第5話君を迎えに

 僕は君を迎えに行くために車を走らせる。中古のアコードワゴンは、日曜日の夕方の混雑した道を苦しげに走る。


 家の前に着くと、君を電話で呼び出し、そして助手席に座るなり、セブンスターに火をつける君。


 僕らは、いつものショッピングセンターへと向かう。


 君がじっと前を見ながら煙を吐き出す様が、僕の横目に入り込んでくる。ついでにいらいら顔も。


 僕は黙って運転をする。


 君はひょっとしたら、戸惑っているのかもしれない。僕が家まで迎えに行くのなんて、随分と久しぶりのことなのだから。君がいらいら顔をみせるようになって以来か。


 とりとめのない会話すらなく、ショッピングセンターに着き、車を降りた僕らは無言で歩きだす。


 手を繋いで歩いていた日を遠くに思い出すが、懐かしんでいても仕方ない。この五十センチ位の距離が今の僕らの現実なのだから。

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