エルフの王国26 都へ帰還の巻

 程なく後始末に終えて、馬に乗ると砦に戻って来ました。

 レシュティリア以下部下達はヘトヘトになっています。王女はまだ暴れたりない様です。エレシアちゃんはお眠の様です。

「エレシアちゃんは一人で奮闘してましたしね……」

 王女とレシュティリアの部隊はエレシアちゃんのサポート無しでは恐らく全滅していたでしょうか……それとも、王女が荒れ地が穴だらけになるパターンでしょうか……。

 慈愛の目でエレシアちゃんを眺めています。

 ルエイニアさんは「僕もここにいていいのかなぁ」などと言いながら居ます。

 どう見ても根回し済みにしか見えないのです。どうやらレシュティリアは知っていた様です。

「まぁ、依頼の内容がおかしいから調べていただけだよっ」

 ……などと言っていますが何かあやしいです。

「レシュティリアさん、ルエイニアさんと何か話しませんでしたか」

「……さて……覚えが御座らぬ」

 どうも完全にとぼけているようです。王女がエレシアちゃんの手紙で冒険者ギルドの依頼の内容を知り、書き換えて送った事も最初から知っていた様です。

「それはともかく冒険者ギルドの査定はどうなのでしょうか……」

「まぁ、あれだけ派手な成果を出すと、満額回答するしかないだろうねぇー。位階レベルも上げたいところだけど例外を適用するのはむつかしそじゃないかな。竜ならともかくサソリだしね」

 ルエイニアはまるで他人ごとの様に言っていました。

 問い詰めてやりたいところですが私としては図書館で本が読めれば良いだけですのでそのための証明書が欲しいだけですし、お風呂にもゆっくり入りたいのでそろそろ都に戻りたいところです。北の砦は水の問題を解決しないと駄目な気がします。

 それにエレシアちゃんをゆっくり休めてあげないといけません。

 働いたらその分休むのは当たり前なのです。なぜなら働かなくても休むからです。ゆっくり休むと良いのです。私も働いたので休むことにします。面倒なことは偉い方々にお任せすれば良いわけです。要するにフリーニア王女とルエイニアさんに丸投げして私も休むことにします。

 フリーニア王女は部下に丸投げするので大変なのはその部下かも知れませんが……しかし北の砦は肉弾戦な要員ばかりで事務仕事が出来る人材がいる気がしませんけど、そこまで気にする必要は無い気もします。

 翌朝になりました。ルエイニア……というより後から追いかけてきた部下——が依頼の処理を終わらせてくれたようなので、そのまま北の砦から立ち去ることにします——王女は「次に会ったときはお前とはガチで戦ってみたいぜ」などと言ってますが戦闘など面倒だから結構です……と面を向かって言いたいところをこらえて曖昧な笑みを浮かべてそのまま去ることにします。

 さて、いくぞ馬……人参は無いかですって……都に帰ればあるんじゃないですか?なので都に帰らないと人参は食べられませんよ。

 ……馬が拗ねている様ですが、ここには人参はないのですから都までしっかり働いて貰わないといけません。

 エレシアちゃんは、お疲れ気味の様で荷馬車の上でずっと櫂を漕いでいます。さすがにあれだけ一気に魔法を使ったので疲れたのでしょう。ルエイニアはいつの間にかどこかに消えていました。ひっそり影に隠れて都に先に帰る積もりみたいです。ルエイニアさんの部下は、北の砦にしばらく拘束されるようです。どうやら手続きが遅れているとか言うのを小耳に聞きました。北の砦でお金の処理をできる人がレシュティリアさんぐらいしか居ない様ですが……先の戦闘で疲れてしばらく動けないと言う話です。

 そんな感じで北の砦をひっそり後にしました。

 ……さて、都に帰ったらしばらく図書館通いです。それから小物の整理もあります。忘れかけていた乾燥させた魚の皮や骨とか粘着草の出がらしとかいろいろありますし……それから小瓶に封印したサソリ毒も何かの薬に使えそうな気がします。

 本来の目的は人間さんを調べることですから、人間さんについての情報をかき集める必要があります。冒険者ギルドや大使館には生きたサンプルもあるので、そこからいろいろ聞き出させたらいいなと思っています。

 まだエルフの王国でしなければならない事は非常に多い様です。


 北の砦から都までの旅は省略し、早速お風呂に入る事にします。エレシアちゃんのお肌はすべすべです。

 エレシアちゃんは自宅に戻り、私はふただびフリーニア王女の屋敷に寝泊まりするのでした……『自宅の様に使って構いません』と言われていますが相変わらず寝台ベッドがでかすぎると思います……。


 翌日、冒険者ギルドに入って受付を訪れます……朝は混んでいるので昼頃に行くことにしました。

「たのもう」

 受付嬢が居ました。

「フレナさん、お早い帰りでしたね。もう依頼を終えられたのですか」

「アルエシアさん、ルエイニアさんが既に返っているはずではないのでしょうか……」

「あ、ギルドマスターなら帰ってくるなり秘書に拉致されて二階に缶詰にされています。ギルドマスターをお探しでしょうか?用事があるなら今すぐ呼びに行ってきますが」

「いえいえ、ルエイニアさんから話があったのでは無いかと思ったのですが……違う様ですね」

 ルエイニアさんには用事はありません。

「そういえば、副ギルドマスターから、フレナさんこれを渡す様にいわれています」

 中から取りだしたのは巻いた一枚の紙です。紙は封緘がしてあります。

「職業証明書らしいです」

 巻いた紙をいただくとその場で広げて中身を読んでみます。中身は位階レベル10魔法剣士の証明書でした。これを持っていけば図書館で読める本が増えるに違いありません。早速図書館に行ってみましょう。

「それでは失……」

「あ、フレナさん。依頼の完了届がまだですよ。こちらの書面を確認してから署名サインをしてください。そうしないと報酬が払えません」

「報酬は後でもいい……」

「それは駄目です。依頼完了届けをださないと次の依頼も受けられませんし、そのままにしておくと依頼を放棄したことと見なされるので罰則ペナルティがかかるかもしれませんよ」

「罰則とは……」

「最悪の場合位階を1まで下げられたりします」

「それは困ります」

 手のひらをくるっと返すと依頼の完了届に署名をします。周りくどい説明文がやたらと長たらしく書いてあります。一番下まで読むと署名欄にフレナと署名します。

「これでいいでしょうか?」

「それでは報酬を受け取ってください。規程の報酬が払われているハズですが中身を確認してください」

 目の前に凸凹に膨らんだ袋が置かれます。

 ……なにこれ……やたと重いんですけど……袋がずっしりと重いのです。

 近くのテーブルに広げて確認すると金貨が100枚ほど入っていました。いわゆるしばらく豪遊できる金ですs。

「新人なのに随分儲けたな。一杯奢ってくれないか」などと言い寄る男がいます。

「確か……人間さんのジンバさんでしたか」

「違う、シルヴァだよ。ほら審査の時相手した……」

「んー……そんな人いましたか……」

「お……おい」

 そういわれても、そんな昔の話は既に記憶の彼方です。覚えていないことは覚えていないのです。

「まぁ、そう言う訳で見知らぬ中でもないから一杯」

「ところで一杯とは何ですか?」

「分からないから酒だよ酒」

「酒は駄目ですね。あれは危険な飲み物です」

「まぁ……」

「シルヴァさん、そうやって新人にたかるのはいい加減辞めてください」

 途中で受付から声が飛んできます。この人間さんは、いつもこうやって居るのでしょうか……。

「ちっ……まぁそのうち奢ってくれや」

 そう言うとシルヴァと言う男は立ち去ります。

 しかしこの袋がやたらと重いので、一度持ち帰ってから図書館に行くことにします。


 ここは久々にやってきました王立図書館。それでは早速受付に行くことにしてみます。

 ドヤ顔で許可証と職業証明書を見せると司書が笑いながら応対してくれました。

 んー、笑われるような事はしてないはずですが……。

 まぁそれは良いです。早速読みたい魔法の本を漁ることにします。まずは《呪文》のシステムからでしょうか……。下代魔法ローエンシェントを使うのにわざわざ呪文を唱える事が解せなかったわけで、その秘密を探る事にしたわけです。とはいえ今回は、元素魔法だけの登録になっていますので、付与魔法エンチャントや精霊魔法などに関する本は相変わらずアクセス出来ないわけですが、精霊魔法に関して言えば、そもそも本がほとんど無いそうです。精霊魔法は基本的に口伝らしく本はほとんど無いそうです。召喚術には興味あるのですが、それは次の機会になりそうです。それから触媒に関する本もリクエストしてみましょう。荷馬車の中に眠っている素材の使い道のアイデアが出てくるかも知れません。

 分厚い本が何冊も積み上げられていきます。取りあえず初心者向けの本から一通り読みあさる事にしました。しかし、この分量だと一週間はみないと行けないようです。

 初心者向けの本には『』なるものが書いてありました。最初は魔素マナの扱い方です……。まぁ基本ですね。元素魔法は、外部の魔素を取り込んで発動させる訳ですから大元になる魔素が操れなければどうにもなりません。

 その次に、魔法の発動をイメージしながら呪文を唱えると書いてあります。読み進んでいくと呪文と言うのは、発動条件を満たすためのキーに過ぎなi気がするのですが、この魔道書の著者はそれを理解してないようでした。発動条件は呪文だけではなく、所作や儀式、触媒などを用いると書いてあります。そして階梯呪文レベルが高くなるほど難しい儀式や多種の触媒が必要になるようでした。

 中級者向けの本には無詠唱呪文に関しても書いてありました。無詠唱呪文は、頭の中や口の中で高速で呪文を唱える事で発動すると書いてあります。本来、下代魔法はイメージだけで発動できる魔法のはずですが……外界の下代魔法は異なる体系のなでしょうか。もう少し調査が必要になりそうですが、現在アクセスできる魔道書で分かるのはここまででした。他に書いてあるのは階梯ごとに——位階10レベル10だと使える魔法は第五階梯なので、読む事が出来るのは第五階梯までの魔道書でした。呪文はすべて種類や用途ごとに分類されており目次や索引までついています。大変読みやすい本でした……里にある本にこの様に読みやすい本は当然ですがありません。

 呪文一覧などは全く役に経たないのですが、一つ面白い魔法をみつけました。〔収納ストレージ〕です。この魔法は収納道具と別の空間——亜空間でしょうか?——をつなぐ事で、実際の容量より多くの物を保管する事が可能になる魔法です。この魔法で保管した物は別の空間にされるので、収納した物体の重量が無関係になります。つまり背嚢の中にいくらでも物が詰め込め、それで重くならないと言う素晴らしい魔法です。これは一度試してみる必要がありそうです。背嚢に付与してしまえば、荷馬車も要らなくなりますね。

 まぁ馬の仕事はちゃんと用意します。

 それから触媒についてもかなり調べました……。魚の皮とか骨とかそう言うものの使い道がどうやら出来そうです。サソリの毒からはどうやら血清が作れる様です。

 頭のメモに記録し屋敷に戻ります。

 屋敷に戻るとエレシアちゃんがいました。

 エレシアちゃんは何か言いたそうな感じですが、取りあえずお茶にしましょう。

 ケーキを食べながら——小麦の扱い方も教わらないと行けない事を思い出します。実は冒険者ギルドで集めた情報によれば小麦の扱いは人間の方が長けているらしいので人間さんの国に行ってからでも遅くはないようです。


 エレシアちゃんが家に帰ると収納魔法から試してみる事にしました。馬小屋に行きます。一目につかないとこで実験したいですが、今回は荷馬車の中で十分いけそうです。金貨の入っている袋を使って実験してみることにしました。まず金貨を取り出し、袋の入口と大きな空間をつなげるイメージを実体化させてみます。

 魔法が発動した様なので試しに袋の中に右手を入れてみます。

「おぉ……」

 右腕がすっぽり袋の中に入ってしまいました。一体腕はどこに消えたのでしょう。袋から右腕を抜き出すと右腕はしっかり存在しています。

「しかし、これだけではダメですよね……」

 袋に入れたものが綺麗に取り出せなければ〔収納〕を使う意味が無いのです。

 その辺りから適当に拾ってきた石を並べて1から10の番号を振ります。番号を振った石のイメージを記憶するとまとめて袋に放りこんでみました。

「5」と言いながら袋に手を入れて、取り出すとしっかり5と言う石が取り出せました。同じように「2」「4」「9」などと実験してみたところ全て上手くいきました。今度は金貨、銀貨、銅貨、紙など近くにあったものを手当たり次第収納して選んだ物を取り出してみます。これも上手くいきました。

 次に液体や生ものを入れて実験したい所ですが、そこまでする必要ないので一旦辞めにします。しかし、この袋をこの状態で破くとどうなるのでしょうか……。魔道書には『が起きる』とだけ書いてありましたので、取りあえずここで辞めることにします。が起きる実験をするなら人気の無い場所でやらないと行けませんよね。

 本番にはもっと丈夫な布を用意する必要があるでしょうし、刻字ルーンも掘らないと行けません。

 これで荷物に関する問題はある程度解決しそうです。

 しかし、それ以上に解決しないと行けない問題一つ課題があったので、しばらくそちらに専念します。これは魔法と言うより調薬に近いものですが、サソリの毒を一滴、何種類かの干した草、干した魚の皮と骨を粉状にして水に混ぜ込み壺の中で循環させ静かに煮詰めながら魔法をかけたら完成です。この作業は温度が非常に重要になるので火精さんを使って行います。

「恐らく大丈夫ですが……どうしましょう……」

 分析上は安全なのですが……毒が混じっているものを誰かで実験する訳にはいきません。

「まぁなるようになりますよね」

 実はこれは酒精アルコールを中和させる薬水で、一口飲めばどんな酒精もたちどころに炭酸水ソーダに変えてしまうしろものなのです。これさえあれば酒精など怖くないのですが、酒精に一滴垂らすとシュワシュワ泡を吐き出す水になるところまでは確認できましたすが、これを飲む……は流石にできません。

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