エルフの王国25 荒れ地の冒険 後編

 レシュティリア以下配下10人が揃い、最後にフリーニア王女が騎馬に乗ってやってくると荒れ野に出発です。

 レシュティリアは板金鎧から皮鎧に着替えています。フリーニア王女はいつもと変わりません——自信があるのでしょうか……。

 総勢13人が騎馬に乗り込み砦の門を駆け抜けます。ちなみにエレシアちゃんは私の騎馬の後ろに乗っています。

 当然ながら騎馬は、荷馬車のも馬ではありません……馬よ元気にしているか……。

 騎馬が北の門から駆け抜けると地面は徐々にひび割れていき、濃い赤色に染まっていきます。一面は不毛の大地になりひたすら土塊が広がる死んだ土地。精霊の力は全く感じられません。

 一気に騎馬で駆け抜けるとそこで「止まれ」と号令がかかり一斉に止まります。

「ここからは歩いて行く。騎馬を大サソリに近づけるのは危険なり」とレシュティリアが申します。

 そこで一斉に騎馬から降りて、騎馬の見張りを二人置いていきます。

 残ったレシュティリアの配下は騎馬から降ろした数沢山の武器や盾を背負い行軍を始めます。

 フリーニア王女は「まどろっこしいな」と言っており、そのまま一目散に駆けだしそうな感じです。

 レシュティリアとその部下は荷物を担いで行軍していきます。私とエレシアちゃんは軽装で歩いて行きます。

 時折サソリを探知します——徐々に群れに近づいてきている様です。まだ昼頃なのかサソリの動きは鈍い様です。物陰にじっとしています。

 しばらく進んで行くとサソリの群れが視界に入ってきます。思ったよりも大きいサソリが100体近く群れをなしており、その中心には大きな赤い巨大サソリと青い巨大サソリがオーラをまき散らしています。馬よりは大きいですが竜よりはかなり小さい様で、どうやら象と言う魔物はこれぐらいの大きさの様です。

「構えよ」レシュティリアがそう叫ぶと、部下達が盾を持って展開します。

 エレシアちゃんは、展開した部隊の後方で、《祝福ブレス》の魔法を唱えます。

「あ……〔赤き勇者〕のいさおしよ。我らに勇気を与えたえたまえん……」

 そう唱えると部隊の士気が一気にはね上がります。

 レシュティリア以下8人は前面に構えた毒よけの盾を構え、その隙間から一斉にサソリの群れに投げ槍ジャベリンを投げます。

 8本か9本の投げ槍は、サソリの殻に突き刺さらず跳ね返って地面に落ちていきます。

 サソリたちはそれを見てこちらを凝視します。

 初めはサソリ達はのっそりと動き初め、その後加速しながらこちらに向かってきます。反応したサソリの数はぱっとみ20。残りの80は反応しておらず、群れから動いていません。

「フレナさん、準備をお願いしまます」とレシュティリア

 エレシアちゃんは、次の呪文を唱え始めます。

「あ……〔赤き勇者〕よ。我らの守り手となりたもう。その恩恵を毒に対してあたえたまえ。あらゆる毒への耐性を与えたまえん……」

 どうやら《猛毒レジスト抵抗デッドリー・ポイズン》の呪文を唱えたようです。さらに広域防御エリア・プロテクションの呪文を唱え始めます。こちらも負けてはおれません。剣を引き抜くとサソリの軍勢に飛び込んでいきます。

 目の前にはフリーニア王女が突撃し……

「うりゃーーーー」と叫びながら大剣を振り回しサソリに殴りかかっています。

 しかし、サソリは上手く回避するのかまったく攻撃が当たっていません。サソリはフリーニアめがけて尻尾の毒を浴びせます。

 フリーニアは前に突撃し、毒を交わします。サソリに囲まれたフリーニア王女は大剣を振り回しながら上手く立ち回りながら、サラマンダーを呼び出します。サラマンダーは空中を飛び回りサソリにヒットアンドアウェイで攻撃をしかけますが対灼熱耐性か目くらまし程度の威力しかありません。サソリの注意はサラマンダーに向けられ、その隙に王女は囲みから抜け出します。

 宙を浮いているサラマンダーにサソリはジャンプし飛びかかりますが……精霊さんですから攻撃は宙を切ります。精霊さんは明確な実体がないので物理攻撃が効きにくいのです。

 しかし、サソリのはさみは精霊にも効き目があるらしく、サソリの鋏が当たるたびにサラマンダーの力が徐々に削がれていくのが分かります。

 私も見ているだけにはいきませんね。

 一気に跳躍するとサソリ群れの後方に飛び込みます。

 非常に軽い剣を横に切り裂くとサソリが一気に切り裂かれます。一気に数匹のサソリが切り裂かれ、中身をぶちまけます。サソリの体液も危険ですから一回後ろに下がります。

「この剣は良く切れますね。武器庫に転がって不要品みたいですけど……」

 横を見ると王女がまた突撃しています。攻撃は宙も切り、反撃を受け前に突撃して回避するを繰り返しています。

「サソリのくせに生意気だな。素直に俺の剣に当たりやがれ」

 王女が毒ではなく毒舌を吐いています。

 王女はサラマンダーで牽制しながら……どうやらイフリートを召喚しようと試みているようです。しかし、サソリの動きが速い為、精霊界とのゲートが開けない様です。

 私は、剣をもう一度なぎ払うと更に数匹のサソリを屠ります。

「なんだその剣は、あの大サソリを紙の様に切り裂きやがって……そんな剣を持っているとかずるいじゃないか」

 王女が吠えていますが放置でしょうか。

 サソリが10体ぐらいに減ると後方に居た部隊が前身を始めます。

 しかし、まだ80体ほど残っています。後方の10体のサソリは、後方部隊と王女に任せて前方の80体の方に向かいましょう。

 魔法の力で地面の土を硬化させ、空中に無数の土塊を浮かび上がらせ対空させると一気に80体のサソリにぶつけます。

 数百数千の土塊が一気にサソリを強襲します。

 衝撃とともに土埃が舞い広がりますが、殻が硬いのかほとんどはじかれてしまいます。もう少しダメージが入るかと思いましたが、予想より硬そうです。

「そんな火力じゃ無理だ。先にこっちのサソリを始末しろ。そうすればいくらでも火力がぶちこめる」

 フリーニア王女が叫びます……いや、イフリートを打たせない為にサソリをわざと10体残しているのですけど……。

 エレシアちゃんから防御魔法を受けた後方部隊は10体のサソリを徐々に囲んでいきます。サソリもそれに応戦し毒を飛ばしたり、鋏で切りかかったりしますが、盾と防御プロテクションにはじかれます。

「そのまま押しつぶすぞ」と猫耳騎士が叫んでいます。部隊が盾を掲げて一斉前進します。

 フリーニア王女は体勢を立て直し精霊召喚を試みようとしているようです。

 80体のサソリは私に反応し一気に襲いかかってきました。大きい二体も後ろからついてきます。やはり大きいだけ動きが遅いのでしょうか。

「まず80体の方でしょうね……」

 手元に氷塊を呼び出します。これは空中の水分をかき集めたものですが、荒れ野は乾燥しているので水分をかき集めるのに時間がかかります。最初の土塊は時間稼ぎで、こちらが本命になります。

 尖らせた幾十の氷塊を勢いを付けて一気に投射します。半分ほどのサソリは回避しましたが、残りのサソリには氷の矢が突き刺さります。これで、おおよそ半分のサソリが一気に戦線を離脱しました。

 それでも、まだ40体と大きなのが2体居ます。

 40体のうち数体を剣でなぎ払うと弓を構えて後ろの二体に一斉射撃を噛ましてみます。目を貫通すれば御の字ですよね……。

 数本の矢を速射で射かけましたが結果は、全部外殻に弾かれました。歯ごたえからいえば他の大サソリよりも更に硬そうです。どうやら一筋縄では行けないようです。

 後ろを見ると何人かの部下が負傷したようで、エレシアちゃんが広域治癒エリア・ヒールをかけていました。王女は大剣を振り回してサソリを追い回しています。ようやくの事で一体の頭をぶちのめしたようです。

「よし、今日も絶好調」などと大声で叫んでいます。

 後方にはまだ8体のサソリが残っているようです。フリーニア王女は次のサソリに狙いを定めると大剣で突撃を始めます。

 頭数では既に優位にあるようなのでこのまま一気に均衡が破れそうな感じです。

 私は前方のサソリ退治に集中することにします。

 剣でなぎ払いながら風刃を飛ばします。風刃でサソリは切り裂かれ、剣で真っ二つになります。残り20体と大きなのが2体です。そろそろ大きな2体がこちらに来そうなので、残りの20体も一気に片付けないと間に合いそうに無いです。

 後方では、フリーニア王女がサソリと格闘していました。

 ——流石に毒サソリ相手に素手で格闘はないと思います……。

 王女はサソリの尻尾を引きちぎり、そのまま寝技に持ち込みます。サソリを力で強引にねじ伏せています……無茶苦茶です。

 レシュティリアとその部隊は槍でサソリの足を狙いつつ腹部を切り裂こうとしていました。流石のサソリも一気に降り注ぐ槍は回避出来ないようで、足をもがれて徐々に動きを弱めていきます。

 それでは地面をゆらしてみます……地面を大きく揺らすしてもサソリは平然としていますが、真逆の方向を進んだり互いにぶつかったりしています。どうやら地面の揺れで混乱するようです。

 混乱する群れに一跳躍し、円形に剣をなぎ払うと一気に10体を切り裂きました。更に残った10体を剣と魔法の連携で削っていきます。

 後に残るのは巨大な2体です。悠然としながらこちらに向かってきます。

 青いサソリが大きく尻尾を振り回してきます。重量に遠心力が加わり音より速いぐらいに尻尾が飛んできます。軽く跳躍して交わします。そこにすかさず赤いサソリが飛びかかり、鋏で切り裂こうとしてきます。鋏の上を軽く蹴って方向転換し、一回転して地面に降り立ちます。

 その間隔は一跳躍の距離。油断すれば一瞬で切り裂かれる可能性があります。

 ……流石にこれには緊張します。油断すれば一発でやられます。

 しかし里にこんな大きなサソリはおりません。毒すらない小さな可愛いものしか居ません。どうすればここまで大きくなるのでしょうか……。

 赤、青二体の大サソリの動きを感覚で追っていきます。二匹のサソリは連携が取れており大きい割に俊敏。赤がブラフだと青が本命、青が本命と見せかけて、赤が奇襲と波状攻撃をしかけてきます。最初の攻撃から次の攻撃のパターンを並列予測し、サソリが次の行動に入る瞬間に回避行動をおこないます。サソリの攻撃は全部宙を切ります。

 赤いサソリを剣で応戦しながら宙を浮いている青サソリに氷の槍を何本か打ち込みます。弱点の腹側に氷の槍を何本か打ち込むと腹から緑の液体がこぼれだしてきます。

 ……この液体は浴びるとヤバいので……飛び散る液体を回避しながら後ろ側に回りこみます。

 どうやら王女はサソリを絞め殺した様です。しかし飛び散る液体を思い切り被り服が溶けています。雄叫びを上げながら次の獣に向かっています……。一体どちらが獣なのかは分かりませんが……。

 一方、レシュティリア率いる部隊は左右に展開し、サソリの群れを追い込んでいきます。少しずつダメージが通っている様でサソリの動きがかなり鈍くなっている様です。

 その後ろでエレシアちゃんが呪文を唱えています。どうやら王女にこびりついた毒液を中和させようとしている様です。

 エレシアちゃんが呪文を唱え終えると緑の液体が浄化されていきます。

 後方に居るサソリは後4体の様です。しかし動きの鈍い4体ならすぐにとどめを刺せそうです。

 一方前方の青と赤の大サソリの連携はまだ止んでいません……。

 青の腹部に氷の槍を差しましたが動きがほんの少し落ちただけで波状攻撃は止んでくれません。今度は青を囮にして赤が飛びかかってきます。赤には風刃を渦巻き状に腹部に打ち込みます。

 風刃は腹部を貫通し、空が見えます……しかし動きは衰えていません。飛び散る毒液を回避しながら戦うのが徐々に厳しくなってきます。

 大きく後ろに跳躍し十分な距離をとると風盾を展開することにします。

 風盾は身体の動きに呼応して前身を覆う空気の盾。これで飛び散る液体を全部弾くことにします。

 しかし風盾では鋏までは防御仕切れません。盾を突き抜けてきた鋏を剣で弾き飛ばしながら次の魔法を準備します。

 今度は赤が囮になって、青が飛び込んで来ます。青が跳躍してくると応戦しないで後ろに飛び退きます。そのまま赤に向かって三本矢を放ちます。矢は寸分なく急所を射貫き、青は空を切り地面に着地するとそのまま沈み込んでいきます。

 泥化の魔法が発動しました。青のサソリはぬかるみの中でもがいています。青は一度放置しておき赤のサソリに剣を突き立てます。剣を一気に貫くと一直線に疾走します。

 赤いサソリから体液が噴水の様にはじけ飛び出していきます。青いサソリの方はぬかるみから這いずりだし次の攻撃の準備を行っています。

 後ろの方を見ると丁度最後のサソリを倒したところで、王女が何やら詠唱を行っています。

 ……これは急がないと不味いです……。

 赤いサソリに風刃を数発浴びせるとそのまま動かなくなります。青いサソリには矢を浴びせます。矢の勢いにひるんだところで剣に雷を落として一気に貫きます。青いサソリは身体を痙攣けいれんさせて動かなくなります。

 さてこのままとどめを刺したい所ですが、先にフリーニアの唱えている呪文を中和させておきます。この状態からの火力は返って邪魔になります。

 ゲートから出てこようとするイフリートに向かって『お帰り』と静かに呼びかけます。するとフリーニアの呪文は発動せずに消え失せます。王女は何が起きた変わらぬ様でびっくりしています。

 その間に赤と青の二匹にとどめを刺します。

 しかし周りに飛び散っている緑の液体はどうしましょう……触媒に持って帰るにも多すぎます。ほんの少しを取り出した小瓶の中に入れておきます。この小瓶は魔法触媒を保管する為の小瓶で魔法封印で完全に栓が出来る優れものなのです。小瓶をしっかり〔封印〕させておきます。

 その間にエレシアちゃんが毒を中和させていきます。どうやら魔法の連発でエレシアちゃんはお疲れのようです。

「エレシアちゃん、お疲れ様」

「フ……フレナ様の無双です。私は後ろの方で眺めていただけでした……」

「いえいえ毒はしっかり浄化しておかないと後々危ないですからそっちの方が重要なお仕事だと思います」

「あ……ありがとう御座います」

 そのやりとりの後ろでフリーニア王女が物足りなさそうに雄叫びを上げています。既に着るものは半分溶けて泥まみれになっています。既に獣と区別がつきません……そこに物見遊山のルエイニアが現れます。

「おや、僕の出番はないのかな……」

「そもそも、その辺りに隠れて見てましたよね」

「ん、バレてましたか……いつからですか?」

「こっそり何かついてきているのは分かって居ましたが何かは分かりませんでした……。しかし、状況的にはルエイニアさんしか居ませんよね……」

「まぁそうだけどね……。ああ、のね。ならいいや。そういや面白そうなものをいろいろ見させて貰ったよっと……それよりフリーニア王女は大丈夫なのかい」

 後ろの方ではレシュティリアが王女をなだめております。

「今日はこのぐらいにしといてやる」物足りなさそうに王女が言っています「しかし、おまえ。倒すの早すぎるぞ。獲物の半分ぐらいこっちに寄こせよ。そうすれば何発もイフリートをぶち込めたのに」

 イフリートは気軽にぶち込むものではない気がしますけど……。エレシアちゃん、どう思いますか。

「フ……フレナ様は大賢者様ですから、あの程度は朝飯前なのです……」

「もしかしてフィーニアの言ってた賢者様っておまえのことか……。そうすると預言の歌に出てくるやつか……最後の魔王の後と言うことは魔王はもう出ないのか……。せっかく魔王退治をやろうと思っていたのにこうなったら……魔王を召喚してやる」

 誰かフリーニア王女を止めてください……。

 そもそも、その詩の〔最後の魔王〕のフレーズは単なる比喩だと思います。

 隣のルエイニアが首をすくめて言います。

「後始末の方が大変そうだなぁ」

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