言う実験です。まず魔素を固めて無属性の小さな円錐を作り出します。この部分が核になる部分でここには《
魔素の塊をそのまま飛翔させるとそれを竜に突貫させます。屍竜はいつものように悠然と構えて魔素を吸収させようとしますが、どうやら多重構造を分解仕切れなかったようです。魔素の層の何層が吸収できずに竜の体内まで突っ込むと内部で炸裂しました。
衝撃の音と共に焼き焦げた匂いと共にドロッと屍竜の肉がこそげ落ちます……この魔法は手間の割に結果があまりよろしくありません。精々、身体の一部削ったのが成果と言ったところです。生きている闇穴竜であれば、口の中や目、逆鱗に当てれば効果ありそうな気がしますが、既に死んでいる相手なので身体の一部を削ったぐらいではどうやら戦力の低下は見られないようです。
こちらに対しては屍竜は次々酸亜属性の魔法を投げかけてくるので《可動防壁》の魔法で全部防ぎます。
黒ローブの方を見るとどうやらイライラしてきたようなのでここは一気に終わらせる事にしました。
光輝く槍を宙空に十五本浮かび上がらせました。見た感じは《
「ま、まて降参する」と叫びます。
黒ローブの魔道士が、突然叫びだしたので取りあえず《光る槍》を一旦消し
「私が戦っているのはこの竜で、貴方ではないですよね?」
と少し意地悪く返してみます。
「しかし、わしはセコンドじゃ、こいつがこれ以上戦えないと判断する権限がある」
「そうですか?それでは直接聞いてみることにします」
屍体と話した事はありませんが魔法が使えるのでたぶん大丈夫でしょう。そこで幽界に
『……誰か還らせてくれ……。冥界に還らせてくれ……。分かたれた半身に戻りたい……』
屍竜と意思疎通して見ると呪詛の様な声が繰り返し聞こえてきました。
『お前が土に還してくれるのか……魂と合わせろ……もう休みたい……どこの馬の骨か分からぬ奴にこき使われるのはもういやじゃ……』
「この竜は土に還りたいと言ってますね」
「いや、そんなわけがない」
黒ローブは語気を荒げると屍竜に何か呟いていました。どうやら何かの《呪い》みたいなものの様です。闇穴竜は首を大きくもたげたあと、ぐったりとうなだれます。
「もう、わしらの負けでいいじゃろ」
「そうですね」
そう言うと《魂魄還冥》の魔法を屍竜にかけます。これは
屍竜はそのまま崩れ落ち灰になっていきます。『ありがとう、これでやっと眠れる』と闇穴竜は言っていた様な気がします。気がするのは幽界を通して得られるのは曖昧なイメージなので……
「……わしの飯の種が……」と呟いている黒ローブが呆然と立ちすくんでいました。
「またまたフレナの勝ちだーーーー!。これで七連勝だ!!!」
と言う《拡声術式》が闘技場に響き渡りました。
……
……
控室に戻ると次の試合は三日後と言われました。
「そんなに待てませんが?そもそも六日で十戦と言う話でしたよね」
と問い詰めると
「対戦相手がもう居ないのです……」
スタッフが首を横に振りながら言います。
相手が居ないってどういうことでしょうか……私はさっさと十連勝して、議員に謝罪させたいので早く相手を見つけて欲しい訳ですし、この国に滞在できる訳ではありませんので
「次の試合を急いで決めてください。期日まで相手が用意できなければ残りはこちらの不戦勝になりますよね」
と言い残してと会場を一旦後にしました。
その足で市場に行き
そこで、ジニーを通してエレシアちゃんの様子見てみるとつつがなく用事をこなしている様でした。これは後でご褒美を上げないと行けません。焼いたクッキーを食べさせてあげましょう。
ついでに
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