episode4

「凄い生徒会長だったね」


 隣を歩く姫百合がそう切り出してくる。

 悠人達は現在、各教室に向かっていた。


「あぁ、まさか入学早々に異能の干渉を受けることになるなんてな」


「うん。でも凄いのは会長だけじゃなくて悠人くんもだよ」


「俺?」


「そう!だって会長の異能を干渉しても顔色一つ変えずにいたでしょ?」


「まぁ、異能の探知が出来てたからな。事前に分かっていれば対策のしようもあるってことだ」


「うーん……それだけじゃあれは防げないと思うんだけど……」


「そ、そんなことより、あの会長の名前……確か四皇帝っていってたけど」


 あまり詮索を入れられても困ると判断した悠人は強引に話題を変える。


「そっか!悠人くんはこの辺の人じゃないから詳しくないんだよね。悠人くんの想像通り生徒会長はこの学院の創始者、四皇帝家のご息女だよ」


「やはりか……まぁあんまり関係ないか」


「えぇー?悠人くん。案外、生徒会長の目に止まるかもよ?」


「やめてくれ。俺は面倒ごとが嫌いなんだ……っとここが一年の教室だな」


苦い顔をしながら姫百合の言葉を否定する悠人。

雑談しているうちに目的地へと到着した。


「ほんとだ!えっと……全部で三クラスみたいだね」


 階段で三回まで上がると長い廊下に手前からAクラス、Bクラス、Cクラスの順に並んでいた。


「えっと……私はAクラスだけど悠人くんは……」


「なぁ」


 と姫百合がそこまで言いかけたところで不意に横から声がかかる。

 声の方を向くと金色の髪を短く切り揃えたどこか育ちの良さそうな雰囲気の青年が立っていた。


「お前、Cクラスだろ?」


 青年はビシッと悠人の方を指差してそう告げる。青色の瞳が悠人を捉えている。その目つきはやけに鋭い。


「あぁ、そうだが」


 悠人は特に気にした様子も無く答える。


「そうだよな!そのブレスレットの色……黒色はCクラスのだ」


 そう言って悠人を指差す右手は悠人の左手首に狙いを付ける。

 それにつられるように悠人も自分の左手首に付けているブレスレットを注視した。


 このブレスレットは学院から支給されるもので生徒全員が付けることを義務付けられている。

 ブレスレットには様々な機能が搭載されており、付けている生徒の学籍番号や本人照合をする為の機能などがある。

 またこのブレスレットで一番重要な機能と言えるのは、使用者の異能の抑制である。

 演習などで校内での異能の使用は許可されているが、生死に関わる程の威力を出すことは許されていない。

 そこで人間に害が及ぶ程の威力数値がこのブレスレットで検出された場合、即座に警報が鳴り、生徒会や先生へ知らされるようになっているのだ。


 それ以外にも先程出た通り、ブレスレットの色でクラスがわかるようになっている。

 Cクラスは黒色

 Bクラスは赤色

 そしてAクラスが……白色だ。


「それでCクラスがどうしたんだ?」


 悠人は自分がCクラスだと言うことに特に気にした様子も無く、青年に話しかける。

 すると、金髪の青年は次の瞬間、まるで人が変わったように悠人を睨みつけた。


「は?Cクラス風情がAクラスのこの俺と姫百合さんに馴れ馴れしく話しかけるなよ!」


「え?」「は?」


 悠人と姫百合は青年の言葉が理解できず、そんな気の抜けた声を上げる。


「姫百合さん。こんな落ちこぼれ供と会話などしてはいけません。さぁ、早く教室に入りましょう」


「落ち、こぼれ……?」


 未だ理解が追いついていない姫百合は彼の言葉を反芻する。


「そうです!こいつらはお情けでこの学院に入れただけ……ですが私達は実力で入学を許されたエリートなのです!」


 そう言って高らかに両手を挙げる金髪。


「……」


 悠人は無言で辺りを見回す。

 すると教室の前で溜まっているAクラスと思しき生徒達はクスクスと笑いながら或いは軽蔑した眼差しでこちらを見ており、Bクラス、Cクラスの生徒達は自分達は関わるまいとそそくさとこの場から離れていった。


「そんな!同じ学院の生徒じゃないですか!」


 しかし、姫百合は納得できない様子で金髪の青年に抗議する。

 青年はそれを疑問に思った様子で姫百合に問うた。


「何を仰ってるのですか?姫百合さん。俺達とこいつらは同じでは無いんですよ?何故なら既に格付けが済んでいるんですから」


「え?」


「なるほどな」


 そういうことか、と悠人は理解する。

 この三クラスに分かれた制度、それをブレスレットの色で判断するようになっていること。

 全ては生徒の実力の格付けをする為に行われていたのだ。


 故にAクラスの、金髪の彼は自分達の実力はBクラスとCクラスには劣っていることなどあり得ないと断言出来たのである。

 そしてそれを決定づけるようにあんな言葉を……”落ちこぼれ”とそう呼んだのだ。


「でも!……」


 姫百合がまだ何かを言おうとするが悠人はそれを手で制する。


「分かった。俺はこの辺の者じゃ無いからそういった制度のことはよく知らなかったんだ。次からは気をつける」


「悠人くん……」


 姫百合は心配そうに悠人の顔を見上げる。


「ふん……次は無いからな。とっとと失せろ」


「ああ、すまなかった」


 そう言って悠人は廊下を歩き、Cクラスの教室へ向かった。


「ま、まって!」


「……」


 後ろから姫百合の声が聞こえてくる。

 悠人は一瞬足を止めるが、振り返ることなくまた歩き始めていった。

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