第36話 橙と藍に挟まれて
「いいよ」
フェイの提案した休戦。
それは本来こちら側から持ち掛けようとしていた案件だ。先を越されてしまった。
リアはあっさりとそれを受け入れた。
「休戦協定成立だね」
フェイがにっこりと笑う。
「おい。魔皇についての情報を教えろ」
ダーシュがただ淡々と確信に迫る命令をする。リアはなんて答えるつもりなんだ。ノウトは固唾を飲んだ。
「ごめんね。それは教えられない」
「は? 何言ってんだ?」
ダーシュは一歩足を踏み出して威嚇するがそれをニコとパトリツィアが制止させる。
リアは臆することなく話を続ける。
「私もみんなと同じように今までの記憶がないの。それで何で自分が魔皇の協力者か分かったかって話なんだけどこの〈ステイタス〉に『魔皇直属兵』って文字が書いてあったからなんだよね」
もちろん嘘だろう。その事実をノウトだけは知っている。
「なるほどねぇ……」
フェイは自らの顎に手を当てて目を細める。
「それしか分からないからそもそも勇者を倒そうなんてことも考えてなかったよ」
「チッ。そういうことかよ。それ本当だろうな」
ダーシュが舌打ちをする。
「本当だよ。って言っても他の人に見せたくても自分の〈ステイタス〉は見せられないからあれだけど」
「じゃあリアは偽物の勇者ってことか?」
黙って傍観していたナナセが口を開けた。
「でも現に〈
カミルが肩を竦めながら言う。
「そもそも勇者って何なの?」
アイナがナナセに問う。数秒の沈黙が続き、ナナセが口を開く。
「……分かるわけないだろ。異能力を持って魔皇を殺せと命令された記憶のない人間、それだけだ」
それを聞いてみんな黙ってしまう。
ここにいる『勇者』と呼ばれる人間達はどうしてみんな記憶がないのか。以前はどこにいたのか。どのような基準で選ばれたのか。
そのどれもが分からない。
しかも、それらを考えようとすると酷く頭が痛くなる。
まるで考えるのをやめるように頭痛が続いた。
静寂を破るようにフェイが笑顔で、
「ごめんね、みんな引き止めて。風邪引いちゃうからそろそろ宿に向かおう。竜車騎手の皆さんも付き合わせてすみません」
フェイがウルバン達に頭を下げる。ウルバンは「いえ」と首を振る。
「じゃあ、行こっか」
「ってあれ? そういえばテオは?」
「あっ忘れてた」
アイナがヴェッタの頭を撫でながら泡を食ったような顔をする。
「おぉぉぉぉいテオぉぉお。もう行くぞ〜!」
ナナセが口に手を当てて大声で呼ぶ。
「分かったああああああ」
と遠方から聞こえるが暗くて良く見えない。
ようやく宿へと向かえる。
しかし、リアが魔皇の手先と誤解された中で俺が「魔皇を倒さないでくれ」なんて頼めるのか? それこそリアに操られてるとか脅されてるとか言われそうだ。……なんて思ってる場合じゃあないのは分かってるよ。いつまで足踏みつもりだよ。とにかくやらないとヴェロアや魔人のみんなが危ない。
宿への道中は個々のパーティそれぞれが距離をおいて歩いていた。
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