エルフの王国4 市場の巻

 次の朝です。今日は市場を歩いてみたいと思います。

 現在、エルフの王国の東境の砦にいまして、今朝は秋空が綺麗ですが少し寒いです。油断すると風邪を引くかもしれませんが五百年ぐらい風邪を引いたことはないので恐らく大丈夫でしょう。

 朝食です。メイドさんが運んできたものを適当につまんでおきます。朝食は食堂でも食べられるらしく、そちらの方がイロイロ選べるそうなのでそちらにも行ってみたいところです……食堂は私達の様な下僕が行く場所で賢者様が来るようなところではありません……と行っていましたが、どうせならイロイロな食べもを食べて見たいと言うのが心情と言うものです。

 今食べているのは溶いた卵を焼いて固めたものでスクランブルエッグと言うもので、横に保存用の詰め肉が添えてあります。何の肉を何で包んだのかは分かりませんが、食べられそうなものではあります。この詰め肉を口の中に頬張ると、何種類かの香草の香りが立ち込めます。どうやら肉の臭みを香草の組み合わせでで消しています。しかし少し塩分が多い気します。

 詰め肉を頬張ると口の中に塩辛さが充満しているのでミルクを飲み干して中和します。

 その横には黒い焼いた食べ物。パンと呼ぶものが置いてあります。これは少しずつちぎって食べるものらしいです。パンを少しちぎって口に頬張ると塩辛さが少し緩和された気がします。

 それよりこの添えた詰め肉は卵と一緒に食べるものの様で、卵と一緒に食べ合わせると塩加減も良い感じで口の中で卵がフワフワして塩加減も丁度良い感じで、後から来る香草のほのかな香りも楽しむ事が出来ます。

 そんな感じで朝食を食べきって仕舞いました。

「ごちそうさまです」

 朝食を食べ終わるとまだ寝間着のままでしたので外着に着替える事にしました。

 賢者と思われない格好が良いのでしょうが、現在手元にあるのは狩人風の貫頭着チュニック一着だけなので。賢者には見られませんが耳は隠した方が良いですよね……耳はフードをかぶれば隠せそうですが賢者かあやしい人に間違えられそうなのが難点です。やはり幻術を使うしかなさそうな気がします。

 寝間着を脱いで畳むと貫頭着に着替えると寝間着を畳みながら肌の艶を確かめていきます。どうしても朝は胸の張りとか気になるものです。確かめると万事大丈夫の様です。「今日は調子が良さそうです……」それから髪の毛を束ねていきます。

 しかし、ここの鏡はなんだか見にくいのですね。素材が違うのでしょうか……なにやら曇った感じがしますよ?姿見に使う分にはあまり困りませんけど……。


 先程の続きですが、服が一着では着回しできないので服も手に入れた方が良い感じです。洗濯不要の服を用意してこなかったのは痛恨の失敗です。それより王国の中で狩人風の服が逆に目立ちそうな気がします。なので『人混みに紛れ込める目立たない服』と買い物リストに書き出しておきます。それから釣り具も欲しいですし、胡椒も手に入れたいです。いろいろ思いついたことメモしていったら買い出しリストがとても長くなってしまいました。必要無いモノは消しておく必要がありそうです。

 あまり沢山買い込むと荷物を持ち運ぶのが大変そうなので荷物を運ぶ手段も一緒に考えないと行けないところです。街道には舗装された道があるようなので荷車でも手に入れればどうにかなるのではなるのではないかと思い適当な見通しを立てておき、荷車を買い物リストに書き足しておきます。

 外套マントを羽織り金貨の入った巾着持つと出かけることにします。


「賢者様、おはようございます」

 扉を開けて外に出ようとすると、こちらに誰かが声を掛けてきます。目の前には明るい緑ライトグリーンの長い髪をポニーテールに束ねて、蒼い瞳を輝かせている背丈がやや低めなメイドさんが立っております。黒いワンピースに白いエプロンをつけており、エプロンをひらひらさせています。頭の上にはひらひらしている頭巾を付けております。

 もしかして、ずっと部屋の前で待っていたのでしょうか……ご苦労様です。

 しかしこのメイド、胸の双丘が無駄な曲線を描いております。これは角度が急すぎるので減点です。顔に対して身体の自己主張が強する点も問題です。

「おはようございます」

 メイドさんに向かって挨拶を返します。

「本日は、王女妃殿下のご命令で、一日お付きをさせていただきます。賢者様、ふつつか者ですがよろしくお願いいたします」

「もっと気軽にしてくださいね。それでは、よろしく」

 あまり堅苦しいのは窮屈なのでフランクに接してくれると楽なのですが……。

「……とは申されましても……賢者様に対してはこのような言葉遣いしか分かりませんので……」

 どうやら諦めるしか仕方ない様です。

「今から商店に出かけますので案内お願いしますね」

「それでは、今から市場の方に向かいますので、こちらの方へどうぞよろしくお願い致します」

 メイドさんに案内されて屋敷の前に止めてある馬車の乗り込みます。見た目豪華な馬車ですよ。話によれば、屋敷から市場までは、そんなに距離はないのですが客人をわざわざ歩かせるのは失礼にあたると言う話をしております。この距離なら飛んだ方が早いのですが……ここは、地元の風習に合わせることにいたします。

 馬車にのって、すぐに市場についてしまいました。

 やはり飛んだ方が良かった気がします。

 市場は朝でも人が割といます。人ごみをかき分けながら市場の中を進んでいきます。しかし……人が多いです。

 まず買い物リストの商品が売っているお店とやらに案内していただかないと買い物が出来ないのでしばらく辛抱です。

 メイドさんを連れているとなんだか目立つ気がします。いえ、すごく目立つ気がします。はっきり目立っています。道案内がいないとこちらも困りますから仕方ないでしょうか……。

 少しあるくと雑貨屋さんがありました。市場の中にはいろいろな店があります。そこかしこに絵看板がぶらさがっており、その辺の地べたでゴザを引いて商品を広げていたり、あばら屋に商品がならべてあったりします。そこには見た事も無い面白そうなものが並べてあり、イロイロ目移りするのですがメイドさんはそれらに見向きもしないので心惜しいですがそこは通り過ぎます。

 メイドさんが最初に案内してくれたのは大きい屋敷でした。

「ここに王室御用達の商人がおります」

 お店と言うより屋敷ですよね………絵看板も出ておりません。少し不安になってきました。

 メイドさんが言うから恐らく大丈夫だと思い直し、屋敷に入らせていただくことにします。

「おじゃまします……」

 ところで屋敷の中に入ると……何と言うことか商品がなにもおいていないのです。

 部屋の中を見回すと中にあるのはテーブルと椅子だけで、奥の方に人影が見えます。あれがこの店の主人でしょうか。

「……メイドさん?ここはどういうお店なのでしょうか?」

「王女妃殿下御用達の商店でございます」

「それで品物はどこにあるのでしょうか?」

「あの品物とはなんでございましょうか?」

「ほら、売りたいモノは並べるものはないのですか?」

 流石に私も知ってますよ。商店には売りたいものを置くものです。ところがここにはそのようなものが何も見当たりません。

「店主に欲しいものを告げるだけです。頼んだ品物をはから屋敷の方に運んでくれます」とメイドさんはさぞ当然の様に答えます。

「もう少し初心者向けの店はないのでしょうか……」

「王女妃殿下の買い物は、ここで行っておりますので、賢者様もそれに合わせたのですが何か問題がございましたでしょうか?」

 多いに問題あると思います。そんなことはどの本にも書いてありませんでした。

 その何ですか、……しかして『よきにはからえ』と言うだけで必要なモノを全部揃えてくれる都合の良い商店でしょうか……ここには妖精さんでも住んでるのでしょうか……そういえば、人間の言葉で書いてある本にはエルフを妖精とか書いる本もありましたね。妖精さんが住んでるのは間違いないのですか……いうや、そう言う問題ではなかったですよね。仕方ないので店主に聞くことにします。

「頼もう!」

「いらっしゃいませ。何の御用でございますか?あ、これは、お付きの……いつもご利用ありがとうございます。ところで今日はなんの御用でしょうか?」

 エルフの商人が手もみをしながら出てきました。しかし、なぜか私は無視されている気がします。

「こちらの賢者様が所望の品を用立てて欲しいのです」

 いや賢者じゃありませんから、この最初からハードルを上げていくスタイルはなんとかならないのでしょうか……。

「けん……じゃ……様でございますか?」

 早速、相手が固まってるいるようです……頭抱えてうずくまりたいところです。

「ええ、こちらは、ハイ・エルフの森から現れた伝説の賢者様でございます。王国の預言書にも書かれているあの賢者様です。王女様からも『良きにはかえ』と申しつかっております」

 メイドさんが更にハードル上げて行きます。もしかして天然メイドさんでしょうか……。

「こ、これは、大変失礼申し上げました。それで、賢者様は何を御所望でしょうか?」

 流れがよく分からなくなってきましたが、手順通りにやらないと行けません。まず巾着の中からコインを一枚とりだして何が買えるのか伺いましょう。

「それでは、この金貨一枚で買えるものを……」

 巾着の中から適当な金貨を一枚取り出してテーブルの上に置きます。たぶん金貨一枚あれば大丈夫な気がします。貨幣は一般的には銅貨、銀貨、金貨と言う種類があり、その中で金貨が一番高く、一枚あれば家族が一ヶ月なんとか暮らせる金額だそうです。全部本の受け売りですけど。それにコインはまだありますので足りなければ更に追加すれば良いだけの話です。

「こ、これは……」

 突然、商人さんの声がうわずります……。

「す、すこしお待ちを……」

 商人さんは一度奥に引っ込んだようです。

「何か不味いことでも言いましたか?」

 メイドさんに聞いて見ます。

「いえ、別に問題無いと思いますよ。しかし、賢者様の大胆ですね。いきなり大名買いですか」

「あの、その大名買いとは?」

「ここにあるもの全部よこせとか言うやつが大名買いでございます」

「えっとそんなことは一度も言ってませんが……」

「では、その金貨は?」

「これは隣の家がコイン蒐集家で、そこから貰ってきた要らないコインでして……」

 ところでこの天然さんは一体何を聞いているんでしょうか……と思ったところでドタバタとしながら商人が戻ってきます。手に手袋をはめてて、天秤、ルーペ、本などをイロイロ抱えてきています。何かの鑑定キットみたいな感じのようです。それを使ってコインを注意深く見ております。天秤に載せて重さを量ってみたり、模様を細かく本と比較したり……。

 その姿が面白そうなのでしばらくその様子を眺めてましたけど、一体これをどれぐらい続けるんでしょうか……

「賢者様、大変申し訳ありません。この金貨はうちでは扱うことが出来ません……」

 長々としらべたあげく……もしかしてこの金貨使えないのですか……。

「このコイン……もしかして偽金貨なのでしょうか……でしたら別のモノを……」

「実は……金貨は森エルフの初代国王が即位記念に鋳造した記念金貨でございまして……その数は百を超えないと言われています。当時でも大金貨十枚相当の価値がありましたが……それから千年以上が経っておりますので……この金貨の所在は、既に……ほとんどが不明と言われておりまして.」

 大金貨ってどれぐらいの価値があるのでしょうぁ……大がつく分、金貨よりは価値がありそうですが……。

 商人さんは、汗を拭いながら話を続けます。

「それで、この金貨はその由緒と希少性からその価値は村一つは楽に買えるぐらいと言われておりまして……。もしホンモノであれば、私も喉から手が出るほど欲しいのですが……」

「欲しいのですが?」

「恥ずかしながら結論を申しあげますとこの店にあるもの全て差し出してもこの金貨を買い取り出来ないのです。つまりうちでは扱えない訳です」

「つまり店が買い取れてしまうと?」

「いえ、店より高額だと言う事です」

「要するに使えない訳ですね」

 これはとんだ計算違いですよ。まだまだ巾着の中に金貨はあるのですが次は国が買えてしまいそうな勢いなので一旦封印する事にします。隣の人に価値も聞いてくるべきでしたか。そもそも里の価値観を外界に持ち込んではいけないのですね。反省点を心の中にメモしておきます。

「そういうなります。首都の方に行けば買い取ってくれる方は居ると思いますが、私のところでは無理でございます。それにホンモノかどうかは更に詳しい調査が必要になりまして……少なくとも最低一ヶ月はかかるかも知れません……」

 ホンモノかどうかは割とどうでも良い話で、一ヶ月も足止め食らう方が面倒な気がします。それよりこの巾着に入れてきた金貨は全部使えなさそうな感じです。金貨のつまった巾着が単なる重い荷物に変わった瞬間でした。すごくがっかりです。

「……と言う事ですが、メイドさんどうしましょう……」

 ここはメイドさんに助けを求めてみます。巾着に入ってるコインが使えないのでは楽しみにしてたお買い物ができないのです。

「それは問題ございません。賢者様に手助けになるものでございましたら費用を惜しまぬよう申しつけられておりますゆえ」

「ゆえ?」

「代金は、全て当方でお持ちするつもりでした。しかし、流石は賢者様です。大名買いが出来るほどのお金をお持ちとまでは思いませんでした。しかし、換金できないとなれば仕方が無いことです。やはりこちらで代金は全て持ちいたしますので安心してください」

 メイドさんがこちらに微笑みます。半分バカにされている気もしますがたぶん被害妄想ですよね。

 『使えるお金を調達』と言うのも買い物リストに追加しておく事にしましょう。

 しかし、まだ問題は解決しておりません。買い物リストにあるものがこの店に全部あるとは限りません。

 なので商人に買い物リストを見せます。

「あのーここに書いてあるものが欲しいのですが、いかほどでしょうか?」

「目を丸くして見ています……しかしこれはかなり上質な紙ですね……どこで手に入れたのでしょうか……しかも呪文がきざんであります」

 いえ、紙の話はしていません……紙に書かれたリストを読んで欲しいのですが……

「あの読めないのでしょうか……。それでは読み上げていきますが。まず釣りの道具、それから……」

「ところでこれは一体何と書かれているのでしょうか……もしかして賢者様しか知り得ない古代の言葉なのですしょうか?」

 商人が慌てて言います。そういえば里の言葉で書いておりました。森エルフの文字で書かないとここの人達はどうやら分からない様です……。森エルフの文字は理解しておりますが間違えて出しただけです。発音の方はあやしくても読み書きぐらいは出来ます。

「では、書き直しますので」

「それでは紙と筆と用意致しますので、そちらにどうぞおかけください」

 ふかふかの椅子に案内されます。それから分厚いテーブルの上でリストを書き写していきます。大変書きにくい紙と筆です。慎重に書き写さないと行けないようです。

 しばらくすると店の中から誰かがお茶と茶菓子を持ってきたようです。丁度喉が渇いていたのでぐいっと……これ、あっついですね。少し冷ましながらしながら飲んで行くことことにします。

「こんな感じのものが欲しいのですが……」

 我ながら達筆ですね。森エルフの文字で書き直した買い物リストを渡します

「それでは在庫を確認して参りますので少々お待ちください」

 商人は、店の奥に行くと呼び鈴を鳴らして人を呼んだ様です。ここからでもしっかり聞こえます。どうやら気配を追ってみると店の裏に大きな倉庫な様なものがあり、そこに商品が置いてある感じです。

 しばらく暇なので、メイドさん相手に茶飲み話でもしましょう。「そこのメイドさん、あなたも座ってください」

「いや私はここで立って待っております。失礼に当たりますので」

「これは『茶飲み話に付き合ってください』と言うお申し付けです」

「命令なら仕方ありません。王女妃殿下にも賢者様の言いつけは何でも聞くように、そう申しつけられております」

 なるほど分かりました『お申し付け』をつければこのメイドさんは取りあえず話聞いてくれそうです。後で、道ばたのお店巡りにこの手で付き合わせることにしましょう。それでは茶菓子を食べることにします。

 ふむ不思議な味の焼き菓子ですね。それも甘いヤツです。恐らく甘いのは砂糖ですね。砂糖って草から作るのは知っています。硬い草を絞って作るものです。硬いだけでは高い草なのです。身長の二〜三倍の高さがあるのです。なので摘むのではなく刈るのです。この砂糖が取れる草は、里にも群生地があるのです。この砂糖草の群生地の周りは火霊が他より沢山飛んでおり里の中でも少し温かく、ひなたぼっこにはもってこいの場所です。

 塩と違って砂糖は草から作れるのが便利です。使ってもまた生えてきますから。塩ぼは生えてきません。倉庫に山積みになっているので困りはしないんですがあの塩を持ち込んだのは一体だれなのでしょうか……。塩は海の水を漉すと得られるという話ですが……海というのは空の彼方まで一面に水が広がってる場所です。実は海って見た事無いんです。周りは森だけですから海には一度行ってみたいところです。

「ところで賢者様。一つよろしいでしょうか?」

「どうしましたか?」

「私、賢者様にお話しできるような話題を一つも持っていないのですが……読み書きもあまり得意ではありませんし、歴史も詳しくありません」

「そういうのは気楽にいけばいいのです。例えば昨日は何をそしておりましたか?」

「昨日は、屋敷の掃除をしておりました」

「その掃除はどのようにおこないましたか……」

「どのようにと言われましても……まずほうきで部屋の中を掃きまして……」

「ふむふむ。もうすこし細かく説明してください。部屋に箒ですね……あの空を飛ぶ箒ですよね?」

「いいえ、箒で空は飛べません。掃除に使うものです」

 魔女は空を飛ぶのに箒を使うと言う話なのですが……この辺は魔女は箒では空を飛ばないんでしょうか?それとも魔女がいないのでしょうか……その辺も交えてあとで聞いてみましょう。ここでは掃除も人力で行うようです。この辺りは精霊さんが少ないですから恐らく精霊さんを呼びだす術を知らないのでしょうか……。機会があれば精霊を使えるエルフを探すことにしましょう。

 そんな感じで話を続けていった訳ですが商人が戻ってきたので話はそこで打ち切りになりました。沢山話してくれましたが掃除の話はまだ聞き足りないぐらいです。

 隣でメイドさんが安堵した顔してますよ。後でまた聞きますから覚悟しておきなさい。

「それで、私ども商店にある在庫はこのようになっておりまして……」

 商人が私にリストを見せていきます。

「釣り道具はないのですね」

「ええ、在庫にはありません。数日お待ちいただければ最高級の釣り竿をご用意させていだだけます……竜の牙を使った奴とかどうでしょうか……」

「いえいえ、最高級でなくても良いで、これは他所で探します」

 商店に無かったモノをチェックしていきます。まだ結構な数があります。

 それから荷車はあるそうです。見繕って運んでくれると言う話で、これで都まで荷物が運べそうです。これだけの荷物を背嚢に入れて運ぶのは流石に無理ですから。

「それでは、いつものように屋敷の方に運搬お願い致します」

 メイドさんが、商人に言います。

「ええ、分かりました。請求はいつも通りでよろしいでしょうか?」

「そのようにお願いいたします。それから銀貨を少々お貸してしていただけますか?」

「銀貨でしょうか?ただ今ご用意致しますのでしばらくお待ちください」

「賢者様は庶民の使える小銭が必要らしいのでこちらで用意させていただきたいのですが、ただいま持ち合わせがありませんのでお借りすることにいたしました」

 これは大変恐縮です。そこであがめ奉ることにいたします。『ああ、メイドさん』これで心置きなくお買い物ができます。里に帰ったらメイドさんの神殿を作らないと行けません。あのひきこもり達の神殿は要りません。

「しかし、その銀貨は返さないと行けないのですよね」

 ところで銀貨はどのように手に入れるのでしょうか……お手伝いをすると手に入るのでしょうか……。

「それには及びません。相応の対価は既に受け取っていると王女妃殿下は申されております」

 私、何かしました。何分、思い当たるフシが無いのですが……ここは素直に受け取ることにします。

 それではお買い物に行くことにいたします。

「今から市場を物色しにいきますよ」

 『ここは俺についてこい』と言う仕草をします。

「あのような場所は、賢者様が行くような場所ではありません」

 メイドさんは、やっぱり断ってきましたよ。ここでとっておきの言葉を突きつけてあげましょう。

「賢者たる者、下々の事柄まで全て見なければならないのです。そこでどのような真実がが隠れて居るか分からないのです。あの金貨も隣の家に転がっていた物です。つまり大切なものがどこにあるかは誰にも決められないのです。そう言う決めつけはよくありません。良いですね。決めつけで見逃しているところにこそ真理と言うものはあるのです。そしてこれはでもあります」

 少し賢者ぶって長口上してみました。

とあらば仕方ありません。火の中、水の中でも申しつけられれば、どこでもついて参る所存です」

 流石に火の中、水の中には連れて行きません。私も熱いですし、息もできませんから。それにわざわざ行くような場所でも無いです。

 しかし、恐らくしか聞いてませんね……この天然さん。

「それでは、街へ繰り出しましょう!」

 メイドさんを引き連れて、市場に繰り出すことにします。私、少しテンションが上がっています。

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