エルフの王国7 感覚共有の巻
「それでは、おやすみなさい」
食堂を後にして自室に戻ります。寝間着に着替えて
そのような記述を日記に書き込んでから寝ることにします。
朝になりました。寝台の上から起き上がります。まだ朝食の時間には早いようです。それでは先に着替えておきましょう。まだ買った服が届いていないので一張羅ですけどまだ大丈夫ですよね。それから髪をとかして束ねます。
それでは朝食をいただきにいきましょう。昨日は自室でたべましたが今日は食堂に食べに行くことにします。
食堂に行くと、光精が食堂をまだ明るく照らしています。その中をメイドさんが忙しく行き交っています。
「この光は少し邪魔でしょうか」
朝から部屋が明るすぎるのはさすがに気になりますので光精を一応解放しておきましょう。
急に部屋が薄暗くなったのでメイドさん達が何が起きたのかキョロキョロしているようです。
先に一言言うべきでした……。
今日は王女の訓練プランをを作りあげました。これを何年か続ければ良い精霊使いになるのではないでしょうか……渾身の自信作です。問題は誰も試したことがない事です。
できあがった計画書を王女に渡すようにメイドさんに申しつけておきます。
後は荷物が届くのを待つだけなのでのんびりする事にいたします。
「……と言う訳で、屋敷の中を散歩しようと思うんですよ」
「何がと言う訳でしょうか?」
メイドさんが聞き返してきます。ちなみに昨日とは別のメイドさんです。今日のメイドさんは、赤毛で短髪です。目つきはキリッとしてこれも赤い瞳をしております。胸元はなだらかな曲線。所謂良い曲線です。美の女神が作り出した究極の曲線とまではいきませんがかなり良い線いっているとは思んですよね。
「どう思いますか」
「いきなりどう思いますかと言われても」
うわずった声でメイドさんが言ってきます。キリッとした目が更にキリッとしています。少し怖いぐらいの表情をします。
どうも説明が足りてなかった様です。反省することにします……反省しました。
「屋敷の中を散歩したいので案内お願いできませんか?」
「それは良いけど、何処を見たいんだ。屋敷は広くてさぁ。あたいも覚え切れてないのよ。取りあえず庭の方に行きます?」
「お庭があるのですか」
「ああ、庭は広いからちゃんとついて来いよ。はぐれると迷子になるからよ」
今日は言い回しがフランクなメイドさんの様です。少し表現が砕けてすぎているので中々意味が捕らえにくいのです。所詮書籍から得た知識ですから標準的なエルフ語が外れるほど意味がわからなくなります。
屋敷の裏口から外に抜けるとお庭があるそうです。外にでると目の前には
アーチをくぐると目の前に再び垣根があります。その左右に垣根囲まれた通路が広がっています。
「ここ迷路になっているからいつも迷うんだよなぁ」
垣根上を走れば良い気もしますが、どうやらそう言う話ではないようです。
メイドさんの話によればお庭は迷路になっており中央に広い花壇があるそうです。
「なんでこのような複雑なお庭になっているのでしょうか?」
「それはこっちが聞きたいところだ」
まぁそうでしょうね……。
右に曲がって左に曲がってを繰り返し垣根の間を進んでいくと中央に広がる花壇に出て行きます。
「さぁ、ついたぞ」
赤髪のメイドさんがドヤ顔で言っております。今日は迷っておりませんでしたが何時もは迷っているのではないかと思います。
花壇の中央には大きな噴水があり水しぶきを上げています。そこから十字目の小径が広がっておりその上には砂が引かれています。十字は庭を四つにくぎり、四つの区画にいろんな種類の花々が咲き乱れています。どうやら時期的に外れている花も咲いている様です。
目と耳を研ぎ澄ませて周囲を確認していきます。どうやら垣根が結界になっており花壇の温度調整を行っているようです。かなり手間がかかっています。
噴水部分はどうやら花時計になっていて、開花時間の異なる花を植えることによって時間を知らせる仕組みになっていました。
ちなみに植えてある花の性質は、周囲にいる花の精霊の動きを見ていればだいたい分かるものなのです。ちなみに花の精霊は概ね微弱な力しか持たないので精霊として使役するのは難しく、花の情報を集めるぐらいの事しかできません。しかし、この花壇は、砦の他の場所より精霊に満ちあふれているようです。
暇潰しにひたすら花を愛でることにしました。花を観察していくと初めて見る花も結構あるのですが、花を勝手に持っていくのは駄目みたいですし、仮に持っていっても保管が出来ませんのでメモにスケッチしていくことにします。スケッチを終えたら,その辺に置いてあるベンチで日なたぼっこしながら花精の踊りでも見ているのも良いでしょう。
「それでは、私しばらくここに居ることします」
「分かった。他の用事があるから時間になったら呼びに来るからな」
メイドさんは、ぶっきらぼうに告げるとその場を立ち去りました。遠目でメイドさんを見えているとお花の世話をしているようです。口調と違って繊細にお花の世話をしていました。お花ではなくメイドさんの観察でもしていましょうかと思いましたが、初志貫徹で花のスケッチをする事にしました。後で心のメモ帳の整理もしないと行けません。
しばらく腕と頭を回転させていましたが日差しが心地よく眠気がやってきます。この庭園の中は寒さと無縁ですから陽気でぽかぽかしてくるわけです。ちょうど櫂を漕いでいていると急に呼びかける声がしました。
「あ、はい何でしょうか……寝てません、寝てません」
思わず口走ってしまいます。
「賢者様、お時間よろしいでしょうか?」
そこの居たのは王女様です今日は軽装です。ただ、その薄いシルクの白いワンピースは少し目の保養……目の毒の気がします。薄らと身体のラインが見えていますよ。微妙な曲線がなまめかしすぎます。庭園の中は温かいのでこの服装でも問題ないのでしょうが……こちらに取っては目の保養……目の毒です。
「王女様は、お庭でひなたぼっこでしょか」
「いえいえ執務で窓を覗いたところ庭園で賢者様が花壇を見ながら考えてこんでいらしているのをみまして少しお話させてただく参りました」
そういえばここの庭園から屋敷がよく見えます。その逆も言える事なのでしょう。その中でも一際大きい窓がある部屋が王女の居た執務室なのでしょう。別に考え込んでいたわけではなくうたた寝しいただけなんですけど。
「昨日の話の件でお尋ねしたい事があるのです」
「昨日の話とは精霊魔法の件でしょうか?」
「ええ、精霊魔法の鍛錬の件なのですが困ったことがありまして……」
「それは何でしょうか?」
「実は、小さい精霊を上手く呼び出せないのです。それで訓練メニューを何度か試したのですが何度繰り返しても中級以上の精霊しか呼び出せず、それを制御するのがやっとで終わってしまいます。何かコツがあれば教えていただけないでしょうか」
「小さい精霊はこの辺にもいます。その精霊の一つに念じて制御をおこなうのです。ちょうどここはいろいろな花が咲いている事もあって花の精霊が沢山飛んでいますよね」
「いえ、何も見えません……」
先程からふわふわ漂っていますよ。気がつかないはずがないとは思います。もしかして森エルフは精霊を感じ取れないとかそう言うことなのでしょうか……まさかと思いますがいくつか質問を投げかけてみました。
「……」
話を聞いていると確かにどうやら精霊を感じ取れていないようです。しかし、感覚を研ぎ澄ませれば分かる気がします。
「それでは精霊を感じる取る力をまず高めることにします。弱い精霊ならこの辺りにも居りますので、まずそれを感じ取れる様になりましょう。精霊を制御する力を身につけるはその後で……と言う方向でメニューを作り直すことにします。その前にいくつか試してみたいことがあるのですが、よろしいですか」
「はい……」
顔をあからめて王女はこちらを見ます……。何か変な勘違いをしている様な気もしますが恐らく気の所為でしょう。
「まず最初に精霊を感じ取れる様に感覚を研ぎ澄ませないといけないのですが、いっそのこと一度感覚共有させてしまおうと思うのです。一度精霊の気配がどのような感覚か一度体験したほうが説明するより早いと思うのです」
「それは賢者様と一心同体になると言うことでしょうか?」
王女がますます顔をあからめます……。これは絶対変な勘違いをしていると思います。そう言うのはありませんのでしっかり説明しないといけないようです。
「感覚共有は精霊を介して精霊の感覚を共有させるだけです。そもそも精霊と言うものは目で見たり耳で聞いたりするものではなく感じ取るものです。身体の中に精霊を感じ取れる神経があります。精霊感覚器と言いますが、そいつを刺激してやれば精霊を感じ取れる様になるのではないかと思います」
「精霊感覚器と言う名前は初めて聞きました。私のそれを賢者様が刺激なさるのですね」
今適当につけた名前なので聞いた事も無いのは当たり前です。単なる方便です。ただ精霊は見るものではなく感じとるのは事実です。
「それでは行きます。目と耳を閉じてください」
「賢者様、耳は閉じられないのですけど……」
それはそうなのですがまずは外界の情報を断つのが重要なのです。視覚と聴覚が身体に取り込む情報の大半を占めるので精霊になじんでいないものはそれに惑わされる為に精霊が感じ取れないと考えたのです。そのため最初に外界の情報を断ち、感覚だけを感じ取れば精霊が見えるのではないかと考えたわけです。あくまで仮説に過ぎませんので上手くいくかはやってみないと分からないところです。手順をどのように説明しましょうか少し逡巡します。
「まず意識を内側に向けてください……。そう……そのように私の声以外に注意を向けないでください。意識を内側に閉じ込めおえたら今度は外側に向けてください……。その意識で一面に広がる花壇の情景をよく観察してください……」
「賢者様、これで良いのでしょうか?」
そう言われても王女様の頭の中はよく分かりません……さっさと進めてしまうことにします。
「それでは感覚共有を行います……」
王女の頭を触れると無属性の精霊を流し込みます。精霊さんがするりと入っていくのを確認します。この精霊を介して私が今感じている精霊の情報を受け渡してみます。精霊との感覚
「賢者様、な、何か見えてきました……確かに花壇の周りを何やらいろいろな形のモノがたゆたっている気がします」
目をつぶったまま王女が言っております。どうやら上手くいった感じが気がします。しかしどういうふうに感じているかは少し気になることです。王女様の頭の中を覗いてみたいところですが、それは難しいので——出来ないわけではないです——想像するだけでにしておきます。あまり長い時間感覚共有を行うと危険だと思いますのでこのあたりで終わりにします。感覚接続を切断すると王女の身体の中から精霊が出ていきます。
精霊さんありがとうね。
「はい、これで終わりです。それで、どうでしたでしたか?」
「何か奇妙な感じがいたしましたわ。それで、なんとなく精霊みたいなものが感じ取れた気がします」
王女が高いテンションでまくしたててきます。気の所為だと不味いので、精霊を感じ取れているかを後日試験することにしました。
「今教えたのは『精霊とはどのように感じ取れるか』だけなので、繰り返し精霊感覚器を鍛えてくださいね。後日試験を行います」
ここは念を押して起きます。
「賢者様、それまでは、ここにいらっしゃると言う事ですね」
否定する間もなく王女はニコリと笑いました。どうやら都に行くのはもう少し先になりそうです……。
「フィーニア様、そろそろお昼の時間ですよ……」
さっきの赤髪メイドさんがやってきます。
「もうそんな時間になってしまいましたか。それでは別件がありますので私めはここで退出いたします。賢者様はごゆるりと昼食でもお召しあがりください。……後は任せましたよ」
そう言うと王女は庭園から出ていきました。
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