エルフの王国14 都の寸劇
この街からは大きな街道の幅が広くなり馬車の行き来も激しくなってきます。道の舗装が良くなり大分快適になっています。そろそろ都に近づいてきたみたいで、周囲の風景は単調なモザイク模様から色とりどりな建物が下から生えてくる様に変わってきます。その中には斬新なデザインな建物がたまに見られるような気がしました。例えば、賽子状の家や幾つもの凸凹を組み合わせたたり様々な建物が目を楽しませてくれました。これで退屈な風景とはしばらくおさらばになりそうな感じでした。
都は大きな城壁で囲まれており入城するには時間がかかるようで大きな門の前に馬車が列をなして並んでいました。そこで門番にかけあい手形を見せるとその列に並ばず、あっさり中に入れました。
「あの王女は意外に役に立つのですね。タダの変態だと思っていました」と思わずこぼしてしまうぐらいにすんなり都の中に入ることが出来ました。
しかし城門をくぐる時、全方位から意外な力を感知しました。急激に重圧をかけられたような感覚が神経を逆なでしました。恐らくとても強い複数の精霊の力を行使している感覚です。それが折り重なって重圧に感じるわけですが……恐らく精霊が見えないものには何も感じないと思われます。
恐らく都の城門には魔法結界が廻らせており物理防御の壁と魔法防御の結界を組み合わせる事で強固な守りを作り出しているのではないでしょうか……。結界の力をたどってみると都の周囲をドーム状に覆うように結界が張られているのが良く分かります。これほどの結界作る事を出来るのは風の精霊王か魔の上位精霊の類だと思わうのですが……かなり無茶をしている感じです。城壁の街の話だと城壁だけでは竜は防げないみたいですし、もしかすると竜対策でこれだけ分厚い結界を張っているのでしょうか……。
それはともかく城門を通り過ぎると朝顔の刺繍をつけた外衣を羽織った女騎士が現れました……しかしどこかで見た顔ですけど誰でしょうか……。
「大賢者様、お久しぶりです。イレイナです」
ああ、思い出しました脳筋さんです。
「イレイナさん。なんで、こんなところに居るのでしょうか」
「主の命で大賢者様が来るのをお待ちしておりました」
それより幻術は解けていないですよね……解けていない様です。
「それは人違いではないでしょうか?」
「いえいえ、城門で手形をお見せになりました。それこそ大賢者様の証です。例え幻術で目を誤魔化されてもその叡智は誤魔化せませんし、それにその馬車には見覚えがあります」
人違いだとはぐらかそうとしましたが、これは完全にそうだと信じ込んでむタイプなので口で言いくるめて逃げるのは無理そうでした……脳筋は頭が硬い分こういうときには面倒です……騙される時は簡単に騙されるのに騙されて欲しいときには騙されてくれません。それに馬と馬車から完全に身元が割れている様で、誤魔化すのは無理そうでした——フィーニア王女が荷馬車本体に何かを仕掛けていたみたいで、後ほど調べると馬車の下に王家の紋章と風の
「イレイナさん、私より後に砦を出ているのですよね」
「夜を徹して馬を駆ければ都まで一日で着きますから先回りしてお待ちしていたわけです。それではこちらに参りましょう」
つまり徹夜で先回りして来たと……馬、こいつ大丈夫か?……馬に聞いても同じ反応でした首を横に振っております。
そして騎乗した女騎士に先導されて連行されていきます。しかたないので「フレナは頑張る子」と自分に言い聞かせることにします。「それは何かのおまじないですか?」とイレイナに聞かれましたが流石に無視することにしましょう。
話によれば都は北側の王宮を中心にして街が広がっており、王宮地区、山手地区、下町区画の三つに分かれていると言う話で、王宮の裏手には森が広がっており北の城壁まで覆い隠しているのだそうです。
東の城門をくぐった場所は下町地区で、女騎士が言うには庶民が住む場所らしいです。ここには都の外と同じ様な建物が並んでいるので、街道の建物は都が大きくなりすぎて外に追い出された感じでと思います。
しかし、この辺りやたら人が多く、まるでイナゴの群れが二足歩行している感じです。それは流石、都と言うしかないのですが、あの人混みのひとかたまりだけで里より人が多いとか流石に多すぎる気がします。ここで荷馬車から降りるのは危険な気がします。隙をついて荷馬車から降りればこの脳筋から逃げ出せる様な気もしますが、あの人混みに紛れ混むとイナゴの群れにどうされるのかの予想が付かないので逃げるのを諦めることにします。
女騎士の誘導で通りをいくつか曲がると段々人通りが少なくなり山手地区に入ります。山手地区の入口にも門番が立っていますがどうやらここでも手形を見せれば審査無し通れるようです。入る時に先程より強い衝撃を受けます。どうやら城門より強い精霊で山手地区より内部を結界で覆っている様でした。
山手地区は、貴族や御用商人などが居住している地域でひたすら大きな屋敷が連なっています。東の砦の屋敷より遙かに大きい屋敷がいくつも見えるのですが、そこには一体どういう人達が住んでいるのでしょうね。その佇まいは一件一件違う顔をしておりその屋敷の主の個性が出ています。ここまでくると人通りは少なくなり閑かさが空間を支配するようになり、先程までの人混みと混雑がまるで嘘の様な気がします。居るのは家の見張りをやってる門番やおつかいのメイドさんや兵隊などがパラパラと歩いていているぐらいです——ちなみに北へ行くほど屋敷が大きくなっていきます。
さきほどまで人混みで気を張っていたので、閑静な街並みですっかり気抜けしましておりますが、馬が何とかしてくれると思います……知らないって?……どうにかしなさい。
女騎士は後ろをみずにひたすら道路を進んでいくのですが、私が置きざりにされるとか逃げるとか何も考えていないみたいです。
イレイナはそのまま王宮地区に入ろうとします。
「いきなりここに何の用事でしょうか」と後ろから声をかけてみると「こちらに用事があるのです」と返事はそれだけでした。
王宮地区の入口にも門番が立っていましたが、やはり無審査で入れました。どうやら手形は無敵のようです。門をくぐると入るとやはり衝撃を感じます。しかし先程とは違う衝撃でした。城門も山手地区の入口も外側から内側に向かう衝撃を遮るための障壁でしたが、王宮の入口を通った時に感じたのは内側から外側から出て行く衝撃を押さえ込む為の魔法障壁です。しかも精霊の力ではなく別の種類の魔法障壁がかかっています……これは
王宮地区の中に入るとそれまでと全く違う風景が目の前に広がっていきます。木々がそこかしこに生えており、それが群れをなして森を形成し、ひたすら遠くの方まで広がっています。その中で半分宙に浮いている様な木々で囲まれた巨大な建築物が見えたのですがあれが恐らく王宮だと思います。
——王宮地区は精霊達が踊っています。里までとは行かないまでも精霊が満ちあふれている気がします。王宮地区の魔法障壁はどうやら精霊を内側に閉じ込める為のものでした。
「精霊さんが沢山いますね」
「何も見えませんが……」
最初から分かっていましたが脳筋さんには精霊は見えません。
しかし、これだけ沢山の精霊さんが居ればおうち感覚で精霊魔法が使えてしまうのではないでしょうか……。
それはともかく、女騎士は相変わらず後ろも見ずに道を進んでいくので追いつくのが大変です……ねぇ馬……馬がうなずいています……まぁ追いすがっているのは馬で私ではないので、馬の頑張りを応援しておきましょう……馬よ、頑張りなさい……頑張れば、あの女騎士が人参を暮れるとおもいますよ。たぶんですけど……あの騎士は信用出来ないって……私も信じてませんよ。なので精霊を飛ばしておいたので、はぐれても後から追いつけば良いのです……少し休んでも大丈夫ですよ……。
——今、馬が休んでいます。
本当に休むんですか……休んでも良いと言ったじゃないかと言っております……いや言いましたけど。
精霊の目を通して女騎士の居場所は把握出来ますし、まだ視界の中にいます。それより、あの騎士が、どこまで気がつかないで進んで行くのかじっと観察していることにいたします。
……
女騎士は、そこからさらに真っ直ぐ進んだあと右に曲がってしばらく進んだところで止まったようです。そこには大きな門がみえてどうやら誰かのお屋敷の前のようです。それもかなり大きい屋敷ですね。
脳筋さんは、その前で止まると後ろを見ると誰もいないのに気がついたのか首をかしげております。
そこは、はぐれたのとか思うところですよねとツッコミを入れたくなるような仕草をしている気がします。
馬、ではそろそろ行きましょうか?……いやだ……いやと言っても行きますよ……精霊で軽く荷馬車を押してみます。
そうすると馬がびっくりして前に歩き始めます。
よし、その道を右に曲がるのですよ……。女騎士は相変わらず門の前で首をかしげています。
「そこで立ち止まって何をやっているのですか?」
「突然、大賢者様が消えてしまったので幻術でも使われたのかと思っていたところです」
……ただ休んでいただけなのですが、分からなかったのでしょうか。
「ようこそ、いらっしゃいました。ここは
ここに入っても良いのでしょうか……まぁ入ります。
「お邪魔します」と中に入ると大勢のメイドさん達が出迎えてくれます。荷馬車を馬小屋の方で預かるそうなので引き渡すことにします。
馬よ、さらば……褒美にニンジンを頂くと良いぞ。
馬車から降りると屋敷の中をメイドさんが案内してくれます——女騎士は勝手に先に行ってしまいましたし、付き合う必要も無いですよね——メイドさんは知的な曲線をしております。栗色のストレートの髪と軽くつり上がった目がさらに知的な感じを強調しています。服は曲線の中に直線を混ぜ込んできております。まったくけしからんです。
メイドさんに話を聞いてみるとここはフィーニア王女の本宅だそうです。ただ都に帰られるのは一年に一度あるかないかと言う話です。フィーニア王女は常に砦に張り付いていないといけないそうです。偉い人は大変なのですね。
主のいない屋敷でも木々や屋敷を管理したり、収入や支出——何でしょうか?——の計算を行ったりする必要があり、お金に関することは本宅の方でやっているそうです。砦の屋敷で執事をあまりみなかったのはその所為でしょうか。
広い敷地の中に木々が立ち並んでおります。その中を蛇行した小径が続いており、それを抜けると空間に大きな庭と屋敷見えてきます。どうやら砦の屋敷より十倍は大きい様です。メイドさんは屋敷の扉をあけると、そのまま屋敷の中に案内します。
「賢者様、お疲れ様です。こちらでおくつろぎください」
扉をあけるとそこは大きな玄関で、段差を登った少し奥まったところにソファーと机が置いてあってそこまで案内されます。
「……疲れました」
肉体的に疲れたのはお馬さんで、精神的に疲れたのは私です。人混みと脳筋、人混みと脳筋……この二つがトラウマになりそうです。
「それでは、お茶とケーキをお持ちします」
これは気が利くメイドさんですね。こんな気が利く子はお嫁さんに貰いたいです。勿論口には出しません。
しばらくするとお茶とケーキが出てきます。どうやら栗のケーキの様です。スポンジを栗をベースにしたクリームで包み込んで、その上に一粒の栗が載せてあります、ひとくち口の中に入れると甘味で頭がとろけそうです。クリームの弾力がほどよい感じで舌もとろけそうです。
やはりケーキは美味しいです。やはり、小麦は中毒性があります。
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