エルフの王国15 謁見の巻

 昨日はゆっくり眠れました。朝ゆっくり目覚めるとそう思いました。やはり精霊に囲まれて過ごすのはとても楽です。それに昨晩は夕食も大変美味しいものをいただきましたし、お風呂にもゆっくりつかれました。こちらの屋敷も泳げそうなお風呂がありました。

 ……などと昨日の出来事を逡巡しゅんじゅんしております。

 昨晩、夕餉を囲みながら屋敷の従業員達と会話をしていたのですが、都には人間が少しながら住んでいるそうです。南の方に人間の作った小さい国家があつまった国家連合と言うものが存在し、その代表が大使館と言うところに住んでいるらしいです。大使館とは異国の代表が当該国との交渉を行う為にあるものだそうです。裏の仕事で情報収集もするらしいです。それから冒険者ギルドど言うものが存在し、そこで仕事している人間もいるそうです。

 それから王宮に呼び出しを受けていると言う話です。何か変な事をした記憶は無いのですが、あの脳筋と昼間に王宮に行かないといけないらしいです。

 イレイナと二人切りは辞めてくださいとメイドさんに愚痴りましたが——。

「あの方も偉い人なのでこちらも口出しできません」と取り合ってくれません。

 ああ見えてもイレイナも良いところの貴族のご子女らしいです。

「もう少しまともな人はいないのでしょうか……」

 そうぼやいていると誰かが部屋の中を覗きこんんでいる人がいます。

 その娘は子どもと大人の間ぐらいでしょうか……まだ大人になりきれていないあどけない顔をしています。髪はスカイブルーのストレート、瞳は金色がかった碧色をしています。身体の方はまだ直線に限りなく近いです。白い服の上に赤い服を重ね着し——重ね着する服の名前は知りません——黒と赤を混ぜ込んだタータンのスカート、それから赤いスカーフを巻きつけて、白い靴下に黒い紐靴を履いています……この子は一体どこから紛れ混んできたのでしょうか……。

「そこの方、何か用ですか?」

「あ……あの……私も付いていってよろしいでしょうか……」

 その娘はおずおずと切り出します……。

 もしかしてフィーニアの娘でしょうか?

「い……いえ……フィーニアおばさんは、まだ独身ですよ……」

 やはり、そうですよね……。

「おばさんですか……もしかして四王女の誰かの娘さんでしょうか?」

「あ……あの……エ……エレシアと申します……賢者様は王宮に……行くのですよね……付き人として連れ……て言ってくれませんか?」

 女騎士の話を聞くぐらいなら馬と会話していた方がマシだと思っていたところなので、この話は渡りに船でした。藁にもすがる思いで話に乗っかることにいたしましょう。

「そうですか私のはフレナと申します。今日一日私の付き人に任命します」

「は……はい……フレナ様よろ……しくお願いします」

 昼近くになると王宮の方から向かえが来ました。エレシアを引き連れ馬車に乗ると王宮に連れて行かれます。しばらく登り坂が続いた後、門をくぐり王宮の広場にたどりつきます。

 王宮の玄関の目の前で私達は降ろされました。

「ずいぶん大きいですね」

 何と言いますか何事大きいほど良い訳ではないと思います。こういうものを説明する為の語彙が思い浮かびませんが玄関が上の方まで吹き抜けになっています。吹き抜けと言えば里の図書館みたいな感じと言えば分かって貰えるでしょうか?とにかく大きいです。

「それでは控えの間まで案内します」

 そこで城の従者に丁重に案内されます。エレシアは私の腕に抱きついていたままで、イレイナは勝手に後ろを付いてきます。

 控えの間まで連れていかれると時間まで待つように言われます。

 控えの間に入るとメイド達が待ち構えていました。

 メイド達は「謁見の間には『その場に似合うような服に着替えよ』と聞いております」といきなり言うと後ろから羽交い締めにし、無理矢理着替えさせられます。

「い、いきなりなんですか?」

「観念しなさい」

「何を観念するのでしょうか?それに服なら着替えられます」

「いいえ、この服は一人で着替えられません。試しに着てみますか?」

 何やら型を後ろで紐を硬く縛るらしいです。どうやら後ろに手があれば着替えられる服でした。

「ところで、その硬いものは何でしょうか」

「服を着る前に必要なモノですよ」などとニッコリとメイドが不適な笑みを浮かべています。


 ……


 ……ただいま私はメイド達に人形の様になすがままにされています。

「痛いです。痛いです。もう勘弁してください……」

「もう観念しなさい。あと少し我慢すれば良いだけですわ」

「も、もう無理です許してください……」

「いえいえまだです。ここで辞める訳にはいきませんわ」

「い、痛い……もうゆるしてください」

「あと少し終わりますからそれぐらい我慢しなさい」

「もう我慢できません」

 このようなやりとりをしながら硬い皮の様なものを腰にキツく締められます。これはコルセットと言うシロモノで服を切る前に必要なものと言っています。後ろでキツく紐を縛るので、確かに一人では着られないのですが、そもそも必要有るのでしょうか……。

 それから上にドレスを着せられます……。白と黒が交錯して波を打っているようなデザインのドレスの様です。

「これで大丈夫ですね。よくお似合いですよ」

 手を払いながらメイド達はしてやったりの顔をしています。お似合いですと言われても逆に落ち着かないのですが……。

「それで、イレイナとエレシアはあのままで良いのですしょうか?」

 お二人とも着替えるべきです。一緒に痛みを味合いましょう。

「騎士はそれが正装ですし、成人してないエルフはその服でも正装になりますので問題ありません」とメイドがきっぱり言います。

 つまり、この苦痛を受けるのは私だけですか……。

 それから、しばらく待つと騎士が二人やってきて王が待たれているので謁見の間に来るように言われます。


「中で陛下がお待ちになられている」と騎士が言うと謁見の間の扉を開かられます。

 謁見の間は中央に赤い絨緞が引かれた大理石の部屋になっており天井が三階……いや四階分の吹き抜けになっている大きな長方形の部屋です。部屋の左右には柱が並んでおりどうやらそれで高い天井を支えているような感じです。赤絨緞は階段まで続いており階段の上に玉座があります。

 そこに国王らしき人が座っています。そこに座っている人物は、年齢を感じさせない威厳のある顔をしていました。短く切りそろえた濃い緑ダークグリーンの髪に烈火の瞳が威厳をさらに強調させている——それが最初の印象でした。そもそも森エルフは見た目からは年齢が分かりにくいのでどれほどの年月を経てきた顔までかよく分からないのですが老木の年輪の様な深みを感じさせています。一言で言うと渋いででしょうか。それでも私よりは若いのでしょうね。

 ところで、国王に謁見?する時どうすれば良いのでしょうか。「こんにちわ、フレナですよろしく」で良いのでしょうか?重厚な光景をみると流石にそれは場違いな気がします……。

「エレシアさん、少し教えてください。このような時はどうすれば良いのでしょうか?」

「フ……フレナ様……お……王様へ……の挨拶の仕方は……分かってるの……確か……」

 エレシアが耳元でささやきます。耳に息がかかってピクピクします。ふむふむなるほど……理解しました。それでは中に入ることにいたします。


 さてエレシアを引き連れて中に入ると——もちろんイレイナも勝手についてきます——途中で深くお辞儀をします。

「陛下初めまして、御機嫌麗しうございます。私めは大森林から来た精霊使いのフレナと申します。今日はどのようなご用件でございましょうか?」

 長口上を続けてみます。何かフィーニアの話が長い理由も分かる気がします。いやそれだけでは無いでしょうけど……。

「長旅ご苦労である。余はエルフの王国の国王ミュンディスフラン三世である。しかしフレナよ、ここでは偽りの姿を取る必要ではないであろう。ハイ・エルフの大賢者殿」

 やっぱりバレてますね……。国王に大賢者と吹き込んだのはたぶん脳筋ですよね。脳筋の方を見ますが反応はないです。恐らく睨みつけてもも気がついかなさそうな感じです。

「気がついておられましたか」

「この程度の幻術なら容易く分かるぞ」

 まぁ軽い幻術ですから気がつく人は気がつきますよね。仕方ないので幻術を解きます。

「ほお、それが大賢者殿のお姿であるか。まさしく預言の如き方であるな。そちたちもそう思うであろう」と国王が言うと周りに居る家臣達が頷いております。

「ところで預言とは何でしょうか」

 もしかしてフィーニアが言っていた預言と同じでしょうか?確かハイ・エルフが迷子になっているから助けろとか言うふざけたヤツですよね。

「賢者様、それはですな……」

 家臣の一人が前に進み出て詩を朗読し始めます。

「……と言う訳です」

「それは迷子とどうつながるのでしょうか?」とフィーニアの言ったことを反復します。

「賢者殿そういう解釈があるのか?」国王が言います。

「恐らく、『その体躯からだは 森の中を迷い歩き』と言うところを迷子と解釈したのではないかと……」と別の家臣の一人が説明します。

「流石にそれは無理筋では無いか」とまた別の家臣。

「しかし、このような解釈も可能ですな」

 ……家臣達が預言の解釈で盛り上がってます。

「控えよ。賢者殿が呆れておるぞ」

 国王の一括で一同は沈黙します。

「賢者殿、失礼した。実のところ余はフィーニアの精霊魔法を短期間で上達させたという賢者殿がどういうお方か見たかっただけな単なる子煩悩な親だと思ってくれ」

 そのような噂がほんの数日で伝わっているのでしょうか……これもまた後ろにいる……まぁ労力の無駄ですから辞めておきます。

 実際の国王の話は、フィーニアの話ではなくこの国の置かれた状況とそれに対する助言を求める内容でした。森林のある東はともかく、南は砂漠から北は荒れ野や砂漠の方から魔物の襲撃が増えておりその対策が段々困難になっていると言うことでした。

 ……と言われても助言できることなどないのですよね……。

「それより、そこに居るのはエレシアか。久しぶりよの……父上は息災か?」

 国王が目を細めて言います。

「あ……はい……元気らしいです……」

 何か因縁がありそうな感じです。

「そろそろ謁見時間が終了になります」と衛兵が言います。

「もう少し話を続けたいところだが次の用事があるようだ。賢者殿は例の件、検討してくれぬか。それでは、これにて失礼致す」

 例の件とは魔物の事でしょうか善処することにいたします。

「それでは陛下、御機嫌麗しゅう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る