第2話気になる猫
日曜日、君といつも通りにショッピングセンターへ。
相変わらずケージの猫を優しそうな顔で見ている君。
僕には向けなくなって久しいその顔を、少しでも長く見ていたいがために、僕はそっと君の後ろに近づく。もちろん、後ろに立ったら見えないが、君の優しそうな雰囲気だけでも近くから感じていたい。ストーカーみたいな感じがして、少し気が引けるのはしょうがない。
積まれたケージの上段真ん中にいる、君のお目当ての猫は、僕らに見られているのも気にせず、すやすやとお休み中だ。
『ロシアンブルー♂生後6ヶ月』。そのあとに続く値札は三十万円が十五万円まで値引きされていた。猫には詳しくないので、ブルーってつくほど青くないんだなと不思議に感じる。いや、どちらかといえば、グレーのような気がする。ロシアングレーじゃ駄目だったのかとくだらない考えが頭を巡ったが、それはさておき、この猫は子猫ではなく、もはや成猫では? と疑問に思う。それに若干太ましいような。ケージが窮屈そうだ。高貴そうな名前の割には、顔もちょっと……。だから値引きされているのかもしれない。
ふと、どうしてこの猫を気に入ってるのかと疑問が浮かんだ。他のケージにはもっと小さくて、可愛らしい猫がいるにも関わらず。ショッピングセンターで猫のケージに張り付くようになったのは、この猫を見つけてからだ。他のロシアンブルーには見向きもしていない。何か思い入れでもあるのだろうか? 例えば、昔飼っていた猫にそっくりとか。だが、この四年間でそんな話は聞いたことがない。この猫に御執着なのだ。いったい何が。
「この猫が好きなんだね」
またもや顔芸発動で、あっという間にいらいら顔へ。
「別に」
そして、変わらず素っ気ない返答で君はケージを後にした。
立ち去った後も、僕はケージをみつめていた。お前の何が僕の見れないものを引き出すのだろう。おい。寝てないで教えてくれよ。
僕の願いを聞き入れた訳ではないだろうが、猫は薄っらと目を開けて僕を見た。そして、一あくびして、何事もないように眠りについた。
「早く!」
短く小気味良い叱責に、僕もケージを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます