アルビス市民国編22 お昼の巻一
今日の試合は「疲れているだろうから」と言う話でこの一試合で終わりと言われて解散になりました。全然疲れていないと何度も掛け合いましたが、最後には「次の相手が決まらないのだよ」と開き直っていました。外に出るとまだお昼どきでした。
闘技場を出ると周りを付けている様な気配がいくつか感じられます。以前から感じていた屋敷から付けてきている気配とはいくつか別の気配が感じ取れました。取りあえずそのまま帰るか確認すべきか考えることにします。それよりお昼が食べたいので市場の方に行く事にしました。
真昼に行くと割と人が出ていました。お昼休みなのか店が結構ある一方、食べ物屋さんは稼ぎ時らしく賑わっていました。そこで最初に肉を食べる事にしました。羊肉を細くスライスして棒に巻き付け回転して焼いた肉にヨーグルトに香辛料を混ぜ込んだ店特製のソースを上に掛けたケバブと言うものを買って近くに並んでいる長椅子に座って食べることにしました。長椅子に座って昼食を取っているのは男性が多く市場で買った昼食だけではなく家から持ってきたものを摘まんでいる人も居ました。その中に入って先程買った焼いた肉をソースにつけて摘まんでみました。味は酸味と肉汁が上手い具合に調和して香辛料がアクセントとなり結構いけている味でした。一方割と単調な味が続くので別の食べモノが欲しい所です。サラダと一緒に食べると良さそうな感じです。
一皿平らげると別の店を物色する事にしました。エレシアちゃんが一緒に居るともっと美味しいのですが——ジニーを通じてエレシアちゃんの様子を覗いてみるとどうやら書類に署名をしているようでした。近くでは
草系の甘酸っぱいものを沢山食べた後は締めのデザートを食べることにしました。やはりアイスクリームを食べることにします。寒い時に冷たいものを食べるのも結構おつです。巾着から銀貨を取り出してアイスクリーム屋でアイスクリームを一つ頼みます。そうすると後ろからスルスルと小さな子どもが抜け出してきて銀貨を取り出してしまおうとしている巾着を奪い去ろうとしました。足の軸を少しずらすと子どもはバランスを崩して近くで壮絶に転んでいました……少しやり過ぎたでしょうか?とアイスクリームを受け取りながら思いました?
「大丈夫ですか?そんなに慌てて走ると危ないですよ?」
「そのまま警邏隊に突き出さないのか?」
子どもが起き上がりながらこちらを睨んでいます。別にこちらに被害はないのでどうでもいいのですけど、どうしたものでしょうか?
「ところで警邏隊とは何のことでしょうか?」
話をそらしてみました。
「お前は、そんなものも知らないでこの街に住んでいるのか?」
「ここ数日滞在しているだけで住んではいません」
「じゃあこの街について何も知らないんだな」
「知りませんよ」
「じゃあ、後についてくると良いよ。この街の本性を教えてあげるから。僕たち下層市民は自称庶民派市民に虐げられ奴らの私兵におびえながら生きているって事を」
子どもは起き上がると指を差して後をついてくる様に言ってきました。子どもの後をついて行くと周りでに居たらしきいくつかの気配も後をついてきました。
「それはともかくアイスクリームでも食べませんか?」
そう言うと子どもは、少し目を輝かせましたが少しこらえると「いや、要らない」と言い放ちました。子どもの髪はボサボサ、着るモノは襤褸切れの様になった麻布の衣服で、靴は皮が破れてペコペコしています。この様子だと冬の寒さが身体に応えると思いました。子どもがアイスクリームを食べるのをためらったのは恐らく寒いからなのでは無いかと思います。
そのまま子どもは細い道をどんどん進んでいきます。周囲の気配が一見動揺したようですが、しばらく数が増えた気がします。そこは昼間なのに建物の間に挟まれ薄暗く細い道が続いています。
周りには〔頭の悪くなる草〕をふかして酒を飲んでいるいる大人達が路上で寝そべっていました。
「これがアルビスの本性だ。すっかり庶民派の連中に薬漬けにされて自らの力で生きる意志を失ったゴミの掃きだめ」
子どもはそう言い切りました。
先に進むと周囲はどんどん色あせていき生活感のない家が続いています。そこから、しばらくすると少し開いた空間がありました。その空間も昼間なのに影で覆われ薄暗く辛うじて空が見えるぐらいの様子の湿っぽい場所でした。実際は全体的に乾燥しているので湿って居るわけではありませんが、あまり衛生的によろしく無い場所なのは分かりました。子どもはそこまで行くと一旦立ち止まりました。
「ここがおいら達の住処だ。大人達に捕まったら奴隷送りだからこういう場所に隠れているんだ」
「それで、なんでこんな所に連れてきたのですか?悪い人が後付けているかも知れないんですよ?」
周りの気配を確認しながら子どもに言います。この空間を取り囲む様に動いている様な気がします。それ以外の動きをしている団体が他に2つあるのですが別の人達でしょうか?……まぁアルビスの勢力関係とか誰が後を付けているかよく知らないのでなんとも言えないのです。一つはあの屋敷の人達でしょうが、他の2つは不明です。取りあえず左右のどちらかが知っているかもしれないので念話でも飛ばして聞いてみましょうか?
「まあ、それはお姉ちゃんならどうにか出来ると思ったし。それに自身がなければこんなところに一人でのこのこ来ないよ。身ぐるみ剥いでくださいと言ってるのと同じだもん。それに、お姉ちゃんって今噂の〔銀髪の魔人〕だよね?」
そう言うと子ども達がわらわらと周りから出てきました。恐らく24人ぐらいでしょうか?みんな襤褸の麻の衣服を纏ってボサボサです。全員、すぐにでもお風呂を建築して入れて上げたいぐらいの風貌しています。
「えっと、〔銀髪の魔人〕と言うのは何でしょうか?」
聞き覚えのない名前なのですが一体誰の事でしょうか?
「お姉ちゃんは当事者だから耳に入ってないかもね。噂では、最近闘技場に現れた自称魔法剣士でここ界隈で有名な六人組の冒険者パーティを赤子の手を捻る様に単騎で倒したとか、ゴブリン百匹を片手でねじり殺したとか、怒ると銀色の髪が逆立つとか言われているんだって」
最初の話は確かに六人組……確か〔金獅子の夜明け〕と言う名前の冒険者パーティに勝ったのは確かですが、ゴブリン百匹とか銀色の髪が逆立つとか言う話は身に覚えがありません。
「別の人の間違いではないでしょうか?」
「さっきの身のこなしを見て確信したもん。お姉ちゃんは〔銀髪の魔人〕だって。その灰色の髪の毛は日の光が当たれば銀色に見えるだろうし、その耳も遠くからみれば魔人みたいに見えなくもないもん」
そう言われても……困ります。
「それでね。〔銀髪の魔人〕にはまだまだ武勇伝があって、気づいた敵を治療してから心が折れるまで何度まで戦わせるんだって」
「幾ら何でもそんな事はしません」
思わず、そう強弁しました。
「そう反論するって言うことは、やっぱりお姉ちゃんが〔銀髪の魔人〕だよね。それに僕は見てるからね。お姉ちゃんが犬に噛まれた男の人を治療してたところをさ」
「……」
そう言われると返す言葉もありません。こんな子どもの挑発引っかかるとはまだまだ修行が必要です。
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