クリスマス☆さぷらいず
風花てい(koharu)
第1話
彼女と結婚したい。
そう思った直後から、僕こと伊佐美克夫は、プロポーズを成功させるための計画を練り始めた。
彼女に『イエス』と言わせるためには、なによりもまず、そう言いたくなるような場面作りが大切だろう。そう。まずは、思い出す度に、お互いへの愛情で胸がいっぱいになって心が温かくなるような時間と場所を用意する必要がある。そこで、とっておきの愛の言葉を添えて彼女に指輪を捧げる。そうすれば、彼女は、大喜びで僕の求婚を受け入れてくれるに違いない。
では、具体的に、どうするか?
とりあえず、5W1Hで考えてみた。
ちなみに、5W1Hとは、情報伝達時に必要とされる6つの要素で、When(何時?)、Where(何処で?)、Who(誰が?)、What(何を)、Why(何を)、How(どのように?)の頭文字である。
『誰が?』と『何を?』は、今さら考えるまでもない。
『誰が』が僕の母親であったりすることはありえないし、『同僚をメシに誘う』とか『彼女に電話をかける』程度のことでは、時間をかけて頭を悩ませる意味がない。『僕が』、『彼女にプロポーズする』のである。
『何故か?』も明白だろう。『彼女が好きだから』だ。
となると、残りは、『何時?』と『何処?』、そして『どのように?』である。
では『何時?』と考え始めてすぐに、僕には、長い時間をかけるだけの心の余裕がないことに気が付いた。僕の彼女への愛情は――この胸にたぎる熱い想いは、活火山の中でうごめく灼熱の溶岩のように、彼女との『結婚』という噴火口に向かって、今にも爆発寸前なのだ。これ以上、この情熱を秘めたまま彼女と付き合い続けることなど、不可能だ。
それに、彼女を狙っている男は多い。僕が時期を待っているうちに、他の男が彼女に言い寄ってきたりしたら、どうする? そんなことなったら、僕の心のマグマは醜い嫉妬の業火に変わり、相手の男どころか、彼女をも焼き殺してしまうかもしれない。
こんな精神状態で、どうして桜の開花や海開きを待つことができよう? ましてや、紅葉の季節など、つい3日ほど前に終わったばかりではないか!
ならば、やるのは今しかない。僕は、心に決めた。
寒風吹きすさぶこの季節に、僕のこの熱い想いを彼女にぶつけて、ふたりで芯まで温まるのだ!
時期が決まったら、次に決めるべきことは場所である。
彼女にプロポーズする場所は、『何処に』したらいいだろう?
場所は…… ああ、そうだ。いつだったか、東京の茅蜩館(ひぐらしかん)ホテルの横を通りがかった時に、『私、一度、ここのクリスマスディナーを食べてみたいのよね~』と彼女が話していたことがあったっけ。あそこなら、きっと彼女も喜ぶに違いない。
僕は、さっそく茅蜩館ホテルに予約の電話を入れた。それなのに、なんということだろう! 電話口に出たお姉さんは、非常に申し訳なさそうな口調で、クリスマスディナーの予約は定員に達したので終了したと、僕に告げた。
だが、『締め切りました』と言われたぐらいで諦められるわけにはいかない。僕は、あらゆる伝手を頼って、どうにかこうにか2人分の席を確保した。予約日は12月21日。クリスマスでもイブでもない日なのは残念だが、料理の内容は同じだというから我慢することにした。それに考えようによっては、彼女の喜ぶ顔を見るのが数日早くなるのだから、それはそれで、めでたいことである。機嫌を直した僕は、同じ日に宿泊の予約も入れた。ディナーの後、彼女と甘くて熱い夜を過ごすためだ。
これで準備万端!
……と言いたいところだが、最後に一番大事なことを決めなくてはいけない。
『どのように』して彼女にプロポーズするか、である。
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