エルフの王国5 お買い物の巻
人ゴミ溢れる市場の中にメイドさんを引き連れて繰り出します。その中を意気揚々に歩きます。なにかしら注目集めている気がしますが……。気にしていたからそこで負けなので諦めることにします。まずは釣り道具を探すことにいたします。
市場の中にはイロイロな看板が並んでおります。そこには文字ではなく絵がかかれております。絵看板にパンの絵が描いてある店がありました。中を覗いてみたらパン屋さんでした。大きな木靴が掲げてある店がありまして、そこは靴屋さんでした。こういう絵看板を見ているだけでも楽しいものですが、なかなか釣具屋さんが見つかりません。恐らく看板には釣り竿や釣り針が描かれているるとは思うのですが、中々見つかりませんでした。
しばらく市場の中をウロウロして居るとようやく『釣り竿』が描いてある看板を見つけることができました。やはり釣具屋さんの様です。それでは、お店に入らせていただくことにします。
「頼もう」
一言叫んで店の中に入ります。
「何の御用ですか」
ぶっきらぼうにエルフの青年が答えてきます。
「釣具を所望する」
「ただ釣具と申されましてもイロイロありますので……どのような釣具が欲しいのですか?」
「白黒つけるのですか……」
どうやら少しコミュニケーションに齟齬が出ているようです。ぶっきらぼうにしゃべられると意味が少し分からないのです。私の言語の知識は本で得たモノですし、そもそも発音も少し違っている訳です。話を聞きながら少しずつ発音はなおしておりますが、ぶっきらぼうな話し方は本には書いなかったので意味が少し分からないのです。何事も学びが重要です。そもそも、そのために外の世界に出かけたわけですから何事かを学び取らない取る事が重要です。それではもう一度コミュニケーションを努力してみることにします。
「メイドさん、補足の説明お願いします」
やはりこういうときは人に頼るべきです。我ながら会心の一撃だと思います。
「賢者様、これ流石に無茶振り過ぎではないでしょうか?」
「欲しいのは釣りに必要な最低限な道具だけです。釣り竿と釣り針と釣り糸です。持ち運びやすくて軽いのがあればそれが一番です」
「賢者様、ご自分で言えてますから私が説明する必要は無いと思うのですがいかがでしょうか」
ちょっとした悪ふざけした。海より深く反省しており。
「それじゃあ、この辺のヤツが手頃じゃないかなぁ」
店員は壁に立てかけてある釣具を指さします
「……これでいいですね」
手に取って釣り竿の強度やしなりを調べて見ました。軽さと持ちやすさは十分です。強度や取り回しは後から魔法で補強すれば十分使えそうな感じです。
「じゃあ、お値段これぐらいになるけど」
指を2本立てる。
「ふむふむそれで幾らですか……」
「ん、ああ、銀貨2枚ね」
なんか怪訝な感じで答えてきたようですが、銀貨2枚ですよね。それでは巾着の中から銀貨を2枚取り出して店主に渡すことにします。
「まいどあり。じゃあこれ包んどく?」
「いえ、そのまま持っていきます」
最初のお買い物はこんな感じで無事終わりました。
それでは次のお見せに参りましょう……。しかし、既にお昼の時間になってしまいました。お腹も減ってきたので続きはお昼を食べてからにしようと思います。
道ばたで何か食べ物が売っているようです。食べながら歩く食べ物でしょう。周りを見ると食べ歩きしている人達がちらほら見られます。
「今日は出店がでおります」
メイドさんがぽつりと言います。ところで出店とは何でしょうか?
「ところで出店と言うのは何でしょうか?」
思った事がそのまま口に出てました。
「出店は、出店の事です。もしかして賢者様は下々のことはあまりご存じ無いのでしょうか……出店はお祭りごとがある時に臨時で出る屋台やお店の事です」
そういえば昨日お祭りなどと言っていましたね。昨日食べた焼いた鳥肉は非常に美味しうございました。ああいうものはあるのでしょうかねぇ。
「所詮は庶民の食べ物ですからそれほど大した物はないと思います」
「庶民の食べ物を研究しないで賢者と言えますか。ここはチャレンジしですよよろしいですね」
そこで出店の食べ歩きをする事に決めました。まず、そこにあるのは蜜柑。オレンジではなく蜜柑。黄色く手のひらに載るぐらいの蜜柑です。手で皮が剝けるので気楽に食べられる便利な食べ物です。それを串にさして焼いている出店があります。それでは、まずこれを一ついただくことにします。
そこで出店の店員に声を掛けます。
「この蜜柑一ついただけませんか?」
「1個、銅貨1枚だよ」
調子良く返事を返してきます。
「ところで銅貨1枚とは銀貨では何枚なのでしょう」
お金の単位がよく分からないのでここはメイドさんに聞いて見ます。
「銀貨1枚は銅貨は20枚になります。金貨は当然のこと銀貨も庶民はあまり使わないので銅貨に両替しておかれた方がよろしいかと思います」
仕方ないので銀貨を何枚か銅貨に変えておきましょう。ここはしばらく我慢することにします。運良く近くのお店で両替してもらえました。これは幸先良いスタートです。それでは焼いた蜜柑を1つ買ってみます。
「んん、甘いです」
これは、なかなかいけるようです。なので追加で3つも買ってしまいました。もう一個食べてみます。
「んん、やはり旨いです。蜜柑の甘味と酸味のハーモニーが焼いたことによって口の中に広がります」
それでは残りはメイドさんにさし上げましょう。
「さぁ、蜜柑をお食べ」
「いえ、賢者様。私めは、まだ仕事中ですのでご遠慮しておきます」
「いえいえ、ここはぐっと食べてしまいましょう」
右手の親指をぐいっと上げてキラキラした目でじっとみつめてみます。メイドさんは、蜜柑を手のひらに握ったまま、しばらくどうしようかしばらく迷っていたようですが、堪忍したように蜜柑の皮をむいて食べ始めます。
メイドさんが少しずつ蜜柑を囓っているのをじっと眺めて居ます。なにやら食べにくそうな顔しているようです。スルッと口の中に入る物をなぜ時間を掛けて食べているのでしょうか……何か理由があるのでしょうか……
「どうですか美味しいですよね」
「あ、はい……美味しいです」
どうやらメイドさんも満足してくれたようです。それでは次の店に行って見ましょう。
道に並んでいる屋台を次々と物色していきます。次に目に入ったのは焼いた林檎です。焼いた蜜柑を食べたばかりなので若干かぶっている気もするので今回はパスすることにいたします。そうして歩いていると何か良い匂いがしてきました。羊肉を焼いた匂いが立ち込めています。ハーブとお肉の香りが融合して胃の腑にじんわり響いてきます。
しかし先に甘いものを食べているので次に肉って言うのはがなんか順番が違うと思うのですが、蜜柑は木になるもので草の仲間と考えれば問題ないです。草を食べてから肉を食べるのは順番としては正しいと思います。なのでは次はこのお肉を買うことにいたします。羊肉の出店は細かくぶつ切りにして串刺しにした羊肉を直火で焼いていました。芳ばしい匂いが漂ってきてお腹の虫がくうくう鳴ってきます。
ここを1ついただきましょう。値段を尋ねると肉串一本銅貨五枚だそうです。とりあえず2本買うことにします。
「それでは、いただきます」
口の中に入れてかみしめると肉汁が口の中に溢れていきます。そのうち羊の臭みと香草の香りが口の中でハーモニーを奏ででいきます。それから口から鼻腔に向かって香りがスッとしみこんでいきます。
「んー、最高です」
これぞお肉と言う感じですよ。やはり肉を食うならこういうものでなければ行けません。肉を食ったって感じが後からがっつり来ないとダメだと思います。上品で美味しいお肉も美味しいですけど、これぞお肉って感じの肉を食べるとお腹が充足感を感じる訳です。
「それではメイドさんも一本どうぞ」
先程と同じようにメイドさんが食べるのをじっと観察しております。当然、賢者と呼ばれるからには知らない事を知ろうとするのは当然の行為であります。それゆえメイドさんが食べる姿を観察するのも賢者としての務めなのです。
「良いモノ見させていただきました。ごちそうさまです」
メイドさんが恥ずかしそうに肉を少しずつ食べていくのが良かったです。まだ顔をあからめているようです。なんか初々しさを感じます。もう一回その様子を観察したいところですが、お腹はお肉はもう満足と言っておりますので、次の食べものを物色することにします。
しかし、想像するだけでよだれが止まりません。
そういえばまだ草を食べてませんでした。しかし、草はここには並んでいなさそうです。お祭りだからでしょうですか代わりに肉がやたらと多い気がします。
肉の出店をかき分けていくとその中で串刺しにされた魚が大きく口を開けて焼かれているのが見えてきました。
だいたい手のひらぐらいの大きさの川魚みたい様です。見た目からしてアユの仲間でしょうか?
「これはどういった魚でしょうか?」
店長に話を聞いてみます。
「ああ、近くの川で釣れた虹アユだよ。この辺りでしとれないアユの一種だな。そいつを焼いているのさ。ま、この時期を逃すと干したヤツか塩漬けにしたヤツしか食べられないよ。お嬢ちゃん、お安くしとくから一つ買っていかない?」
まぁ、お嬢ちゃんですか。賢者様といわれるよりは悪い気はしませんので試しに二つ買っていきます。
「まいどあり」
店主に銅貨を二枚渡し串に刺した魚をいただきます。
そのうち一つを食べてみると素朴で淡白な味がします。淡白すぎるので少し調味料でエッジを効かせた方が良い気がします。この焼き魚には塩とこの酸味の強い柑橘類の果汁をかけて食べて見たいところです。ハーブでざっくり味付けするのもイケル気がします。そんな空想を膨らませられるような素朴な味でした。この魚は骨ごと行けるのですぐに食べおえてしまいました。
「こういうのでも結構満足します」
もちろん、もう一つの魚をメイドさんに渡して食べるのをじっと観察する事にします。やはり少しずつ食べている様ですが、こういうのががっつりむさぼった方が良いと思うのです。しかし少しずつ食べていく様子が面白いのでじっと眺めております。なぜかメイドさんがこちらを少し睨んでいるような気もしますが恐らく気の所為でしょう。
肉と魚が胃の中に収まると脂分が強すぎるので口直しの果物を一つ所望しようかと思い、次は出店ではなく果物屋さんの方に向かって行きます。果物屋には林檎、蜜柑、葡萄と言う定番の果実から何と呼ぶのか分からない見たことの無い果物が並べてありました。名前を根掘り葉掘り聞きいていたいところですが、時間を掛けてる余裕もないことですのでその中で『これを食べて見たい』と思ったもの一つ選らんで取り上げてみます。それは黄色みがかった青色をした丸い小さな果物でした。店主によればこれは蜜柑の仲間で酸味の強い果物らしいです。名前はなんと言ったでしょうか……少し思い出せません。思い出せないだけで忘れたわけではです。
「これを一皿ください」
「はい、銅貨三枚ね」
お金を払って一皿買ってみました。皮ごと食べられるらしいのでガブッと食べて見ます見ます。
「……最初に苦味が来ました。その後甘味が口の中に広がっていき、その後、酸味が鼻から抜けていきます」
少し癖になりそうな味ですが、そんなに食べられる代物ではないようでした。メイドさんにも一個薦めたのですが完全に遠慮されてしまったので残りは持ち帰る事に致します。しかし、これを絞って魚にかけるとイケそうな気がします。
それでは次はメイン料理を探すことにしましょう。今から本気を出して良い匂いを探すことにします。私の長い耳はピンと立てると一昼夜離れた距離の音を聞くことが出来るのですが、それと同じように鼻腔をすっと持ち上げると遠くの匂いも嗅ぎ取る事が出来るのです。ただし嗅ぎ鼻を立てるといろいろな匂いが混乱してしまい、時には変な悪臭を嗅いで仕舞い吐き気をもよおすのが欠点なのであまり使うことはありません。この力を解放するのは諸刃の刃なのです。百年程前に、うっかり十年ぐらい放置してあったゴミ箱の匂いを嗅いでしまったときは数日ほど寝込んでしまいました……。閑話休題。嗅ぎ鼻を立てると一際目立つ芳ばしい匂いを感知したので鼻をクンクンしながら匂いをたどっていきます。これは素晴らしく美味しそうな匂いの予感がします。恐らく香草と肉を閉じ込めた匂いです。見る前からよだれがあふれ出してきます。これは辛抱たまりません。ただし今は賢者様なので欲望を顔に出さない様に注意します。
匂いをたどっていくと大きな
「これは幾つかの香草を織り込んだ岩塩焼きです」
メイドさんがそう申しております。大きな肉塊に香草を揉み込み岩塩で包みこんでじっくり竈で焼きあげたものだそうです。
「手間がかかる分高いんですよね。贅沢に塩も使っていますし……」
贅沢と言うことは塩は、この辺りでは手には入りにくいモノなのでしょうか……。
お店の方を見てみると丁度お肉が焼き上がった頃の様で竈の中から大きな塩の塊が出てきます。塩の塊を調理人が小槌を振り上げて叩き割ると塩塊の中から肉塊が出てきます。肉塊が顔を見せると芳ばしい代わりがその場に充満していきます。形容しがたいですがすごい高揚感を感じます。
「まるで大地が割れて生まれ出てくる大地母神の誕生のようですね」
「その比喩は、詩的すぎて意味がわかりかねます」
「そうですか?里では割と使う表現ですけど」
その辺りは文化の違いでしょうか……それでは肉塊を丸ごと買って帰ることにしましょう。流石に一人で食べきれない量ですがここは思い切って買ってみましょう。
「オヤジ、その肉塊丸ごとください」
「これは極上の肉を使っているから一切れ銀貨一枚だよ。そうだな丸ごとだと金貨一枚かな。まぁ沢山の人に食べさせてやりたいから出来れば一人一切れにして欲しいな」
流石に金貨一枚は出せないですね。あの巾着は封印ですし……。それでは銀貨で二切れ買う事にしましょう。
「それでは二切れください」
しかしこの肉切れ一切れでもかなりボリュームがあります。そのままかぶりつくのは難しそうです。幸いな事にこの店には備え付けのテーブルと椅子があるので座ってナイフで切ってから食べる事にいたします。
「それではいただきます。メイドさんもお食べ」
「良いのでしょうか、私がこのようなモノをいただいてしまって」
「これもお仕事ですよ」
「どうやらその様ですね。賢者様は話を聞いてくれないようですし……」
「……えっと」
何のことでしょうか……それは良いとしてお肉を食べる事にいたします。
「ん、これは肉の旨味が凝縮されてます。ほのかに香る香草とそして塩とスパイスのハーモニーがいけております」
簡単に言うと美味しいです。これを食べきってしまうと流石にお腹一杯になります……メイドさんが食べるのを観察するのも忘れませんよ。賢者としてのお務めですから。やはり眼福でした。
「いやぁ堪能いたしました」
「このような高価な食べ物をいただいてとても恐縮です。これはもったい無いおいしさです」
「いえ、こちらも十分満足いたしましたので」
「賢者様、それは何のことでしょうか?」
それはこちらの話です。そろそろお腹も膨れましたの〆にすることにします。
最後は食後のデザートです。
「果物は食べますので少し変わったお菓子が食べたいですね」
ニコリと微笑んでみせます。メイドさんが首を振ってうなずいています。
市場の出店にはお菓子が並んだ区画がありまして子どもがうろうろして居ます。この国には子どもも居るのですね……。ここ百年ぐらいみた記憶がありません。そういえば自分が子ども時代はすでに忘却の彼方でした。
見た事の無いようなお菓子が沢山ならんでいますが、腹具合から選択できるのはただ一つです。焼いた芳ばしいバターのする焼き菓子も捨てがたいです。丸めてあげた団子みたいなようなものも捨てがたいところですが、奥の方で巨大な氷の塊が眼に入ります。
既に寒い時期なのに氷ですか……。
その氷の塊に近づいてみます。
店主が氷に取り付けた機械をぐるりと回すと細かいみぞれが皿の上に注いでいきます。皿に溜まった氷の上から液体をかけていきます。ほんわり甘い匂いがしていきます。その上に一口に刻んだ果物を載せていきます。
「これはなんでしょうか?」
店主に聞いて見ます。
「これは、かき氷と言うんだよ。あの北の方に高い山が見えるだろ。そこから取ってきた天然の氷で作った高級かき氷だよ」
確かに目をこらすと高い山が見えますね。そこからわざわざ氷を取ってきたのですか……。氷精に頼めば水は凍りますよね……。
「高級ですか?」
「氷河から切り出した特製の氷だ。何万年も前の氷だとか。これを溶けない様に運んできたヤツだ。だから当然高いのさ」
「それ幾らでしょうか?」
「銀貨一枚だよ」
「それでは二皿ください」
かき氷をいただくことにします。口の中に冷たさと甘さがが広がってきます。後から頭がツーンとします。しかし高級と言うだけあって確かに美味しいです。特に氷がきめ細かく、口の中でつるりと溶けていきます。
「んーこれは頭にきますね」
と言いますとメイドさんが何か笑っているようです。そこでメイドさんの口にこの氷を差し上げる事にしました。
「んんー」
メイドさんも頭ツーンとしたようです。
しかもかき氷にかかった液体の甘味は砂糖の様に尖っていません。蜂蜜の様にクドくもあらいませんし、甘味を極めた果実の様にクドくもないのです。後に引かない上品な甘さがありました。どうやら聞いて見ると
お昼を十分堪能しましたので少し休憩することにいたします。その間、行き交う人々を観察することにしました。隣でメイドさんがくたびれた様に休んでいます。本人はくたびれていないようなフリをしているようですが、こちらからはすぐ分かります。メイドさんの疲れがとれたらお買い物の続きをすることにいたしましょう。
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