エルフの王国12 第二の街

 食事は期待通りハズレで味気のない夜はパンとシチュー、朝は麦粥を啜っていました——仕方ないので口直しに屋敷から持ってきたクッキーを食べています。しかし、このクッキーも少し湿ってきています。ここの焼き菓子はそんなに日持ちしないみたい様なので早めに食べきらないと駄目なようです。保存箱に入れておけばもう少し持つかな……。

 ——そういえばベッドもあまりよろしくありませんでした。野宿よりはマシな程度なぐらいです。この先これ以上に酷い宿屋もあるでしょうし、この程度でめげていてはいけません。そういい聞かせながら次の目的地に向かうことにします。しかし、次はもう少し大きな街に泊まりたいところです。この街はあまりに小さすぎます。昨日仕掛けたネズミの罠ですが、沢山ネズミがかかったそうで何やらあるじがホクホクしていました。ぼそっと「肉が食える」などと言っていた気もします。

 宿屋を出てから荷馬車に乗るとほんの少し進んだだけまた同じ光景がひたすら続いていきます。四角い区画はどうやら畑らしいです。畑で食べ物を生産しているそうですが、何でも同じ場所で同じものを生産し続けると収穫量が少なくなるので、毎年育てる作物を入れかえる必要があるらしく畑がマダラ状にいろいろな色になっているらしいです。

 ……それはともかく道中に見られるものと言えば今日も途中ですれ違う馬車ぐらいしかありません。退屈を持て余すのは予定通りでしたので今日は暇潰しの道具を用意しております。

「じゃーん」

 タダの針金です。背嚢の中に入れてきた道具の一つです。今日はこの針金で何か作ってみようかと思います……。

 ところでこの馬は先程から一体何を見ているんでしょうか……すれ違う馬車に見とれているようです……立ち止まっていないでさっさと進みなさい。言う事聞かないと今日の藁を少なくしますよ……すこし圧をかけると馬はいなないて再び歩き始めてくれました。しかし、この馬は少し目をはずすとすぐサボるので油断も隙も無いですね……。

 それではやりなおします。今日は針金で何かを作ってみようかと思います……。取りあえず釣り針でもつくりましょうか……。


 ……


 何度か曲げてみましたが釣り針らしきものは結局できませんでした。すべてが思うようには作れるとは限らないものです……それが分かっただけで今日は良いとしましょう。

 今日は少し大きな街を目指して居るわけですが、その途中でいくつか小さな街を通り過ぎる訳です。昼食はそこで取る事にしました。

 ……そういえば馬が先程からにらみつけているようです。お腹が空いたなどと言っている様です。その辺の草でも食べたらいいじゃないですか……この程度草ではお腹は膨れないですか……それでは藁を一束食べさせておきましょう。またサボられた困ります……。

 (馬の)昼食が終わると再び荷馬車を進めていきます。同じ光景がひたすら続いた後、ようやく大きな城壁がみえきます。

「見よ。あれが街だ」

 まぁ見えたのはまだ城壁だけですけど……。

 街道を更に進むと城壁が大きくなっていきます。街道は壁の間にある門に続いています。この門の中に街があります。

 そこで馬を走らせてそのまま門をくぐろうとすると二人の門番が止めにかかります。

「お前は一体どこから来た。そして一体どこに行くのだ。場所と目的を言え」

「私の名はフレナ。東の砦から来て都に行く旅人です。何もあやしいものではありません。目的は図書館に行くためです」

「貴様みたいな村人ごときが図書館に行くだと……あやしすぎる。荷物を検分させてもらう。後身体もだな……」

 口の端を歪めながら門場達はそう言い捨てると最初に荷馬車の中の荷物を調べ始めます。中に大した荷物はないのですけどね……ただ触ると危険なシロモノも置いてありますが、うっかり触れられたら大惨事になりますよね……門番が……などと不安に思っていましたが、門番達は荷物の中にある何かに気がつくと慌てて荷馬車から飛び出してきました。

「も、もうしわけありません。フィーニア王女様の使いの方でしたか。これは大変失礼しました。そうならそうだと最初にいってください。そんな村人の格好されていたらあやしいと思いますよ」

 なにか声がうわずっています。

 門番達は揉み手をしながらそんなことを言っていますが何か勘違いしているような気がします。そういえば倉庫から荷馬車を移す時に王女に何かを仕込まれたかも知れません……怪しすぎるので後で荷物を調べる必要がありそうです。

 勘違いついでに詳しく門番に話を聞いてみることにしました。その中で気になった話は、他の国では街に入るには通行証が必要になる場合もあるそうです。人間の国に行くときはその通行証とやらを手に入れないといけないかもしれないので心のメモに書き込んでおくことにします。

 この街はエルフの王国の東の兵站拠点らしく、そのために城壁で囲っているそうです。さらに、あやしい人物が中に入りこまない様に出入りをチェックしているのだとか……。いざと言う時には付近の住民を収納し、籠城して援軍を待つのらしいのですが東の方にはそう言う脅威が来ることはまずありえないので問題無いらしいです。

 エルフの王国の東西南北にこのような城壁のある街がいくつかあり、北と西の街では何度か籠城が行われたことがあるそうです。それでも東のこの街で今まで一度もないと言う話でした。仮に東から脅威が来るとすればそれは恐らく竜だろうから恐らく壁があっても意味ないけどねと門番は笑って言いました。竜とか洒落にならない生き物ではないでしょうか。巨大な竜は翼を羽ばたかせるだけで街が一つ吹き飛ぶとか言われていますよね。

 この門番が、エルフの王国の民なら誰でも知ってそうな事を尋ねた事を怪しまないのが逆に不思議に感じたのですが、正体ばれては居ないですよね……。


 門をくぐると街の中に入ります。そこには二階建てや三階建ての建物が通りの両側に並んでいます。しかし、随分狭いところに建物が建っています。ところどころ一階の部分に看板が出ており、そこにお店がある事を伺わせていました。

 これから宿屋を探さないと行けない訳ですが昨日の小さな街と違って、宿屋はすぐには見つからないです。宿屋を探して右往左往しています。

「これは宿屋の場所も門番に聞いておけば良かったですね……」

 幸いな事に街の中心部が広場になっていてそこに大きな案内図が出ていました。案内図を見ると宿屋が集まっている宿屋街なるものがある様です。試しにそちらに行って見ることにします。

 ……行くぞ馬……夕飯が食べたければ宿屋にたどりつくのだ……宿屋に向かって荷馬車を移動させます。荷馬車も止められる宿屋と言うのはかなり数が限られているようでした。宿屋はいくつかのランクに分類され、大雑把に分類すると安宿、普通の宿、高級宿に分ける事ができるようです。荷馬車も一緒に停めようとすれば少なくとも普通の宿以上に泊まる必要があるようです。ちなみに安宿は銅貨数枚、普通の宿は銅貨十枚から二十枚、高級宿は銀貨三枚以上といったところが相場でした。普通の宿でも昨日の宿より安いみたいです。

 ……どうやら昨日はぼったくられた気がします……結果的にタダで泊まっていますのでその件は忘れることにしましょう。手元にまだ銀貨が沢山ありますし今晩は高級宿に泊まってみる事にします。ゆっくりお風呂にも入りたいです。

 道をどんどん先に進んでいくと、赤と青の胡瓜をつなげたような看板が出ていたので取りあえずここに入ってみることにしました。

 ——結論から書くと……ここは宿屋ではありませんでした。

 宿屋街を通り過ぎてしまったようですので、戻る必要があります……さすが中の様子はここには書けません。いたいけな子どもが読んで間違った性に目覚めてしまいまうと困りますので……。いえいえ、いやそんなものは見てません……ただの冗句です。

 そのお店から荷馬車を大きく迂回させて再び宿屋街に戻ると既に日が暮れかけていました。そこに人参をかたどった宿屋の看板が目に付いたので今日はここに泊まる事にしましょう……実際のところは馬がじっと看板を見つめてそこから動こうとしないからですけど……。

「たのもう」

 爽快に扉を開けると昨日と同じように記帳します。今日はむさいオヤジではなく小娘が対応してます。花柄の衣裳が妙にあっている清楚風な女性でした。しかし、その顔と身体で何人たぶらかしてきたのでしょう……。失礼、先程の店と混乱してしているようです……。いやいや流石の私もあれには動揺しました。

 気を取り直して宿賃を聞くと荷馬車の預かり料を含めて銀貨四枚でした。まだ銀貨は十分ありますから大丈夫です。

「釣りは要らねぇ」

 宿賃は前払いらしいだのでそう言いながら支払いを行います。

「きっちり銀貨四枚ですね。おつりは出ません」

 この子ノリが悪い気がします……。

 さてこの宿屋は、酒場なるものが隣接しているようです。酒場と言うからにはお酒を飲む場所なのでしょう。こういえば何ですが実はお酒はあまり得意ではないのです。そもそもお酒と言うものは魔法の触媒や錬金術に使うシロモノです。中に入るとそれを浴びるように飲んでいました。酒場の中は酒精アルコールの匂いが充満しています。……ここは、なにかがおかしいです。そういえば酒を飲んでいる人達が顔をあからめて陽気しゃべっています。中には頭が痛いなどと訴えるものも居ます。魔法の触媒にするものを飲んだらそうなります。触媒は触媒であり、飲み物ではありません。

 まぁ食事はここでしろと言う事なので夕飯を食べま……そういえば馬に夕飯をあげてませんでした。ねてそうなので先にあげてきます……。

「お酒をこんなに飲んで大丈夫なのですか?」

 テーブルを囲んで酒を飲んでいる四人組に声をかけてみます。

「ねーちゃん、飲まないとやってられんよ。だがまぁ俺等は嗜むぐらいだよな」

「ええ、ドワーフは樽ごと飲むからな。それに比べれば嗜んでいるだけだよ」

 などとカップに入ったお酒を煽っています。カップから流れてくる匂いから察するにかなり薄めた酒精の様です。流石に酒精をそのまま飲む訳ではないようです。それからいくつかの雑味が混ざってます。

 そこで酒を飲んでる一向は「追加のエールを一つ」などと言っています。

 エールとはこの酒の名前なのでしょうか……。ふと疑問に思い見上げると酒場の壁に木の板に文字を刻んだメニューが並んでいたのでそれを順番に読んでいきます。

 ずらっと並んだメニューの中に〔エール 一杯 銅貨一枚〕と書いてありした。……まぁ酒は良いので取りあえず食べ物はないのでしょうかねぇ……。さらに並んだメニューを一つ一つ読んでいきます。

「なぁ、そこのお嬢さん、一杯やってかないか?」

「いえ私はお酒は苦手なので……」

 私はその場を逃げようとしましたが……なぜかここに座っています。現在、周りを酒気で囲まれております。早いところ食事をして逃げたいのですが、逃げられる状況にはありません。

 なにしろメニューを目で追っている間に団体客や仕事帰りの客やらが突然に大量に入ってきて空いている席をぶんどってしまったのです。それで他に座れる席がないかと探していたら「ここに席があいているではないか」とニヤっと先程の男が言うのです。いや確かに空いてますけどそう言う意味ではないです……とは思いましたが結局他の席が空いていないので仕方なく相席することにしました。

 その席にいたのは男が三人、女が一人の四人組で、声をかけてきた男は少しむさいのですが他の二人はややイケてる顔をしているようです。ただし父の足元にも及びません。父と比較したらお日様も逃げだしますから。

 相席ついでに話を聞いてみると四人は鍛治だそうです。その中で一番偉そうなおっさんが酒をあおりながら語りかけてきます。

「この俺はこの辺でもちょいと有名で鍛冶屋でな近くの村に農具を作って売っていたわけよ。うちの製品は長持ちするし、頑丈だからなそりゃ昔は飛ぶ様にうれたのよ。で、こいつらは弟子な。俺の自慢の弟子達よ」

 弟子三人がバラバラに挨拶します。

「はぁ農具ですか」

「そう鍬とか鋤、フォーク、シャベルとかなんかをこうやって作ってたんだよ」

 金床に鉄を打ち付けるような仕草をします。

「それがだな最近はあまり売れ行きが悪くてだな……商売替えか別の街に移ろうとも思っていたんだが、まぁ武器ならそこそこ需要あるだろ。武器鍛冶に鞍替えも良いかなと思ってたところ剣を一振り作って欲しいと言う依頼が来てだな……その報酬が金貨百枚だとさ」

「ほお金貨百枚ですか」

「そうだぞ金貨百枚もあればしばらく豪遊できるぜ。まあ別の場所で店構える資金もなるし、しばらく遊んで暮らしてもいいな……」

 金貨百枚あると豪遊できるんですね。金貨はそれほどに価値があるものなのですかとその時はモヤッと考えていました。

「まぁでも詐欺って線もあるだろ……支払いは弾むとふっかけておい物だけ貰って金を払わないやつ。だが、そいつは『ただし材料はこいつで作ってくれ』っていってきたのよ」

 更に酒をあおるとどこかしらか取り出した灰色に輝くの金属塊をテーブルの上に転がします。これはどこかで見覚えのあるやつです……。

真銀ミスリルですか……」

「真銀って分かるんかい。ねーちゃんこいつを知ってるとは若いのに凄いな。だが、これはこの辺りでは滅多に見かけないものだわ。貴族の連中は持ってるだろうけどな。依頼人はこいつを渡すから作ってくれとさ」

「それでどうなったのでしょうか?」

「いや、それがビクともしないのよ。こいつは煮ても焼いても加工すらできねぇ。それで放り出してヤケ酒に繰り出したってとこだ。あっと、店員さんエールもう一杯くれ。あとつまみも寄こせ」

 などと言いながらおっさんが酒をあおっています。真銀と言えばは里の子どもが金細工やるときに遊びで使うヤツなので当然なじみがありました。外では希少で高価だと母が話していましたがが里ではその辺に転がっている代物です。今も真銀を編み込んだ道具がいくつか背嚢の中に詰め込んであります。

「だがまぁ、この真銀の金属塊はすごいだろ。こりゃ並みの真銀じゃないぜこれ……きっと南のドワーフの国で採れた一級品だよ。これを依頼者がどうやって手にいれたかはしらんが、あの樽野郎どもに加工できるものが俺に出来ない道理は無いだろ」

「そうですね」と頷いて起きましたがそう言う道理があるのでしょうか……それよりお腹が空きました。「店員さん、ご飯、まだですかー」

「もい少しでお持ちできますのでしばらくお待ちください」と店員が対応してきます。

 しかしこの店員の来ている服はなかなかよろしいモノですな。うむ清楚の中にエロスを求める美。ここの主はたぶん美の本質を分かっています。うんうん後ろ姿も中々いいものです……。まぁそれはともかく、このむさいおっさんは真銀の加工が出来なくて酒を飲んでいるみたいです。真銀の加工などサラマンダーにでもやらせればすぐできるのですけど……。火の精霊でも火精だとむつかしいところです。火精で加工できるのは鋼までです。真銀の加工を覚える為には、精霊にグレードがある事を知らないと行けないので子どもの教育にはとても良いのです。

 ——しかし、この方は精霊を使わずに剣を作りたいのでしょうか……。

 としばし考えましたが、ちょうどご飯が来たのでそちらを優先する事します。

「火力が足りないのではないのでしょうか」と食事を頬張りながらふとこぼします。

「ん、今何をいった……」

「いや火力が足りないのではないかと思っただけです。農具に使っているのは鉄ですよね」

「そりゃ普通鉄だろ……農具に真銀なんか使ったら高すぎて誰も買えんからな」

「ええ、青銅より鉄の加工には火力が要ります。それと同じで真銀の加工には鉄を加工する時以上の火力が居るのではないでしょうか?」

「んーそれは盲点だったな……まぁ、だが、それをやるにはもう一つ問題があるのだ、今以上の火力ってどう出すんだ?」

 火力が足りないなら上位の火の精霊でも呼び出せば良いのではないのでしょうか。それか火を風精で煽っても良いですね。精霊を使ったアイデアはいくらでも思いつくのですが精霊なしの方法に関しては少し分かりかねます。

「私は鍛冶の仕事は分かりませんので……」

 それより今はまず食べることに専念したいと思います。今日の夕飯は昨日の食べ物とは見違えるぐらいの食べ物ですか。これはパスタと言いましたか……。棒状に伸びたやつを苦戦しながら口の中に入れます。口に含むとチーズと卵の濃厚なソースが混じり合って味の爆弾が口の中に広がりました。あ、この黒いのは胡椒でしょうか。単に濃厚だけだと味がのっぺりしてしまうのですが胡椒を加えることでアクセントが効いて良い感じです。

 その間、四人の鍛冶師達はなにやら楽しそうに話しあっている様です。そして酒を頼んではまた飲んでいます。時々笑い声が聞こえてきます。まぁ夕飯に専念していたので何を話ていたのかは全く聞いていませんでした。

「でだな……」

「はぁ」

「いやぁあんたの話を聞いてだな弟子と話ていたんだがいろいろアイデアが思いついたのよ。今から試してみたいとかこいつらも言ってるし、今から作業場に戻るわ。いやあ為になったわ。この酒は奢りだ貰っていけ……」と言うと四人はぞろぞろと酒場からでていきました。

 残されたのは食べかけ夕食の皿の酒の入ったカップが一つ……。

 つまり、このエールとか言う酒をを飲めと。しかたないので飲んでみましたよ……鍛冶師のマネをしてぐいっと一気に飲み干してみます。喉が火を噴いていますし、抵抗してます……。そこを無理矢理飲み込んでみます……。

「いや、なんですかこれ……」

 なんか目が回る気がします。それから楽しくなってきました……。で、その後の記憶がありません……。

「はっ」

 起きると既に朝になってたようです。それより頭が痛いんです……。とってもズキズキします。恐らくこの酒の所為だと思います。酒は毒ですから毒消しの薬でなんとかなりそうですよね。毒消しの薬はちゃんと用意してあるはずです……毒消しの丸薬は……確かこの辺に……頭がフラフラするので目的地になかなかたどり着けません……背嚢の中をガサゴソと漁って薬入れをようやくみつけました。たしかこの薬だったよね。薬を飲み間違えるとイケないので何度も慎重に確認します。

 それでは飲みます。

 ゴクリ。

「すっきり」

 頭の中が霧から突然晴れたかのような気分です。一瞬で復活しました。やはりこの毒消しは良く効きます。やはり酒は毒です。あれを浴びる様に飲むのはやっぱり身体に悪いです。次にあいつらに会ったら説教してやりたいところですね。……そういえば幻術は解けてはいませんよね……姿見で確認するとどうやら幻術は解けていない様です。

 よかった。

 周りを確認するとどうやら二階の部屋で寝ていたようで、部屋からでて階段を降りるとそこには酒屋の店員が居りました。昨日の美の本質を理解している娘ではないですか……どうやら、この酒場は朝からやってるようです。

「お客様大丈夫ですか……昨晩、急にお倒れになったので……」

 店員が顔をのぞき込みます。恥ずかしいのでそんなに見つめないでください。

「たぶんお酒の所為ですよね」

「そういえばあのとき火酒スピリッツを一気飲みされてましたね」

「えっとアレはエールではないのですか?」

「いえ、最後に注文されたお酒はエールではなくて火酒です……火酒ってわかりますでしょうか?」

「いいえ、知りません」

「エールはそんなに強くないお酒ですよ。火酒はエールとは違って酒を火に炙って酔いの成分だけを凝縮したものです。大変強いお酒なので一気に飲まれるのは慣れない方はやめたほうが良いかと……せめて水で割るとかしないと危ないです……まぁ、でもどうやら大丈夫だったよう安心しました。こ起きてこなければお医者さんを呼んでこないといけないところでした」

 いえ、大丈夫ではなかったのですけど……毒消しの薬が即効で効いただけです。

「そういえば昨晩の酒場の代金を払っていませんでしたね……今すぐに払います……おいくらでしょうか?」

「昨晩の代金は、相席された方が全部支払われたので結構です」

 どうやら食べ物の分も払ってくれたようです。その点に関しては感謝しましょう。しかしお酒はいただけません。

 出発する前に荷馬車の荷物の確認をしないといけません。王女が一体なにをやらかした気になっていたのをすっかり忘れて居ました。

 宿を出る前に積み荷の点検を行います。


 ………………


 荷馬車の中をチェックしていくとその中に見覚えのない箱が一つこっそり置いてあるのを見つけました。箱を捕りあえげてみると『フィーニアより愛する賢者様へ』などと書いてあります。嫌な予感がするので見なかったことにできませんかねぇ……。気を取り直して一応中を確認すると手紙と手形らしきものが入っていますね。手紙の詳しい内容は割愛させていただくとして——思い出したくないので——手形は通行許可証の様でエルフの王国なら見せればどんな街でも簡単に出入りできると書いてあります。エルフの王国からでても友好国なら恐らく通れるでしょうとも書いてあります。たぶんって言うのが気になるのですが使われるものは使わせて貰う事にしましょう。

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