エルフの王国43 南の砦 二日目の巻6
「双方準備はいいか?……問題無いようじゃな。それでは戦闘初め!」
王女がかけ声をあげるとエレシアちゃんがろうそくに火を付けます。ろうそくは炎を揺らしながら激しく燃えていきます……割と早く燃え尽きそうな感じがします。
「いくぞ」「いかせていただきます」
右と左がかけ声を合わせてこちらに向かってきました。右の方が……どちらでしたか……どちらがどちらかは取りあえず良いとして、まずは相手の出方を探ることにします。
予想どおり最初に短剣使いが突進してきます。やはり本命は拳闘士の方の様で、短剣使いは陽動になりそうです。軽く横に一歩動いて短刀を躱すと真横に短剣使いが見えます。この瞬間で剣で殴れば決着が作るのですが、やはり思うように剣が操作できずそのまま空を切りました。浮遊させるだけでは操作できている訳ではないのでもう少し調整調整しないと難しそうです……最終的には使えこなせるとは思いますが、それには時間制限が厳すぎる気がします。
拳闘士が上がってくると思ったのですが……その場で固まったままこちらを見ています。気合いを入れつつ固まったまま一歩も動いていないようです。ただ体内の魔素量が急激に上昇しているようです。
それより短剣使いが短剣を両手に持ち回転しながら再び突撃してきました。これも左に半歩動いて躱します。
どうやら主攻は拳闘士はなく短剣使いの様で回転しながら徐々に手数を増やしてきます。すべからずこちらも攻撃できないので一見すると防戦している様に見えるかも知れませんが、まず剣の操作に慣れる必要があるので相手の動きに合わせて剣を滑る様に踊らせていきます。
まだ攻撃には使えない様ですが防御にはギリギリ使えそうです。ただ、この用途に使うなら当然盾が向いています。
現状は無駄に剣を動かして居る私、そこに向かって両手に短剣を持って突撃を繰り返す短剣使い——徐々に足回りが加速していきます——後ろの方には開始直後から固まったままで魔素を増幅させている拳闘士がいます。
何やらヤバそうなな拳闘士を先に倒しておきたいところなのですが、まだ剣が上手く操れていません。剣は私の周りをぐるぐる回っています。
それを見ながら王女は「賢者殿は何やら楽しそうだな」と言っています。エレシアちゃんは「フ……フレナ様は何かお考えがあるのかと……」と言っています。
どちらも勝手な事を言っています。未だこの大剣をどうやって制御しようかと四苦八苦している段階です。それより右と左両方に注意を向けない行けないのは意外と面倒です。どうやら拳闘士の気配が一段と静まりったようです。完全に消え去る感じです……これは何かヤバい気がします。しかし短剣使いが突撃速度を更に上げてきたのでなかなかそちらに注意を向ける事が出来ません。
仕方ないので大剣の動きに制限を加えてみることにします。手を大剣からはなして大剣を移動させそこに一旦放置することにしました。
剣が使いこなせないのは予定外で、北の砦の王女では有りませんが格闘戦も覚悟しないと行けない様です。
その次の一瞬。
拳闘士の手から猛烈な衝撃が飛んできます。何やら叫んでいた気がもしますが、何と叫んでいたかはよく聞き取れませんでした。その衝撃波は私めがけて曲線を描いて飛んできます。
身体をずらして避けようとしますが、その衝撃波はそのまま追尾きます。この衝撃波を打ち消すかはじき返すか次の瞬間でどちらかを選択しないと行けないようです。取りあえず放置している大剣が上手く当たる様に身体の方向を動かしておきます。
少し余裕が出来たので、目の前の短剣使いの腕を一気につかみ取ります。
短剣使いは一瞬呆然としますが慌てて腕を解き放とうと動き出します。
その瞬間、衝撃波が大剣に当たり天井に向かって反射していきます。塔が揺れるほどの衝撃音がしましたが衝撃波そのものあj結界の中に吸収されていきました。
「なんたる不運……大剣に弾き返されるとは……」
王女が呟いています。拳闘士は悔しがっている様です。
恐らくこれが理気術と言うもの様です。恐らく外部の魔素を取り込まず、体内の魔素を増幅・爆発させ外部に出力する術式だと思われます。外部の魔素を使う魔法と比べて体内の魔素だけを使う魔法は威力面では劣りますが魔素の動きが読まれる可能性が低くなります。恐らく隠密行動に向いている術式だと思います。その魔術を体外に一気に放出させると衝撃波になり、身体の強化を使うと短剣使いの加速術式になるのでは無いでしょうか?
理気術に関しては大体分かったのでろそろ反撃に行きたいと思います。やはり問題は重くて扱いにくい大剣になります。
現実には大剣に軽くする術を付与して扱いたいのですが、軽量化術式が使えないので飛行魔術を応用して擬似的にやろうとしたのですが全く上手く言っていません……このままこのやり方で押し通すか……別のやり方を考えるか……思案のしどころです。
その瞬間、短剣使いが腕を払って後ろに下がります。考え事で少し油断していました。
「さて手加減はこのぐらいです」取りあえず口に出して起きます。
さりとて問題は時間です。この調子で持久戦に持ち困れば私の負けになります。つまり、こちらから先に仕掛けない限り確実に負けます。それだけは避けたいところです。
短剣使いが一度後ろに下がり仕切り直しをおこなっているようです。短剣使いが拳闘士に目配せして何やら準備を始めています。
この隙に仕掛けても良いのですが、ここは建て直しに利用することにします。まずは剣を宙に浮かせて放置します。空中に浮かんだまま自動追尾する様に調整します。最悪盾代わりぐらいにはなるでしょう。
剣を使うのは諦めて拳で決着付けることにします。
拳技に関しては我流なのでどこまで通用するのかが分からないのが問題ですが……強化魔術を何段階かに分けて自分に投射しています。浮遊術式と加速術式を中心に組み合わせて最後に強化術式を多重に編み込んでいきます。当然防御も抜かりはありません。衝撃波ぐらいなら完全反射出来るぐらいの結界を既にくみ上げています。
その隙を見計らったかのように拳闘士が飛び込んで来ます。足を上に振り上げて首元を狙ってきます。一指分だけ軽く首を動かし足を躱すと、今度は正面から突きが飛んできます。横に半歩ズレて突きを躱します。
その後も早い裁きが飛び込んでくるので、ゆっくりと躱していると身体に大きな隙があるのでそこに拳を軽く当てました。
拳闘士が後ろの方に吹っ飛んでいきます。そんなに力は入れてないはずです……恐らく後ろに飛び退いたと思います。今度は拳闘士が主功で短剣使いが控えという最初に想定していた形になりましいた。短剣使いがどのような搦め手を使ってくるかは拝見することにし、吹っ飛んでいった拳闘士を追いかけます。
一跳躍し、拳闘士を視界に捕らえ膝を軽くお腹に当てます。今度は上に飛んでいきました。
拳闘士は、そのまま天井にぶつかり落ちてきます。
訓練場内に呻く声が響きましたが拳闘士はフラフラと起ち上がり「いやまだ行ける」と言います。
同じタイミングで短剣使いは、短剣を四本投げつけてきます。
四つの短剣は四方の天井で跳ね返り、こちらをめがけて一斉に飛んできます。跳ね返った短剣は加速していき音より飛んできます。これも理気術を使っているのでしょう。
そこで宙に放置していた大剣を一回転させ短剣を全て弾きかえします。
「どうやら、飛び道具は使えなさそうだな」
「ええ、奇策は帰って危険になりそうです」
短剣使いは両手に二振りの短剣を構えまた突撃してきます。拳闘士と前後を入れかえつつ私に向けて攻撃を繰り返してきます。
果敢に繰り返す攻撃を足指一本分動かして全てしのいでいきます。
隙をみつけては軽く叩くを繰り返していくと気がつけば二人とも床に伸びていました。
「それまでじゃ」
王女の声がします。ろうそくを見るとまだ半分ぐらい残っていました。
「賢者殿、最後の方は素手で戦っていたと思うが気のせいか?」
「この勝負、剣を使うまでもないと思いましたので……」
「ほおそこまで実力差があるのか」
剣が使いこなせなかった事は内緒にしておきます。
右と左の人が息を切らせながら床から起き上がりつつ言います。
「……理気術を使いこなしただと」
「私も正直驚きました」
左右の人はそのように言っていますが私は理気術を使った記憶はありません。ただ複数の
「いえ、これは……」
「す……すごいです。フレナ様……」
エレシアちゃんが目を輝かせて言います。思わずマスターしたと言いそうになりますがここは正直に説明しておきましょう
「それは違うのです。単に複数の付与魔術を組み合わせただけです」
「賢者殿?同時に複数の付与魔術を発動させたのか?」
「ええ、単にそれだけです」
「言ってておかしいとは思わないのか?付与魔術でも超高難易度の技術じゃぞ……理気術でやる方が遙かに優しいぞ」
「そうだな……理気術の複数発動は訓練でどうにかなるが付与魔術の同時発動など初めて聞いた」「私も初めて聞きました」
「フ……フレナ様……一体どのように……」
「……えっと」
里と同じように魔法を使っただけなのですが、反応がおかしくないでしょうか?
……そういえば冒険者ギルドで付与魔術は戦闘しながら使うものではなくあらかじめ武器に付与させるもので戦いながら使うのは強化魔術と呼んでいた気がします。
それでは強化魔法の同時発動は可能かとい聞いてみましたがそれも高難易度と言う話でした。強化魔法の重ねがけは出来るが無詠唱の同時発動は聞いた事が無いと言う話でした。
「そもそも無詠唱の同時詠唱とか理気術を使う意味が無くなります」
確か、左のユリニアさんでしたか……がそう言います。
「理気術は内気を放出すから詠唱はいらないんよ魔法じゃないからな」
今度は……右のエイニアさん?が言います。
観察の結果と証言から推論すると理気術は、体内の
一般的な
気も魔素の一種がします。気は魔素であるはあくまで仮説に過ぎません。そのあたりを聞いてもよく分からないと返されました。気は体内からみなぎるもので魔素のように外部に遍在しているモノでは無いそうです。
「ところであの速さは強化魔術なのか」
右のエイニアさんが尋ねてきました。
「速さと言いますと」
「短剣の突撃を全部躱してただろ」
「それは普通の体術です」
「体術だけでそのような速度がだせるのか?」
「恐らく百年ぐらい修業すれば」
「流石にそれは無理だな……」
右のエイニアさんががっくりうなだれています。
「それで賢者殿、この二人はどう評価するか?」
「……そうですね。エレシアちゃんの護衛としては合格でしょう」
「連れて行くには申し分ないか?」
「今回の任務に支障無いと思います」
必要なのは長時間の飛行魔術に耐えられるかだけですし、この程度の体力と胆力があれば十分です。
「それでは賢者様、よろしく」「賢者様よろしくお願いします」
エレシアちゃんの方を見ると身体が櫂を漕いでいます。やはり無理して起きていた様です。
詳しい打ち合わせは明日の朝行う事でお開きになりました。
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