年上の彼はぼっち

蒼風

prologue 「彼女は現状に悩んでいる」


「暑い…」


彼女はとりあえず呟きながら、天を仰いでみる。雲がひとつもない。


彼女が今いる場所はこの学園都市、蒼燿(そうよう)の中心部のとある公園。


歩いても立ち止まっても出る汗の量は一緒なんじゃないかと感じるくらいの稀に見る暑さであり、とりあえず彼女は公園の自販機でお茶を買って、ベンチに座っていた。


ほぼ毎日同じ道を歩いているのに、何故か今日は長く感じる。


それだけ暑さに体力を奪われているのだろうか。


とりあえず、缶のお茶がぬるくなる前に急いで喉に流し込みながらベンチを後にする。


「帰ろう」


誰が聞いてる訳でもない独り言を放ち、彼女は公園を後にした。



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「テストどうだった?」


暑さを乗り越え、ようやく着いた我が家。

部屋に戻り、着替えるのが億劫だった彼女は制服姿のまますぐベッドに横になる。


おもむろにスマホの画面を見ると、1件のメッセージが来ていた。


彼女は差出人を確認するまでもなく、直ぐに返信の態勢に移る。


「ギリギリだったけど、大丈夫!」


彼女は、メッセージを送りスマホを机の上に置いた。


メッセージの返信はこれで良かったのだろうか?

自問するが、自答する事ができない。


ため息を吐きながら、ふと窓の外に目をやる。

相変わらず、空は雲ひとつない綺麗な水色をしていた。


とりあえず、帰宅中でかいてしまった汗を流す為にシャワーに入る事にした。


「あらー?由南。帰っていたのね。」


脱衣場で制服を脱いでいたら、ドア越しに母の声が聞こえてきた。


「あ、今日から一週間テスト期間だから帰るの早いって言ってなかったっけ?ごめんごめん。」


「あれ、今日からだったのね。OK、わかったわ。とりあえずお風呂上がったら遅いけど昼ご飯にしましょう。」


母はわざとらしくビニールの買い物袋をがさがさ鳴らし、鼻歌を歌いながら脱衣場から離れていった。


彼女は言われてから昼ご飯を食べてない事に気がついた。


あぁ、暑さのせいだ。



----------



家の電話が鳴った。

スマホの普及率に反比例するように、固定電話はほぼほぼ見かけないようになってしまった今の時代。でも一家に1台はあるのか。



母は、夕食の後片付けを一時中断し電話に出ることに。彼女がその代わりに後片付けをする形となった。


「.......」


いくら家族であったとしても、会話は無闇に詮索するものじゃない。


自分に関係ある事なら、母が言ってくれるだろう。


彼女はひとまず食器を洗うことに意識を集中させた。


「由南、ありがとう。終わったらちょっといいかしら?」


母は、彼女に微笑みながら彼女の元に戻ってきた。


どうやら自分に関係ある話らしい。

どういう話なのかは見当がつかないが。


母と自分が使った食器を洗い終わり手を拭きながら、さっき夕食をとっていたテーブルの位置に戻る。


「大事な話なんだけど…」


さっきの微笑みがこの時には無くなっていた。


彼女は母のその一言で、今から話す内容の重みを感じ取る事が出来た。


「家庭教師を家で雇うことになったわ。」


...ほう、家庭教師ねぇ。


え、誰の?


「由南に決まっているでしょう。」


色々と突っ込む所はある。

なぜ急にそんな話になったのか。とか。


とりあえず、帰り道が長かったのは暑さというよりもこれが原因だったのかもしれない。


昼間の青空と打って変わって、綺麗な夜空がリビングの窓から垣間見えた。

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