第30話 人殺しの勇者
選択肢は大きく分けて2つある。
まず『有無を言わさず、フェイを《
これが一番手っ取り早いのだが、フェイについての情報も得られないし、そして勇者を極力殺さない、というリアとヴェロアと決めた方針を早速蔑ろにすることになってしまう。
何よりフェイの〈|神技《スキル〉も未だ不明なのに無闇に突っ走れるほどの勇気は持ち合わせていない。流石にリスキー過ぎる。剣を適当に投げてコリーの胸に命中させて即死させるという意味不明な行為全てがフェイの〈
二つ目の選択肢は『フェイにコリーを何故殺したか言及する』だ。
これが最も無難で常識的な回答だ。
唯一この選択肢に心残りがあるとすれば、ここでフェイを殺すチャンスを失ってしまう、ということだ。
ノウトは勇者を殺さない方針ではあるが、それは対象がヴェロアに肉薄し、彼女に危険を及ぼすと分かったなら話は別となる。
フェイは危険だ。
おそらく勇者殺人未遂犯であるコリーのことをここで聞いてしまい、殺すに至ったのだろう。
だとしても勇者の敵だと分かったからすぐに殺す、なんて直感的で単純な行動は絶対普通ではない。異常だ。
ここで殺さなければ、もうチャンスは訪れないかもしれない。
今こうしてレンやミカエル達の前でフェイを殺したとして誰もノウトを咎めはしないだろう。
仕方ない、で済ますはずだ。そう信じたい。フェイは被害者であるミカエル達でさえも見逃したコリーを目の前で殺した。
その仕返しでノウトがフェイを殺す。
余りに順当で正当な理由だ。
そこで一つ目の選択肢を実行しようと考えてもみるがやはりリスクが高い。
自分が死んだらもうどうにもならない。
頭の中で試行錯誤すること僅か3秒。
フウカとエヴァは目の前の惨劇に耐えきれなかったのか膝を着いてしまう。
唖然とするノウト達の中で、静寂を破るように、
「お前は自分が何をやったのか分かっているのか?」
フェイに聞こえるかギリギリの声量でレンが呟いた。
今までに見たことが無いほどに彼は怒りを露わにしていた。
ピリピリと肌で感じ取れるほどの憤怒だ。
「何をしたって、見れば分かるでしょ? レンくん」
「お前こそ俺の言ってる意味が分からないのか?彼を、コリーを殺す必要なんてなかった。お前がしたのはただの殺人だ」
「いやいやいやいや。ははっ。それじゃあ教えてあげよう。彼は魔皇の手先だ。おれは君らを助けてあげたんだよ?」
フェイはつらつらと、そして笑顔を崩さずに話を続ける。
「いいかい? 思い出して欲しい。おれらを導いた奇妙な男が先日言っていた『勇者の手先、協力者がいる』って言葉。それってさ、明らかにその少年のことだよねぇ? だって君らはその子をあの場からずっと匿ってきたんだから」
「……た、確かに……その可能性もなくはないっ……すね」
スクードが狼狽えながらも相槌を打つ。
なるほど。
フェイはここでノウト達がミカエルにコリーのことを説明したのを聞いて確信に至ったわけだ。
確かにその理論を信じれば『勇者の中に裏切り者がいる』という事実に目を瞑って安心することが出来る。
もちろん、
しかし、当然間違っていると指摘することは出来ない。それを指摘することは自らが魔皇の手先、もしくはそれを知っている人物だと言っているようなものだからだ。
「うんうん、なるほどねぇ。まぁおれに感謝して欲しいくらいだけどさ。君らはまんまと敵の手中にあったってわけなんだよ」
「彼に敵意があったなら、昨晩ノウト達は全員彼に殺されているはずだ」
そう言ったのはミカエルだった。
その赤い双眸でしっかりとフェイを見ている。
「じゃあ、勇者の中に魔皇の味方がいるって方を信じるわけなのかい?でもそれって誰も得しないよね。誰かも分からない裏切り者に怯え続けるよね、そうだよね」
「……僕達がそう思うことでコリーの意思は尊重される。彼は僕に……謝りたかっただけなんだ。フェイ、君は何処かおかしいよ」
「よく言われるなぁ」
「でしょうね」
シャルロットが腕を組む。その声音には怒りと失望、その両方が込められていた。
「あなたは殺人を犯した。勇者失格、いえ人間失格よ」
「うっわ。おれが完全に悪い流れ?困ったなぁ。まぁ知ってたけど。ははっ」
「こんな時でも笑うんだな、お前は」
ノウトは呆れたように話した。
「そりゃ当然。笑って何か不利益があるのかな?」
決めた。
こいつは殺す。
相手の〈
そんなもの知るか。
殺すよ。
殺してやる。
フェイ、お前は生きてちゃいけない。
コリーの生を無下にするようなお前は、俺が。
ノウトがフェイに向かって歩み出そうとしたその時だった。
眩い閃光と耳を劈くような大きな音。
そして身体が吹き飛ばされそうな程強烈な突風がその場に巻き起こったのだった。
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