アルビス市民国編14 冒険者戦その三

 ここまで一対一の顔見せみたいな戦いが続いています。


 まず戦士の神速のジャハンと言うむさい男が剣を振り回して剣を折ると引っ込みました。その次に更にむさ苦しい剣闘士の血まみれのガシューが連接棍フレイルを振り回し、その接続部を断ち切ると「整備不良だ」と言って引っ込みました。それから一番むさ苦しい槍使いの旋風のイズンがポーズを取りながら槍を振り回して居ました。真っ二つに割ると「寿命が来た」などと言い、次に僧侶の無慈悲のサズルの鎧を砕くと『目にゴミが入った』と言っていました。


 フェルパイア有数のパーティと聞いたのですが、どうもダメな連中の気がします。そしてむさい。


 次にハーフエルフと名乗る男が出てきました。パーティの他のメンバーの中では一番細く背もあまり高くはありません。大きな風が吹くと吹き飛ばされそうな感じです……あくまでこのパーティの中ではです。見た目は十分むさいです。顎や口元には毛がありません。そして髪を長く伸ばしておりフェルパイアでは珍しい淡い金髪ブロンドです。


 彼は付与術師と名乗り薄手の皮鎧を見つけ腕に弓を抱えています。付与術師が出てくると一際大きい歓声が上がります。その声の大半はどうやら女性の様です。どうやらこのハーフエルフはパーティの中では女性に一番人気があるのでしょう。でも、とてもむさいと思います。どうやらフェルパイア人と私は感性——図書館の司書の言葉を借りれば性癖でしょうか?——が異なるのでしょう。


「僕は他の仲間みたいに手加減できないから当たったら痛いよ」


 付与術師はそう言いながら呪文を詠唱し弓を放ちます魔素マナの動きを見るに《必中》か《追尾》の魔法でしょうか。《必中》と《追尾》では《追尾》の魔法の方が厄介です。《必中》の魔法は軌道が確定してから回避すれば容易に避けられますが《追尾》では回避しても更に追いかけてきます。


 ただ、そう言う時は打ち落とせば良いのです。


 私も素早く弓を構えると弦を弾きます。矢は真っ直ぐと飛ぶと相手の矢に当たり弾き飛ばします。


「やはり本場のエルフは弓が巧いって言うのは本当なんだな。でもこういうのはどうかな?」


 付与術師は再び矢を弓をつがえて呪文を唱えます。


「今度の矢はひと味違うよ」


 再度矢を打ち落とすと床に落ちたはずの矢がまたこちらに向かって飛んできます。より強力な《追尾》をかけた感じです。仕方が無いのでこちらも矢に魔法を付加してもう一度矢に打ち当てます。


 付与術師の放った矢は逆戻りし、そのまま付与術師の弓のつるに突き刺さります。弦は弾けて弓からはじけ飛びます。


「弓の弦が弾けたからもう一度張り直さないとな……昨日張り直しておくべきだったかな……僕も皆のことを笑えないな……」


 付与術師は頭をかきながら弓を抱えて後ろに下がっていきます。


「最後はそれがしの出番ですな。狂焔のトワロ押して参る」


 今度は分厚い赤いローブを着込んで錫杖を構えた魔法使いが前に出てきました。〔金獅子の夜明け〕の平均年齢を一人で上げている感じの年を感じます。それでも私よりも九百歳以上若いと思います。


「それでは行くぞ。降参するなら今のうちだ『ヴェナリン=リ・プレアルン! レンティス・デニーニェ=リ・ミューイ=エン・エンヌ・ソフェイアス・ヴァンティーユ=リ・ヴァイレネイ』」


 かなり拙い里の言葉の発音をしていますが、どうやら定番の《火球ファイアボール》の呪文の様です。流石に有名パーティとはいえ無詠唱で《火球》を飛ばしては来ないようです。そして魔素の動きを読んでいると火球は私の手前の床に着弾するようにコントロールして居るます。これであれば避けなくても良いのですが着弾する前に魔素マナごと吹き飛ばし魔法を消しとばします。


「ぬぬ?不発だったか?ではもう一度行くぞ『ヴェナリン=リ・プレアルン! レンティス・デニーニェ=リ・ミューイ=エン・エンヌ・ソフェイアス・ヴァンティーユ=リ・ヴァイレネイ』」


 今度は目の前で消し飛ばします。これで魔法を消し去ったのが分かるでしょうか?


「どうやら今日は杖の調子が悪いようだな」


 錫杖を振り回しながら魔法使いが首を傾げています。どうやら消し飛ばしたことに気がついていないようです。


「こちらも行きます『リレニス=リ・ユイトゥシュ・レンティ・エンヌ・ニューユ!』光の矢」


 無詠唱ですが、わざと呪文みたいなものを叫んで見ました。相手に準備する時間を与える為です。《光の矢》が一直線に魔法使いに飛んでいきます。本当に単なる光ですからローブの一点を光らせるだけの効果しかありません。《光の矢》と言うのは単純に光を飛ばして命中さえた部分を光らせる魔法です。一見無駄な魔法に見えるが天井の高い王宮の広間のシャンデリアを点灯させるときに便利な魔法などとエルフの王国の魔道書には書いてありました。宮廷魔道士なら必修とも書いてありました。単純に《光精》を飛ばした方が楽な気がします。


「なんだ、お前のその意味の無い適当な呪文は?しかも間違った発音では無いか。その田舎訛りの呪文をいったいどこで習ったのだ?そのような適当な呪文で威力ある《魔法の矢》が作れると思っているのか?こんな貧弱な魔法しか打てないくせに魔法剣士とは大きく出たな。某が正しい呪文の発音に矯正してやる」


 何やら言っていますが《里》の発音です。田舎と言えば田舎ですが《里》では皆このように話しているわけで正しい《里》の言葉で光の矢リレニス=リ・ユイトゥシュと言っただけなのにこの言われようは一体何なのでしょうか?そもそも魔法の矢なら『ユルリエン=リ・ユイトゥシュ』と言います。


 元素魔法に呪文は必要無い訳ですがどうやら人間さんは呪文に拘る感じでちょっと文化障壁を感じました。面倒なので錫杖を折ってしまいます。


「これならどうです『ユルリエン=リ・ユイトゥシュ・レンティ・エンヌ・ニューユ!』」


 今度は魔素を固めた《魔法の矢》を杖に直撃させます。《魔法の矢》は魔法使いの持っている錫杖をはじき飛ばして砕きます。粉々になった錫杖の破片が床の上に散らばっていきます。


「相変わらず雑な呪文だ。そこまで省略したら呪文が意味を失うだろ。無詠唱や呪文省略は最後の手段であって外道だ。それに杖を壊したところで情勢が変わる訳ではない。正しい魔法に必要なのは正確な発音の呪文と正しい所作だ。杖では無い。杖を壊せば魔法使いを無力化できるなどと言った腐った根性を今から矯正してやる。そもそもその山猿みたいな汚い発音は何だ。口の開き方が甘い。それから舌の巻き方も甘い。何もかもがいい加減だ。その昔、今は無きフェルパイア王国の賢王にして魔法使いのジャスルが数多の怪異をくだしたのも正しい発音の呪文と所作による正確無比な呪文だ。決して手にしていた杖のおかげでは無い。杖は魔法王の象徴に過ぎない。そもそも近頃の若い者は……」


 魔法使いが延々ち説教を始めてしまいたした。先程は杖の調子が悪いと言ってたはずなのに矛盾していると思いますが……私が怪訝な顔をしたのを汲み取ったのか戦士と剣闘士が魔法使いの口を塞ぐと後ろに下がらせました。後ろに追いやられた魔法使いはまだブツブツ言っています。正直むさいです。こういうのは『エルフに弓を教える』『親鳥に飛び方を教える』などと共通語で言われている行為だと思います。


「お嬢ちゃん、悪いな。この魔法使いは発音が悪い呪文を聴くと矯正したくなる呪いにかかっているようでな。まぁ、いつもこんな調子だ。しかし偶然とはいえエキシビションを最後まで降参せずに残るとは珍しいな。だがその幸運がいつまで続くかな?今度は〔金獅子の夜明け〕の真骨頂たる連携攻撃をお見せしよう。今ならまだ降参する余裕があるぞ」


 長々と口上を垂れていましたが、要するに六人掛かりでかかってくると言う話の様です。しかしこちら武器を狙って破壊していたのを全部偶然で片付けてしまうのは少し勘違いの度が過ぎているような気がします。


 正直六人かかりでもあまり強いとは思えないのですが。先日この試合はなるべく時間を延ばす様にと言われていますし、もう少し様子を見ながら対処する事にします。

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