第7話 タイミング
そんなことがありながら、ようやくそれぞれの種目の代表を決め終わった境たち。
今は、休み時間である。休み時間といっても、次の授業の準備をしたりするためなので10分しか時間がない。
それでも本来なら、それぞれのグループでまとまり話題に華を咲かせるはずなのだが……。今のクラスは、ほとんど席を立っていない。ほとんどの生徒が溶け始めたアイスのようにに各机に張り付いている。
ただ種目を決めただけだというのに、みんな最終ラスボスでもと戦い終わった戦士のように疲れた顔をしていた。
その理由は、このジョブ戦祭には全員参加しなくてはならないからだ。そのため、種目と各【
それは思ったよりもきつい。なにしろ、長距離とか疲れるのはみんなやりたがないし。でも簡単な種目は人気でよくかぶってしまう。
けっきょく、白熱した討論を投げまくった結果がこのありさまだった。
境はびっしりと白いチョークで名前やら種目やらで書き埋め尽くされた黒板の前に立った境は、それを見上げながら(俺ら、すげぇ頑張ったよな)と。謎の達成感に浸ってみる。
(いやぁ、だってよ? こんなに種目があるとか知らなかったし。変な種目も混じってたし。『自分の担任の先生を褒めちぎり対決!』とか、何なんだよ。ぜってぇあの教師たちが褒められたいだけだろ)
そもそも、
その髪を視線で追うと、教卓になめくじのように張り付き、体全身で疲労を表現している真歩がいた。
体を干しているお布団のように投げやりに張り付いている。なんとなく、いつもの赤いリボンも平べったくなっているような気がする。
教室の窓から入る風が、真歩の髪を優しくなでていた。
境は、一瞬声をかけようと迷ったが。結局、声をかけてみる。
「……おーい。マフ? 生きてるか?」
「ぅにゅう……ぬ? キョウ君ー? どしたのさー?」
真歩は、ゆっくりとした動作で目をこすりながら。首だけを動かして境を見上げる。
「いや、なんか死んでたから。一応、声かけといただけだ」
そうそっけなく言ってみると。マフは力を入れずに、ふにゃぁと柔らかな笑みを浮かべた。
「えへへ。キョウ君心配してくれたんだぁ? 優しいね、キョウ君。ちょっと……ううん、すごく嬉しいなぁ」
「……」
「あれ? なんで目をそらすの? ねぇねぇ。ちょっとキョウ君?」
「う、うっせぇ。顔を覗こうとすんな。ほら、さっさと立ちやがれ。次、移動教室だから。準備してこいよ」
「…………」
強引に顔を覗こうとすり寄ってくる真歩を、両手で抵抗し撃退しようとする境。しかし、意外にもしぶとい。なぜか真歩の目が
かと言って、本気で攻撃するわけにもいかないし……。そう焦りながら考えている間にも、どんどん真歩が近づいて、どんどん境は後退していく。
「ちょ……、だから次は移動教室だって! ほら、もう教室だれも居ねぇじゃん! しぶてぇ! さっさと諦めろよ!」
「はは。その言葉、そのまま返すよ。さぁさぁ諦めて顔をさらすんだ、キョウ君! そしてこのボクの健気で遠回しの告白ともとれる言葉を聴いて『ああ! なんて可愛いんだ! 天使のようだ! こんな女の子が幼馴染だなんて、俺は俺はぁ……! だぁいすきだぁあああああああ!!』という表情をしている顔を見せるんだ!」
「どんな顔だよそれ!? それにんなことまで思ってねぇし! あ……っ。クソ、壁が……もう下がれねぇ……!?」
そこで、ガララ……バン! と突然教室の扉が大きく開かれた。
そこに立っていたのは、煌めくような紅い髪を頭の両側で結んだツインテールのサンライズ・ルナだ。ルナはその強気そうな目をルビーのように輝かせ、誰かを探すように教室を見まわしながら声をあげる。
「キョウぅー! ジョブ戦祭の決まったかしら! いや、別に、キョウが何を出ようとも私には関係ないんだけど……べ、べつに、応援なん………………」
そこで言葉が切れる。
そのルビーの目が境をとらえていた。
真歩とくっついた境が。
ハッとして固まる境は壁に追いやられていて、そんな境を拘束するかのように、両手と腰に腕を回したまま固まる真歩。それに、真歩は境の顔を見ようとして、やけに距離が近かった。
「……」
「……」
「……」
静寂。
永遠ともとれるような、なんとも気まずい空気がそこに流れていた。
そして。
「そんな……まさか、そこまで……」
「「⁉」」
「ごめんなさい。こういうの間が悪いっていうのよね。それじゃ……楽しんで……」
「あ!? ちょ待ちやがれなんか誤解してるだろ! おい、静かに出て行こうとすんな、ルナァ!?」
「いいの、わかってるわ。私だって……そこにいたかった……。でも、一番大切なのは。キョウ、あなたの幸せだから……ぅ、うう。ぐす……」
「待つんだ、ルナちゃん! すごく誤解してる気がする! 確かにボクはそうなったとしても全然問題ないどころか、逆に嬉しいかもでライバルも減っていい事ばかりで……あれ? もうこのままでいいんじゃないかな?」
「お前は一回黙れ」
腰に絡みついてくる真歩の手を適当に「ペイ」と払い落としながら冷酷に告げて、涙目のルナに説明をしだすのであった。
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