アルビス市民国編23 お昼の巻二
「それより〔銀髪の魔人〕とは何ですか風評被害も良いところです。魔人ではなくてエルフですし、髪の色は銀色ではなく灰色です」
「それは僕じゃなくて周りの人がそう言っているのを耳にしただけだよ」
「まぁ、それはおいときまして最初、なぜ警邏隊に突き出せと言ったのですか?」
「一応、最底辺に居るけど一応市民だからね。警邏隊に突き出された方が安全だからさ」
「……と言いますと」
「警邏隊には市民を保護する義務があるから少なくとも奴隷に売り飛ばされる事は無いって事だよ」
そう言いながら子どもは箱の上にひょいっと座ります。
「それに警邏隊ならせいぜい鞭打ちか数日牢屋に入れられるぐらいで釈放だよ。鞭打ちも市民相手なら猫じゃらしで撫でるみたいに手加減してくれるし、牢屋なんかここより快適で、しかも一日三回ご飯がちゃんと食べられるもん。それにあの辺でイっちゃっている大人達に噛まれなくても済むもんね。もし入れるならずっと居たいぐらいの場所だよ」
今度は箱から飛び降ります。両足で着地しこちらに歩んできます。
「僕の名前はミードと言うんだ。よろしく〔銀髪の魔人〕お姉ちゃん」
「私は魔人ではなく灰色エルフの魔法剣士フレナですけど?」
「灰色?エルフ……そんな種族がいるの?」
「はい、ここに居ますけど?」
「聞いたことが無いけど?」
「灰色エルフはエルフの一種ですよ。あまり外の世界に出ないので確かに知られてないませんけど」
「それってハーフエルフみたいなもの?」
「ミード、それは全然違います」
「まあ、それはどっちでもいいや。お姉ちゃんは自称エルフなわけね」
「自称とは何ですか、ちゃんとしたエルフでしょ」
「それよりエルフのお姉ちゃんにそれより見て貰いたい子が居るんだけど」
ミードがエルフと言った後に一拍、乾いた笑いが入った様な気がするのですが気のせいでしょうか……ミードが連れてきたのはミードより小さい女の子でした。あどけない顔がエレシアちゃんを彷彿させます。言い替えると可愛らしいと言う意味です。ここに住んでいる他の子ども達と同じ様に来ている服がみすぼらしいですし身体も服も汚れていますが、これは明らかなに原石です。それを取り巻くように薄汚い服を来た子ども達が遠巻きに周りからこちらを見ている様でした……みすぼらしい子ども達が
「……えっと、この子を貰って欲しいと言う話でしょうか?」
「エルフ()と言うのは幼女が好きなのですか?」
「そう言う事はありませんよ。そもそも《里》には子どもなど滅多に見かけませんから」
「ならなおさら好きそうじゃないですか?でもこれは僕の妹ですからあげません」
「この方が妹さんですか?全然似てませんよね。それにこのような場所に置いておくのは良くないと思います」
笑顔があどけない女の子をまじまじ眺めてみます。やはり可愛らしいです。ただエレシアちゃんには負けますけど。
「そんなことは聞いてない。それより僕の頼みを聞いて欲しい。代わりに情報をあげよう」
「情報とはこの街のどこかに
「そう言うのじゃなくて奴隷狩りの話だよ。それを今エルフのメイドが今嗅ぎ回っているんだろ?」
そういえばそんな話を聞いた様な記憶はありますが、こんな子どもにあからさまに嗅ぎ回っていることがバレるようでは右と左の二人は大丈夫なのでしょうか……。
「もしかして、この周りを囲んでいる連中の一つでしょうか?」
「察しが良いようだね。確かに、僕たちは奴隷狩りに囲まれているよ。でも、僕たちはここにたどり付くまでには逃げ出せる自信があるけど」
そういながらミードは顎をクイッと上げます。ものすごく生意気な感じがするのですが気のせいでしょうか?とはいえ子どもやることをいちいち気にしていても仕方有りません。
「それより妹の病気を診て欲しいんだ。〔銀髪の魔人〕なら病気を治すのも
病気を治すのはエレシアちゃんの得意分野ですが私は特に得意でもないのですが……精々、薬草を組み合わせて
「それで私は何をすれば良いのでしょうか?」
「取りあえず妹をみて、治してくれるだけで良いんだよ」
そういいながら妹を突き出してきます。この子は持ち帰っても良いのでしょうか……もじもじしている仕草が可愛らしいです。人間の子どもと言うのは、本来は、このように可愛いものなのでしょうか?……いやミードを見る限り、可愛い方が例外かも知れません。
「それで一体、何を見れば良いのでしょうか?」
「〔銀髪の魔人〕様なら一目でどこが悪いか分かるんだろ?」
そんなもの分かる訳ありません。一体そんな噂を流していたのは誰でしょうか……ともかく見てみない事には何も分かりません。医者のまねごとはあまりしたくないのですけど《里》では自分の病気は自分で治すのが普通ですから診察してみれば何か分かるかも知れません。
「……ミードの妹のジーニです。よろしくお願いします」
かなり弱々しい声で少女がお辞儀します。どう見ても立っているのがやっとな感じです。
「お願いされました」
即答しました。しかし見るからに虚弱そうな体つきをしています。声を出すのも精一杯な感じがします。
「ふむふむ……」
これはよくよく身体を観察する必要があります。……もちろん病気を調べる為です。周りに居る子ども達が少し邪魔です。
「空き小屋か空き部屋みたいあなものはありませんか?ここではかんさ……診察しづらいので出来れば横たえるモノ……寝台などがあれば助かります」
「〔銀髪の魔人〕とはいえお前を信用している訳ではないから駄目だ。役に立つと思ったから連れてきただけだし、もしあいつら上級市民みたいに妹に手をだそうとしたら許さないからな……昔、姉ちゃんは手籠めにされて奴隷狩りに連れてかれたけど……そう言うのはもうゴメンだ」
ミードがわめき散らしています。恐らく何か勘違いしているようです。しかし、手籠めにすると言うはどういう意味でしょうか……。この辺りのフェルパイア語の語彙に関しては少し分かりません……筆頭書記官に聞けば分かるでしょうか。それはともかく治療をするにはどういう病気か詳しく調べる必要がある事を根気よく説明することにしました。ミードは説明を聞くと仕方ないような顔して首を振り、近くのみすぼらしい空き屋を指さします。
「変なことをしたら許さないからな。ここから見張っているからな」
ミードが何を言っているのかよく分かりませんが急いで調べた方がよさそうです。小屋は壁が崩れ落ちて、外から中が見えています。当然小屋の中は荒れ果てていて砂埃などで半ば埋まっており、とても清潔とは言えません。そこで巾着の中から
指を撫でると妹さんがたまに甘く喘ぎます。これは体内の悪い気が吐き出されている症状では無いかと思います。目が段々とろんとしてしてきて症状がやや悪化していそうです。そこで指を撫でる速度を速くし、お腹から太もも、膝、足首、足裏、それから両腕、手、指と順番に指を這わせて行きます。無論これは指先を通して体内の様子を把握するためです。しかし、段々、妹さんの息が荒くなり、時々、手足がはね上がります。もしかしたら手先から出している探知系の魔法と相剋している可能性があります。これは少し不味いかも知れません。一旦指先を止めて、魔法の力を弱くし、今度はゆっくりもういちど指先を身体に這わせて行きます。途中で妹さんの身体が大きく躍動しましたが、その後は呼吸が落ち着いてきて、身体の力も抜けてきたようなので、この方法でもう少し調べる事にします。途中でミードが「流石エロフ」と叫んで事に関しては無視します。多分エルフと言おうとして訛っただけでしょう。
……
……
どうやらこれは興味深い症状でした。何故か《病気》と《呪い》と《魔法》が綺麗に癒着しているようです。その三つが三つ巴になって拮抗しているようです。逆に言うとこれは簡単には治せません。三つの内、どれかを一つを治すと抑えられていた他の二つが優性になり、それが原因で命を落としてしまう可能性がありそうです。うっかり
しかし
最初に一体のジニーと感覚共有をします。それから周りを見渡します。丁度エレシアちゃんが着替えをしているところでした。どうやら近隣国の使節との面談があるような感じでラフな衣裳からフォーマルな衣裳へ着替えているところの様です。左右には筆頭秘書官と秘書官がついて着替えを手伝っています。しかし、エレシアちゃんの胸の小さく緩やかな曲線は神掛かり的な美しさです。思わず見とれてしまうところでした……。思わず本題を忘れてしまうところでした。
そして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます